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第4章 更なる不調と対策
21話・優先順位
しおりを挟む救急車が到着し、送別会の幹事である先輩社員が付き添いで乗り込んだ。既に部長の家族には彼から連絡を入れており、搬送先の病院で落ち合うことになっている。
「とりあえず、みんなは解散して。なんか分かったらメールするから」
「は、はい」
「お願いします」
部長を乗せた救急車を見送ってから、残された他の同僚たちと一緒に駅に向かい、それぞれ帰宅の途につく。口数は少ない。誰もが部長の無事を願いながら、最悪の結果を想像してしまっているからだ。
「坂木原さん、よく咄嗟に動けましたね」
「え……?」
隣を歩く同僚の女性が、重い空気を振り払うように話し掛けてきた。諒真がそちらに顔を向けると、彼女はぎこちないながらも笑顔を作って更に言葉を続ける。
「部長が倒れたあとの対応ですよ。救急隊員の人が褒めてましたよ」
「あ、ああ、知り合いに電話で教えてもらって」
「医療関係のお友だちがいるんですか。わたしの母も看護師なんですよ。そっか、電話して聞けば良かったんだ!焦り過ぎて思いつきませんでした」
「君だって、野次馬を追い払って救急車を誘導してくれたじゃないか」
「わたし声だけはデカいんで!……そんなことくらいしか出来なくて」
悔やむ同僚女性をフォローしながら、作り笑いの裏で気持ちが沈んでいくのを感じていた。
困った時に頼れるのは創吾だけ。
それなのに無理を言ってしまった。
先ほどのやり取りを思い出し、自分の身勝手さに呆れて溜め息を漏らす。
自宅に着いてからも、すぐに転移する気が起きず、リビングのソファーに寝転がる。行きたくないというより行きづらい。気まずい。
しかし、諒真の魔力は間もなく上限値に達する。これを超えてしまえば、魔力飽和状態で様々な異常が起きてしまう。
会ったらすぐに謝ろうと心に決め、諒真は創吾のマンションに転移した。
「諒真くんっ!」
「うわっ」
転移した瞬間、創吾から抱きつかれ、諒真は身体を強張らせた。びっくりし過ぎて心臓が痛い。戸惑う諒真をよそに、創吾は更に腕の力を強めた。
「さっきはごめん、冷たいこと言って」
まさか創吾のほうから謝られるとは思わず、諒真は慌てて腕を突っ撥ねた。だが創吾は離れず、諒真の肩口に顔を埋めたまま。
「そ、創吾が謝ることないだろ」
「せっかく君が頼ってくれたのに、僕にはその能力もあるのに、……本当にごめん」
繰り返し謝罪する創吾の背中に腕を回し、ぽんぽんと軽く叩いてやりながら、彼も不安だったのだと感じた。
「オレこそごめん。おまえにはリスクしか無いのに無理なこと頼んで」
その言葉に創吾は身体を離し、今度は両手で諒真の二の腕を掴んだ。間近から真剣な表情で見つめられ、諒真はまた身体を強張らせる。
「違う」
「え?」
「僕より君のほうがバレるリスクが大きいんです。街中で転移なんてさせられない。それに、気が動転していると座標がズレてしまう。もし人前で転移したら……!」
特に、今回は倒れた部長のことばかり気に掛けていた。焦るあまり、無意識に部長のそばに転移してしまう可能性もある。同僚や野次馬がいる中、何もない空間から突然姿を表したらどうなるか。例え死の呪いがなくても避けたい事態だ。
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「創吾……」
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