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第4章 更なる不調と対策
25話・仄暗い歓び
しおりを挟む炎と雷が融合した強力な攻撃魔法が空間を埋め尽くし、一度に弾ける。
勝手に発動した魔法に戸惑い、真っ青な顔で創吾の身を案じる諒真。
こうなると予想していた創吾は特に驚くこともなく上半身を起こし、両手を広げた。バッと周囲を取り囲むように無数の防御盾が展開する。幾重にも重なる防御盾で作られた小さなドームによって周りの一切が見えなくなった。
次の瞬間、激しい衝撃と破裂音が響き、防御盾のドームが軋んだ。至近距離で攻撃魔法が炸裂したのだ。ピシッと乾いた音を立て、ひび割れていく防御盾を諒真は茫然と見上げている。
「まともに喰らえば消し炭間違いなしだけど、防御に関しては僕も異世界随一ですからね」
パリンと砕け落ちた無数の欠片は地面に落ちる前に消えて無くなった。大きな街を破壊し尽くすほどの攻撃魔法を防ぎ切ったのだ。それだけではない。炎雷の熱や感電を痛覚遮断、全耐性上昇、基本ステータス全上昇によって全て無効化している。
「おまえ、最初っからこのつもりで……?」
まだ押し倒されたままの諒真が震える声で問い掛けると、創吾はにっこり微笑んでみせた。
「ええ、諒真くんをびっくりさせるために色々考えてみたんです。ここ数年はお付き合いしてる人もいないって聞いたので、こういった趣向はどうかと思いまして」
悪びれもせず答える創吾に対し、諒真は盛大な溜め息をもらした。
「……ったく、おどかすだけなら他にも方法があっただろうが」
「だって、こんな何もない空間じゃ小道具も用意出来ないですし、身ひとつで出来ることなんて限られちゃいますよ」
「だからってこんなの──」
その時、パッと真っ白な空間からマンションの部屋へと場所が切り替わった。創吾の魔力が尽き、空間を維持出来なくなったからだ。
「さっきの応酬で一気に魔力を使い果たしましたね。まだ三十分しか経ってませんよ」
「あっそ」
腕時計を見て嬉しそうに報告してくる創吾を睨みつけてから、硬いフローリングの上で寝返りを打って背を向ける。自由になった腕でゴシゴシと拭い、唇に残っている感触を消し去った。
先に立ち上がった創吾が手を貸し、諒真をソファーへと座らせる。
「転移ぶんの魔力が回復するまでゆっくりしましょう。今あたたかい飲み物を用意しますね」
あんなことをしておきながら普段と全く変わらぬ様子の創吾に、自分ばかりが気にしているのもおかしいかと思い直し、諒真は黙って頷いた。
リビングの壁に掛けられた時計を見れば、まだ夜十時半を回ったところだった。部長の送別会やその後のゴタゴタで開始が遅かったのに、いつもより早く終わっている。
アレが無ければまだあの空間でちまちま魔力を消費していただろう。終わる頃には日付を跨ぎ、転移ぶんの魔力が溜まるまで待っていたら朝になってしまう。
それに比べれば、キスや身体を触られるくらい大したことではない……と、諒真は考えるようにした。
キッチンで湯を沸かしながら、リビングの諒真をカウンター越しに観察する。通常空間に戻ってきたというのにスマホをチェックすることなく、やや赤い顔で無意識に唇を触っている諒真の姿を見て、創吾は歓びに身体を震わせた。
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