【完結】君とひなたを歩くまで

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
45 / 56

44話・解けた誤解

しおりを挟む

 翌日の昼下がり、リエがミノリちゃんを連れて俺んちに来た。

「──というワケでぇ、プーさんには『彼氏のフリ』をしてもらってたの。ねっ?」
「そ、そう。実はそうなんだ」

 リエの筋書きはこうだ。しつこく言い寄ってくる男から逃げるために俺の家を隠れ家代わりにした。その結果、無事その男を諦めさせることに成功した、と。こんな嘘で誤魔化せるのか?

「そうだったんだ。大変だったんだねリエ!」

 しかし、ミノリちゃんはリエの嘘の説明をすんなり信じた。五年に及ぶストーカー被害に苦しんでいた経験からか、リエに対して心の底から同情している。悪友に甘過ぎるんじゃねーの。まあ、そういうところがいいんだけどさ。

「今日はプーさんにお礼を言いに来たの♡」
「はは、どういたしまして」
「んじゃ私は今から新しい彼氏とデートだから。まったね~!」

 言うだけ言って、リエはすぐ帰っていった。無理やり連れて来られた上に置いていかれたミノリちゃんは呆然とした表情でリエの後ろ姿を見送っている。玄関先で、しばらく黙ったまま立ち尽くす。

「……あの、久しぶり、ですね」
「……うん。久しぶり」

 会うのは二週間ぶりくらいだろうか。
 ストーカー野郎に殴られた翌日にお見舞いに来てくれた日以来だ。あの時はリエが居て、ミノリちゃんは家に上がらずそのまま帰ってしまった。

「良かったら上がってく?」
「え、でも」
「お願い、少しだけ。ね?」
「は、はい。じゃあ、少しだけ」

 間が空いてしまったからか、やや他人行儀になっている。ようやく少し砕けた感じで話せるようになったのに、また振り出しに戻ったみたいで寂しい。

 家に上がったミノリちゃんはキョロキョロと周りを見回している。廊下から階段に至るまで彼女は何度も通っているが、今までと違うことに気付いたようだ。

「何だか片付いてる?」
「大掃除したんだ。さっぱりしたでしょ」

 片付けたのは一階だけじゃない。元々物が少なかった俺の部屋は更に殺風景になっている。壁際に置かれた本棚にあった要らない本も処分した。今は『マジカルロマンサー』全巻だけが並んでいる状態だ。ミノリちゃんに見られて困るようなものはもう何も無い。

「あの、もうどこも痛くない?」
「全然。三日くらいで治ったよ」

 須崎に殴られた腹に痛みはない。内出血の跡がまだ残ってるくらいだ。

「良かった、それだけが心配で」
「気にしなくていいのに」
「だって、私のせいだから。時々リエにプーさんの体調はどうかメールしたんだけど、リエは『大丈夫』としか言ってくれないし」

 リエが俺んちに居たのは最初の数日だけだからな。教えたくても知らなかったんだろう。ホントにアイツは引っ掻き回すだけ引っ掻き回しといて忘れてるとか……まあ、こうしてミノリちゃんを連れてきてくれたからいいか。それより、会えない間も気に掛けてくれていたんだと分かって嬉しい。

 ローテーブルを挟んで座っていると視線を感じた。今までこんなにジロジロ見られることなんかなかったから、なんだか恥ずかしい。

「プーさん、顔付きが変わった」
「えっ?」
「なんかこう、しっかりした、みたいな」
「ええ~、そうかな」

 ウォーキングや筋トレの効果が出たのかな。いや、色々と気持ちの整理が付いたからだろう。

「家の中も片付いてるし、なんだか……」

 俺の変化に気付き、ミノリちゃんは不安げな表情を浮かべた。

 そうだ。何も言わずに居なくなったら彼女は逃げ場を失ってしまう。俺にはまだミノリちゃんのために出来ることがあるはずだ。でも、彼女から頼って貰わなければ動けない。

「実は俺、もうすぐ家を出るんだ」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ephemeral house -エフェメラルハウス-

れあちあ
恋愛
あの夏、私はあなたに出会って時はそのまま止まったまま。 あの夏、あなたに会えたおかげで平凡な人生が変わり始めた。 あの夏、君に会えたおかげでおれは本当の優しさを学んだ。 次の夏も、おれみんなで花火やりたいな。 人にはみんな知られたくない過去がある それを癒してくれるのは 1番知られたくないはずの存在なのかもしれない

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

彼女の音が聞こえる (改訂版)

孤独堂
恋愛
早朝の川原で出会った高校生の男女の普通に綺麗な話を書きたいなと思い書き始めましたが、彼女には秘密があったのです。 サブタイトルの変更と、若干の手直しを行いました。 また時系列に合わせて、番外編五つを前に置きましたが、こちらは読まなくても、本編になんら支障はありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...