43 / 56
42話・腹を割る2
しおりを挟む俺がショウゴに会いに来たのは礼を言うためだ。ただ伝えるだけなら電話やメールでも出来る。だが、一度やっておきたいことがあった。
俺は、ショウゴが働いている姿をこの目で見ておきたかった。
「今まで遊びの支払いは全部オマエ持ちだっただろ」
「オレが無理やり誘ってんだ。オレが金を出すのは当然だろ」
「まあそうなんだけどさ。オマエが頑張って稼いだ金なんだよなーと思ったら急に有り難みが湧いてきてさ」
稼ぐのは大変だ。どんな仕事でも何の苦労も無しに続けることは出来ない。肉体労働なら尚更だ。今日、ほんの少しの間だがショウゴが働いている姿を見た。高校を卒業してから二年、俺が自宅でダラダラ過ごしている間、コイツは汗水流して働いていたんだ。
「それだけじゃない。オマエは家から出たがらない俺を外に連れ出してくれてたよな」
「……」
「中学ん時も高校ん時も、他の奴との間に入っててくれたよな。俺のこと悪く言う奴に説教かましたりとかさ」
「いや、オレは」
俺の言葉に小さな声で否定するショウゴ。ガリ、とまた頭を掻いている。
今までたくさん気遣ってもらったことに感謝をすれば、ショウゴは手のひらで顔を覆い隠し、俺に背を向けた。
「──オレに感謝なんかすんな」
「ショウゴ?」
震える声で、ショウゴは言葉を続ける。
「進路を決める時、将来を悲観してるおまえを見て『オレがおまえの分まで働けばいいんじゃないか』『オレが養えば悩まずに済むんじゃないか』なんて勝手に考えて、挙げ句の果てに手を出そうとした」
あの日のことは未だに忘れられない。突然襲われて、必死に抵抗して家から叩き出して以来、お互い話題に出さなかった。だから、何故ショウゴがそんな真似をしたのか理由は分からずじまい。
当時は単なる欲求不満かと思っていたが、違った。方法は最悪だが、コイツは人生に不安を抱えた俺を守ろうとしたんだろう。一番側にいたから『自分が何とかしてやらないと』って思い込んで。
「おまえに拒絶されて、二人きりになるのを避けられて、ようやく自分のしでかしたことを後悔した。オレは、おまえを理解しようとしなかった奴らと同じだ。心のどこかでおまえを下に見ていた。……ハハ、最低だろ?」
「ほんとサイテーだよ。おかげでしばらく男が怖くなったんだからな」
「オレのせいで、おまえは余計に家に閉じこもるようになっちまった。すまん」
「三年も前の話だ。もういいよ」
コイツも馬鹿なりに考えて、俺の警戒を解こうと必死になっていた。遊ぶ時に必ず女の子を同伴していたのもそうだ。『もう手を出さない』とアピールするためだけに。
「ずっと俺が外の世界との繋がりを絶たないようにしてくれてたよな。最近になって、やっとそれに気付いた。……だから、ありがとう」
俺がミノリちゃんに会えたのもショウゴが外に連れ出してくれたおかげだ。彼女と出会わなければ、俺は今でも部屋に閉じこもったまま、自分の体質を言い訳にして周りを妬んでいただろう。
無言で涙を流すショウゴの前に回り込むと、思いきり抱きすくめられた。あの時とは違う、親愛のハグだ。怖さは全く感じない。「馬鹿だな」と笑いながら背中を軽く叩いてやると、ショウゴは声をあげて泣き出してしまった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
ephemeral house -エフェメラルハウス-
れあちあ
恋愛
あの夏、私はあなたに出会って時はそのまま止まったまま。
あの夏、あなたに会えたおかげで平凡な人生が変わり始めた。
あの夏、君に会えたおかげでおれは本当の優しさを学んだ。
次の夏も、おれみんなで花火やりたいな。
人にはみんな知られたくない過去がある
それを癒してくれるのは
1番知られたくないはずの存在なのかもしれない
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
彼女の音が聞こえる (改訂版)
孤独堂
恋愛
早朝の川原で出会った高校生の男女の普通に綺麗な話を書きたいなと思い書き始めましたが、彼女には秘密があったのです。
サブタイトルの変更と、若干の手直しを行いました。
また時系列に合わせて、番外編五つを前に置きましたが、こちらは読まなくても、本編になんら支障はありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる