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第2章 魔力消費計画
11話・時間と金と魔力
しおりを挟む戦い始めてどれくらいの時間が経っただろうか。相手に怪我をさせないよう注意を払いながらの魔法合戦は思いのほか長引いた。
「はぁ、はぁ、疲れた……」
「僕もです。でも、かなり魔力を消費できました」
「確かに、久々に使い切った」
何もない真っ白な空間からマンションの部屋にパッと切り替わる。創吾が空間魔法を解いて元の次元にふたりを戻したのだ。いや、解いたというより空間を維持する魔力が尽きたと言うべきか。
疲労でボロボロの状態になりながらも、ふたりは満足そうな笑みを浮かべている。
特に、溢れた魔力の影響で日常生活すらままならなくなっていた諒真の喜びようは尋常ではない。「これで明日は会社に行ける!」とガッツポーズをしている。
「魔力が溢れると具体的にどうなるんです?」
「今朝は本当に酷くて、触っただけで電気ケトルは爆発するわ、コンビニの自動扉は誤作動するわ、駅の自動改札機からは煙が出るわ……」
「うわあ」
「その状態で電車に乗ったら死ぬと思ったんで引き返したんだ」
「賢明な判断ですね」
魔力とは、謂わば磁気を帯びた高濃度のエネルギーのようなもの。魔力持ちの体内に収まっているうちはいいが、一度外に溢れてしまえば周囲に様々な影響を及ぼす。電子機器などは特に影響を受けやすいようで、もし電車に乗っていたとすれば大事故を引き起こしかねない。
もちろん諒真は身を守る魔法も使えるが、人前で使えば呪いで死に至る。どちらにせよ危険な状況からは逃れられない。
ちなみに、唯一の連絡手段であるスマホには事前に魔力遮断の魔法をかけていたため、精密機械でありながら壊れずに済んでいる。自宅にある冷蔵庫やテレビ、電子レンジなどの高価な家電にも念のため魔力遮断をかけてあったが、電気ケトルは完全に失念しており、魔力過多状態でうっかり触れて壊してしまった。
「魔力過多を起こせば僕もそうなってしまうんですよね。それはマズいなぁ」
創吾の職業は医師、勤務先は総合病院である。患者の情報管理から治療、検査、生命維持のための機器がたくさんある。もし病院にいる時に魔力が溢れて故障させてしまったら、多くの患者の命に関わる。
「何日かおきに発散するしかありませんね。魔力が溢れる前に休みを合わせて、今日みたいに集まりましょう」
「うん、そうしてもらえると助かる」
がらんとした空き部屋の床に大の字で寝転がる諒真を見下ろしていた創吾が突然「あ」と声を上げた。
「なに?」
「……魔力、使い過ぎちゃいましたね。帰りの転移魔法ぶん残ってないでしょう」
「え?……アッ」
ふたりの魔力の残量はごく僅か。もう小さな火弾しか出せないほど消耗している。
「食事をして休憩すれば数時間で回復しますよ。帰りの魔力が溜まるまでここで休んでいってください」
「いや、悪いし帰るよ。一応サイフ持ってきてるし」
さすがにそこまで面倒をかけるわけにはいかないと諒真は遠慮するが、創吾はスマホで何かを検索してからその画面を見せてきた。公共交通機関の乗り換え案内のページだ。
「うちの最寄駅から諒真くんの最寄駅まで新幹線と電車を乗り継いで片道約四時間。交通費は二万円ほど掛かります」
「ウッ……」
「うちで数時間ゆっくりしてから転移魔法で帰ればタダですよ」
佐賀県と愛知県は遠い。普通に移動すれば時間も金も掛かる。ごく普通の会社員である諒真にとって二万は出せなくもないが惜しい金額だ。できることなら節約したい。
「……やっぱ休ませてもらう」
「はい♡」
申し訳なさそうな諒真とは対照的に、創吾は嬉しそうに微笑んだ。
その日はピザのデリバリーを頼んで数時間休息を取った後、転移ぶんの魔力が回復してから解散となった。
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