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第3章 苦悩とトラウマ
16話・あたたかな手
しおりを挟む諒真が強力な魔法の使用を避けている理由を悟った創吾は、それ以上無理強いをするのをやめた。前回と同じように数時間掛け、弱い魔法の応酬で魔力を消費する。
「……ごめん。また無駄に時間が掛かった」
「いいんですよ。僕こそ無理を言ってすみませんでした」
空間魔法を解き、創吾のマンションに戻る。リビングのソファーに深く腰掛け、申し訳なさそうに項垂れる諒真に、創吾は笑って軽く肩を叩いた。
「毎回こんなに時間掛けてたら迷惑だよな」
「別に構いませんが」
「構わなくはないだろ。貴重な休みをこんなことに費やして、これじゃデートも出来ないだろうが」
デートと聞いて、創吾の口元から笑みが消えるが、項垂れたままの諒真は気付いていない。
「諒真くんは居るんですか。デートする相手」
「居るように見えるか?残念ながらここ数年はフリーだよ」
はは、と笑いながら諒真が顔を上げると、創吾の表情はいつもの穏やかな笑顔に戻っていた。
「僕もですよ。ご縁がなくて」
「若くてイケメンの医者だろ?モテるんじゃねーの?」
「見た目や肩書きだけで寄ってくる人を僕が好きになると思います?」
「すっごい美人だったらグラッとくるだろ」
「諒真くんじゃあるまいし」
「失礼な!」
魔王を倒して凱旋した勇者一行はとにかくモテた。一番人気は『勇者』由宇斗だったが、その頃には『格闘家』将子と両想いになっており、女性たちを寄せ付けなかった。『魔法使い』諒真も『僧侶』創吾も世界屈指の魔力持ちとして王侯貴族の令嬢たちからよく声が掛かった。勇者パーティーの誰かを引き込めば一族に箔がつく。そんな下心を感じ取り、誰の誘いにも応じなかったが。
彼らが異世界に残ることを選ばなかったのは、そういう権力争いに巻き込まれたくないからかもしれない。
「どのみち呪いがあるうちは恋人なんか作ってられないよな。ずっと一緒に居たらバレるリスクが上がるし、何より秘密を抱えたままってのが嫌だ」
「そうですね」
諒真は嘘が付けない性格だ。深い付き合いとなれば隠し事など出来なくなる。
「ルノー様からはまだ連絡来ないし。ま、聖騎士団のみんなに無理させない約束だから、しばらく時間は掛かるだろうけどさ」
「君は聖騎士さんたちと仲良かったですよね」
「気のいい連中ばっかだったからな。特に、ハルクやリエロには異世界のことをよく教えてもらって助かった」
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「諒真くんは誰とでもすぐ仲良くなりますね」
「由宇斗には負けるけどな。色んな人と喋るの楽しいもん。みんな得意分野が違うから、誰と話してもためになるよ」
諒真は異世界に召喚されたばかりの時も、状況が判らず茫然とする三人に声を掛けて回った。
創吾ははっきりと覚えている。
突然見知らぬ地に放り出され、現状把握が追い付かず戸惑っている時に手を差し伸べてくれた諒真の姿を。自分も不安だろうに、それを悟らせないように笑顔で話し掛けてくれた。
あの時の、あたたかい手の感触を忘れることはない。
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