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51話・明確な拒絶
しおりを挟む高校卒業後に有名体育大学に推薦入学が内定した須崎は、ミノリちゃんの進路を自分に合わせるよう話を持ちかけてきた。
彼女の両親は突飛な提案に呆気に取られている。隣の居間でこっそり話を聞いていた俺たちも、意味のわからない奴の主張に絶句したまま。無言を肯定だと捉えたか、須崎は尚も言葉を続けた。
「あちらの顧問の先生も鍛錬を積めばオリンピック出場も夢ではないと仰ってくれて。僕はミノリさんの励ましのおかげで空手を始めました。だから、僕がオリンピックに出るような立派な選手になった暁には、ミノリさんと結婚したいと考えております!」
しん、と客間が静まり返る。
まさかのプロポーズ。志は立派だが、須崎はミノリちゃんと交際すらしていない。五年間ずっと断られ続けている。謎の執念深さで何度も何度も付きまとい、彼女に恐怖を与えている。
以前ルミちゃんが言っていた。
『須崎君には話が通じないんです』
『彼は自分に都合の良いように事実を曲げて認識する癖がある』
まさにコレだ。
須崎は交際を断られた事実から目をそらし、自分の思い通りになるまで駄々をこね続けるつもりだ。相手が根負けする時を待っているんだろう。ミノリちゃんはずっとこんな奴を相手にしていたのか。
「でも意外だな。須崎のことだから、ミノリちゃんの進路に合わせて行く大学を変えるかと思った」
須崎は高校を選ぶ際にわざわざ志望校を変更した筋金入りのストーカー野郎だ。付き合ってもない相手の進路を曲げるより自分が変えた方が確実なのに、何故そうしないのか。
「スカウトの話に校長と空手部顧問と彼の両親が超乗り気だからよ~。彼の一存ではもう断れないの」
「そうだったのか。……って、なんで知ってる」
「今の彼氏が空手部のセンパイだから♡」
リエの奴、まさか情報収集を目的に付き合う相手を選んでるんじゃないだろうな。
「……君の言いたいことはわかった」
しばらく黙っていたミノリちゃんのお父さんが口を開いた。声は低いが、口調は穏やかだ。
もしや、須崎の情熱に打たれた?
将来有望なスポーツ選手だと見直した?
「そこまでしてウチの娘と一緒にいたいのかね」
「は、ハイッ!!」
お父さんの問いに力一杯応える須崎。
ミノリちゃんが息を飲む気配を感じる。
彼女が恐れていたように、体育会系同士気が合ってしまったのだろうか。もしお父さんが認めてしまえば、俺は奥の手を出さざるを得なくなる。出来れば使いたくない手段だが……。
しかし、そうはならなかった。
「黙って聞いていれば、さっきから君は自分の都合しか喋っていない。ウチの娘は君のためだけに存在しているわけじゃないんだが、その辺はどう考えているんだね」
「え、あの、それは……」
「そもそもミノリは嫌だって何度も言ってるそうじゃないの。進学とか結婚以前の問題だわ」
お父さんに続き、お母さんも難色を示した。当たり前だ。須崎の話には筋が通っていない。ミノリちゃんの気持ちを無視した独り善がりの演説に過ぎない。
「でも、僕は本気で……!」
なおも必死に食い下がる須崎。
本当にコイツは人の話を聞かない。
いや、認めたくないだけなんだろう。
「私は娘の幸せを第一に考えている。ミノリの意志を尊重しない男を認めるわけにはいかん」
「ごめんなさいね。そういうことだから、ミノリのことは諦めてもらえるかしら」
ミノリちゃんの両親は須崎をキッパリと拒絶した。
客間の様子は見えないが、襖越しにも緊迫感と須崎の狼狽っぷりが伝わってくる。大の大人、しかも大好きなミノリちゃんの両親に受け入れてもらえなかった。流石にこの現実は堪えたようだ。
「そ、そんな。ミノリさん……!」
縋るようにミノリちゃんの名前を呼ぶ須崎。
しかし、長年苦しめられてきた彼女が助け舟など出すわけもなく、更に追い討ちをかける。
「須崎君が好きなのは私じゃなくて自分でしょ」
優しさゼロの冷徹な言葉。
これを言われたのがもし俺だったらしばらく立ち直れないだろう。かなりのダメージを受けたようで、須崎は呻く以外何も喋ることはなかった。
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