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第1章 魔王の呪い
4話・勇者一行、現代日本に帰還する
しおりを挟む大司教ルノーから告げられた魔王の呪い。
・元の世界に戻っても能力は消えない。
・他人に能力がバレたら死ぬ。
魔王撃破の発表で湧き上がる大聖堂の中、中心部にいる勇者一行と大司教ルノーだけが険しい表情をしていた。
「呪いを解く方法を探すため、聖騎士団を魔王城跡地に派遣して調査をする予定です」
聖騎士団とはハイデルベルト教国が誇る最強の軍隊である。全員信心深く、規律を重んじる。魔王討伐の旅の最中も彼らは勇者一行を助け、サポートしてくれていた。今も大聖堂内で祭壇を取り囲むようにして警備に当たっている。
その彼らを休む間もなく再び魔王城跡地に派遣すると聞いて、勇者ユウトはすぐに反対した。
「聖騎士団のみんなにこれ以上無理をさせないで。俺たちのためにあてもなく働かせるなんてヤだよ」
勇者パーティーとして召喚された四人は、こちらの世界のことを何も知らなかった。与えられたのは魔王討伐の任務と戦う能力のみ。それ以外はごく普通の人間である。
荒れた土地での野営や通行する地域の代表との交渉、夜間の見張りや露払い。道中、戦闘以外で役に立たない勇者一行を支えてくれたのは聖騎士団の面々だ。彼らが居なければ魔王城まで辿り着くことすら出来なかった。
「バレなきゃいいんだろ。まあ、何とかなるんじゃないか」
「私たちはへっちゃらよ」
「ええ、それくらい隠し通してみせます」
魔法使いリョウマ、格闘家ショウコ、僧侶ソウゴも勇者ユウトの言葉に同意した。
「しかし、貴方がたの世界には戦うべき魔物はいないのでしょう。力を持て余してしまいませんか」
「うーん……まあ、なんとかなるっしょ。こっちでも戦闘以外では力を抑えて生活出来たしさ」
勇者と格闘家に与えられた基本能力は身体強化。素手で岩を砕くほどの剛力と砲弾をも跳ね返す強靭な肉体を持つ。最初の頃は慣れずにドアや食器を破壊したものだが、今は完全に制御している。
魔法使いと僧侶に与えられた基本能力は魔力付与。その身に膨大な魔力を宿し、魂に刻み込まれた数多の魔法を行使する。魔法という概念がない世界で生まれ育った彼らは魔力制御にかなり苦労したが、今は完全に使いこなしている。
「それでも、俺たちは元の世界に帰りたい」
もちろん、こちらの世界に残るという選択肢もある。魔王を倒した功績で一生遊んで暮らせる待遇で迎えると言われている。
だが、勇者一行はそれを選ばなかった。
「……分かりました。聖騎士団には十分休息を取らせ、無理のない範囲で呪いの調査を進めるということでいいですね?何か分かりましたら連絡させていただきますから」
大司教ルノーは彼らの意志を尊重し、帰還に賛成した。これ以上聖騎士団を酷使しないと約束した上で呪いの調査を進める、と。
御簾の向こうに座す教皇は暫く四人の姿を見つめた後、深々と頷き、初めて直接口を開いた。予想より若い青年の低い声が大聖堂内に響き渡る。
「──ユウト、リョウマ、ショウコ、ソウゴ。其方たちの未来に幸あらんことを」
まばゆい光が四人を包み、身体が微細な粒子に変化していく。異なる時空と次元を繋ぐ、ハイデルベルト教国の教皇のみが使える『世界を繋ぐ魔法』である。
勇者一行は異世界での任務を終え、現代日本へと帰還した。
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