【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢

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第4章 更なる不調と対策

23話・隠せない嫉妬

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 強い魔法を使わなくては魔力の消費が出来ない。このまま通常空間に戻れば周囲に様々な悪影響を及ぼしてしまう。
 しかし、うまく魔法が発動しない。

「ど、どうしよう」
「落ち着いて。慌てなくても、この空間にいる限りは大丈夫ですから」
「でも……」

 送別会やその後のトラブルで今回はいつもより遅い時刻に集まっている。そこから更に長引けば日付を跨いでしまう。自分の不調で創吾そうごに迷惑をかけ、長々と付き合わせてしまうと諒真りょうまは申し訳なく思っていた。

 一方の創吾は、そういった諒真の思考を理解した上で今後の方針に悩んでいた。
 省エネ効率化で魔力の消費が難しい上に強力な魔法へのトラウマもある。更に今回の件で心理的に制限が掛かった。いつもより魔力の消費に時間が掛かることは容易に予想が出来る。いくら明日が週末だとしても、無駄に時間ばかりを掛けていては身体を休められない。特に諒真は心労で疲れている。魔力の消費やらねばならぬことを早く済ませ、休息時間を確保すべきだと医師の立場で判断する。

 創吾が思考を巡らせている間、諒真はそわそわしながらポケットからスマホを取り出し、画面を眺めていた。ここは現実世界から切り離された空間。当然携帯電話の電波は届かない。それでも先輩社員からの報告メールを何度も見返してしまう。

「部長、大丈夫かな……」

 ぽつりとこぼれた呟きが、がらんとした空間に響いた。

「まだ気になりますか」
「そりゃ心配だよ」

 創吾の口調が沈んでいることに、いつもなら気付いたかもしれない。
 何を当たり前のことを、と言わんばかりに諒真は即座に肯定した。スマホをポケットに仕舞い直し、顔を上げると、先ほどまで離れた場所にいたはずの創吾が目の前まで迫っていた。驚いて仰け反った瞬間、背後で小さな爆発音が連続して起きた。弱い威嚇魔法だ。動揺した諒真が無意識に発動させたのだ。

「あ、あれ?」
「……なるほど。君が意識して使わなくても魔法は発動するみたいですね」
「そうみたい、だな」

 異世界にいる間は驚きの連続だったが、こんな風に勝手に魔法が発動した経験はない。器から魔力が溢れ、精神が不安定な今だからこそ起きる現象。

「では、始めましょうか」
「え、でも、オレ今魔法が」
「問答無用です」

 創吾は再び距離を取り、周囲に無数の防御盾を生み出した。『いつものように』盾同士をぶつけて飛ばすと、狙われた諒真が慌てて逃げた。魔法はまだうまく使えない。何とか走って襲い来る盾から逃れ、反撃を試みる。

「あっ……」

 最も弱い火弾が数個空間に出現するが、勢いよく飛んでくる盾に弾かれてすぐに掻き消された。続けて更に数を増やすが、これもすぐに消されてしまう。

「諒真くん、もっと強い魔法を使わないと」
「だ、だって」
「僕なら大丈夫。防御盾がありますし、もし傷付いてもすぐに治せますから」
「……治りゃいいってもんじゃないだろ」

 問答を繰り返しながらぶつかり合っているうちに戦いの勘が戻ってきたのか、火弾より強い炎弾が生み出せるようになってきた。もう少しでいつもの感覚が思い出せる。互いにそう感じ始めた頃、諒真の放った炎弾が数発防御盾の壁を掻い潜って創吾に直撃した。

「っ創吾!!」

 血相を変えて駆け寄ると、倒れた創吾は痛みに顔を顰めながら自身に痛覚遮断をかけ、治癒魔法を使って傷を癒していた。
 すぐそばに膝をつき、青褪めた顔で覗き込んでくる諒真を見てフッと笑う。

「心配してくれてるんですか」
「あ、当たり前だろ!……ごめん、あんな風に弾が動くと思ってなくて。痛かったよな」
「すぐに痛覚遮断したから平気ですよ。ほら、もう治りました」

 創吾は身体を起こし、元通りになった身体と服を見せて笑う。だが、諒真は今にも泣きそうな表情で「そういう問題じゃない」と小さな声で呟く。

 その顔を見て、創吾は仄暗い悦びを感じた。
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