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第4章 更なる不調と対策
18話・3日ごとの逢瀬
しおりを挟む魔力を使い切った後、自然回復で上限値に達するまでに掛かる時間は約三日。そうと分かれば事前に予定を合わせることが出来る。その度に諒真は創吾の元に転移して魔力を消費した。
「しかし、三日ごとにほぼ半日時間を作ってもらうのも申し訳ないな……」
「気にしなくていいんですよ。僕も魔力が溢れたら仕事に支障が出てしまいますから」
「でもなぁ……」
攻撃系メインの魔法使いである諒真は、誰にも気付かれずに使える魔法がほとんどない。それに対し、補助と治癒系メインの僧侶である創吾は勤め先の病院で少しだが魔法が使える。切羽詰まっているのは諒真のほうだ。
「せめて早く魔力の消費が出来れば、おまえに迷惑を掛けずに済むんだけど」
例えば、魔王討伐時に使った最強の魔法ならば僅か数発で魔力を使い果たすことが可能だ。所要時間は十数分もあれば足りる。
しかし、標的がなければ弱い攻撃魔法しか撃てないため、毎回数時間掛かっている。
「それに、オレが居たら気が休まらないだろ。さっさと終わらせて帰りたいんだけどな」
「そんなことありませんよ。こうして顔を見て話す時間も楽しいですから」
こうして……とは魔力を使い果たした後、帰りの転移ぶんの魔力が回復するまで一緒に過ごす時間のことである。前回同じベッドで仮眠を取った気まずさから、諒真は睡眠不足状態で集まることを避けている。リビングのソファーに並んで座り、食事や雑談をしながら時間が過ぎるのを待つ。
「そうだ。せっかく佐賀県まで来たんですから、ごはん食べに行きます?毎回出前っていうのも味気ないでしょう」
「いいのか!?」
「ええ、案内しますよ」
平日の夜十一時過ぎ。
普通の飲食店は閉店する時間帯だ。開いているのは飲み屋かラーメン屋くらい。幾つか候補をあげると、諒真はラーメンを選んだ。
九州と言えば豚骨ラーメンだが、佐賀のラーメンは少し違う。麺は太めのストレートで、コクのあるスープとの相性が良い。一番の特徴はトッピングの生卵である。少し食べ進めたあたりで黄身を割り、麺と絡めて食べるとまた美味い。
創吾のオススメの店で初めての佐賀ラーメンを堪能し、諒真は満足感でいっぱいになった。
「あれ、古賀先生じゃーん!」
「何してんすか。その人、友だち?」
ラーメン屋からの帰り道、繁華街ですれ違いざまに声を掛けられた。創吾の同僚の医師たちだ。見るからに酔っている。愛想笑いを浮かべ「どうも」と会釈して立ち去ろうとする創吾に、彼らは再び声を掛けてきた。「次の飲み会は参加してくださいよ」と。
「仕方のない人たちです。あんなに酔っていては緊急呼出に対応出来そうにないですね」
同僚たちと別れたあと、溜め息混じりにボヤく創吾の言葉を聞いて、諒真は少し考え込んだ。
「おまえもあるんじゃないか?呼出」
「僕はきっちり代わりを立てていますので、余程のことがなければ諒真くんと会ってる時は呼び出されませんよ」
「そ、そっか。でも、今日職場の飲み会があったんだろ。オレが居たから行けなかったんだよな。悪い」
同僚が残した言葉を気にした諒真が謝ると、創吾はすぐに笑い飛ばした。
「どのみち行くつもりはありませんでしたから気にしないでください。あの人たち底がないんですよ。付き合いきれません」
もともと創吾は職場の人間とそこまで交流をするつもりはない。彼らのためにプライベートの時間を使う気もない。それよりも大切な存在が出来てしまったからだ。
「九州の人って酒に強いって言うもんな」
「諒真くんは?」
「オレめちゃくちゃ弱い」
「ああ、そんな感じがします」
「失礼な!」
夜の繁華街を並んで歩きながら、時間が止まればいいのにと創吾は願った。
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