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43話・忘却尻軽女
しおりを挟むひとしきり泣いた後、ショウゴは腕で目元を拭って息をついた。三年前のわだかまりが無くなったことで、ショウゴは吹っ切れたようだ。
一緒に遊んでいる時は平静を装ってはいたが、ずっと気に病んでいたんだろう。思えば、コイツは俺の反応を窺うような言動ばかりしていた。絶縁されないよう適度な距離を測っていたのかもしれない。
なんでそこまでするんだか。もしかして、コイツかなり俺のことが好きなのでは?
「家まで送るから乗れよ」
「いい。歩いて帰る」
「結構距離あるぞ?」
「体力作りでウォーキング始めたんだよ」
俺の言葉を聞いた途端、ショウゴが後ずさりして後ろのフェンスに背中をぶつけた。ガシャンという音が薄暗い駐車場に響く。信じられないものを見た、みたいな表情をしている。
「お、おまえが運動……?」
「そんな驚かなくてもよくね?」
まあ、学生時代から今に至るまでほとんど運動しなかったからな。必要最低限の外出しかしたことないし。
「急に仕事を決めたり自発的に運動始めたり、一体どういう心境の変化だ?」
「ちょっとな。自分を変えたくて」
「ふうん。まあ、いいんじゃねェか? おまえがそんな風に前向きになれて良かったよ」
俺の変化に驚きつつも、ショウゴは喜んでくれた。
「やっぱ彼女が出来ると違うな。リエに感謝だな」
「違う、リエじゃない!」
思わず否定してから、慌てて口を押さえる。まずい。隠していたのに、気が緩んでついリエと付き合っていないと暴露してしまった。
「やっぱりな。だと思った」
「へ?」
ショウゴはニヤリと笑いながら目を細めた。
「おまえの好みはリエと真逆だもんな。前も言ったけど、おまえが好きなのはミノリちゃんだろ」
「いや、それは」
咄嗟に弁解しようとしたが、またミノリちゃんの名前を出されて全部吹っ飛んだ。これ以上口を開けば墓穴を掘りかねない。
「マリに聞いたんだよ。リエがおまえと本気で付き合ってんのかどうか。そしたら『絶対有り得ない』って」
「ずいぶん強く言い切るじゃねーか」
「アイツが言うには、リエは今まで誰とも本気で向き合ったことがない『かわいそうな子』なんだとよ。だから、今回もただの遊びだろうってさ」
すげえ、さすが恋愛脳。物事の基準が恋愛中心だから、まともに恋愛出来ない奴は『かわいそう』なのか。何度も彼氏を寝取られているはずだが、分かっていて許しているのだとすれば、マリのメンタルは相当タフだ。
「てゆーか、昨日リエが別の男と遊んでるとこ見掛けたしな」
「あンの尻軽女……ッ!」
自分から言い出しといて何バレるようなことしてんだ。必死に隠してた俺が馬鹿みたいだろうが。幾ら考えてもリエの考えてることなんか分からない。そもそもアイツの行動に意味があるのかすら怪しいものだ。
「帰る」
「リエんちに乗り込むなら付き合うぞ」
「行かねえ!!」
ショウゴと別れ、民家の少ない通りに差し掛かってからスマホを取り出し、電話を掛ける。
『もっしも~し♡ リエちゃんで~す』
「おい、俺に何か言うことあんじゃねーの?」
『え~? やだプーさん、なに怒ってんの?』
電話口の向こうから聞こえる呑気なリエの声に、怒りを抑えながら問い掛ける。
「俺と付き合ってることにしてたクセに、どうして他の男と会ってるところをショウゴに見られてんだよ!」
こっちは取り引きだと思って我慢して従っていたというのに。ショウゴは何となく察してるみたいだけど、ミノリちゃんからは誤解されたままなんだぞ。
『あっ……』
コイツ、忘れてやがったな。
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