【完結】君とひなたを歩くまで

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
48 / 56

47話・仕込みの時

しおりを挟む

 八月二十九日、夏休み最後の日曜。

 ストーカー野郎こと須崎すざきは約束の時間十分前にミノリちゃんの家の前に到着した。服装は高校の夏服である白のカッターシャツとスラックス。学生の正装だ。手には茶封筒と大きな花束を抱えている。

 道路に面した門を意気揚々とくぐった須崎は、庭先で猫と戯れる俺たちの姿に気付いて足を止めた。そして、苦々しい表情を浮かべて睨みつけてくる。

「おまえら、なんでここに」
「わたしはミノリの家に遊びに来ただけだから」
「そーそー。夏休みの宿題最後の追い込みぃ♡」
「そりゃオマエだけだろ」

 ルミちゃんは須崎の睨みに怯むことなく、真っ直ぐ目を見て応えた。その隣にいるのは、ずっしりと重そうな手提げカバンを持ったリエだ。コイツ、ほんとに宿題やってないんじゃないか?
 リエに突っ込みを入れるのはUVカットのパーカーとサングラスを身に付けた色白金髪の俺。見た目だけはヤンキーだが、ケンカも出来ないただの無職ニートである。

予定が被っちゃったみたいね。気にしないで、さっさと用事を済ませてきたら? 須崎君」
「フン、言われずとも!」

 目の前を通り過ぎ、玄関のインターホンを鳴らして家の中に入っていく須崎を見送る。

「さて、この先は須崎君の出方次第なんだけど」
「アイツが妙なことをしない限り手出しはしない、でいいんだよな?」
「そうね。でも、もしまたミノリに無理強いするようならコレを使うわ」

 そう言いながら、ルミちゃんは懐からスマホを取り出した。この中には須崎の暴行現場の動画が収められている。リエのスマホにもだ。これをミノリちゃんの両親に見せるだけでも効果はあるだろう。
 しかし、須崎が心を入れ替えて交際を申し込むだけなら何もしない。ミノリちゃんが自分で断ると決意したんだ。俺たちはただ見守るのみ。

 そこに、ひとりのおばあちゃんが現れた。俺の姿を見つけると、抱えていたカゴを放り投げて笑顔で駆け寄ってくる。

「プーちゃん、よう来たねぇ!」
「ミツさんこんにちは、お邪魔してます」
「昼間に会うのは初めてだわ。まあ、明るいとこで見るとキラキラして綺麗な髪ねぇ」
「ありがとう、嬉しいよ」

 俺は今日、ミノリちゃんの客として来たわけではない。ウォーキング仲間のおばあちゃんたちに頼んで、ミノリちゃんのおばあちゃんを紹介してもらったのだ。
 ミノリちゃんの家はいつものウォーキングコースから外れているから、ミツさんは普段一緒に歩いていない。でも、田舎町だから同年代はみんな顔見知りなんだよね。ここ数日コースを変更してもらって、ミツさんと一緒に歩いて親睦を深めたのだ。

「プーさんたら、おばあちゃんにはモテるのね~」
「うるせー」

 リエがニヤニヤしながら小突いてきた。
 俺のチャラい見た目で『ミノリちゃんの友人』として能登のと家にお邪魔するには無理がある。だから、ミツさんには隠れ蓑になってもらった。もちろん先に事情を話してある。ぜんぶ知った上で協力してくれたんだ。まあ、六十過ぎのおばあちゃんの友だちとしても大概おかしいんだけどな俺は。

 俺とルミちゃん、リエは居間に通された。
 ふすまを挟んだ客間に須崎がいる。ここで話し合いの様子を窺い、必要があれば飛び出す。そういう手はずになっている。

「プーちゃん、スイカお食べ。ほれ、ルミちゃんもリエちゃんもおあがり」
「はーい、いただきまーす」
「ミツさんありがと。スイカ大好き」
「おかわりあるからねぇ、いっぱい食べな」

 ミツさんにもてなしを受けながら、俺たちは隣の部屋の話し合いが始まるのを待った。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

スマホゲーム王

ルンルン太郎
ライト文芸
主人公葉山裕二はスマホゲームで1番になる為には販売員の給料では足りず、課金したくてウェブ小説を書き始めた。彼は果たして目的の課金生活をエンジョイできるのだろうか。無謀な夢は叶うのだろうか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼女の音が聞こえる (改訂版)

孤独堂
恋愛
早朝の川原で出会った高校生の男女の普通に綺麗な話を書きたいなと思い書き始めましたが、彼女には秘密があったのです。 サブタイトルの変更と、若干の手直しを行いました。 また時系列に合わせて、番外編五つを前に置きましたが、こちらは読まなくても、本編になんら支障はありません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

処理中です...