40 / 56
39話・夜間の鍛錬
しおりを挟む打撲の痛みが治まった頃から体力作りを始めた。と言っても、家で筋トレしたり暗くなってからウォーキングするくらい。今まで何もやってこなかったから腹筋や腕立て伏せ数回だけでもかなりキツい。少しずつ回数を増やしていく。
そして、夜に歩くようになって気付いたことがある。田舎、夜に歩いてる奴が何気に多い。若いのから年寄りまで、そこら辺を歩いている姿をよく見掛ける。昼間働いて、更に夜は体力作りのために歩いてるのか。普通の人すげえ。やっぱり俺は甘えてたんだなと改めて実感する。
二、三日同じ時間、同じルートで歩いていたらウォーキング仲間が出来た。おばあちゃんのグループだ。ご近所同士で毎晩集まって健康のために歩いているらしい。
「最初はどこの不良かと思ったけど真面目に歩いてるんだもの、偉いわねえ!」
「ほんと感心感心」
「飴ちゃん食べる?」
「ウチの孫なんかアタシに寄り付きゃしないわ」
「ウチも。お小遣いあげる時だけよ、にこにこして寄って来るのは」
街灯の少ない夜道で一人寂しく歩くよりは、と一緒に歩くようになったんだけど、ハッキリ言ってばあちゃん達に付いてくだけで精一杯。還暦過ぎてるのにみんな健脚。足速い。ウォーキングっていうか、もはやこれは強歩だろ。
「ちょ、待って。なんでそんな元気なの」
「あらあら、ちょっとゆっくりにしようか」
「アタシらは毎日畑の世話をしてるからねえ。足腰の強さはそこらへんの若いのには負けないよ~」
「畑?」
「今の時期は暑いから、朝起きてすぐ畑に出てね、草を取ったり水を撒いたり収穫したり」
「スーパーや産直市場に卸したりね」
「昼間いちばん暑い時間は寝てるのよ。だから夜は目が冴えちゃって」
「だからこうして歩いて程良く疲れてからお風呂入って寝るのよ~」
息を切らした俺に合わせて歩調をゆるめながら、おばあちゃん達は笑いながら盛り上がっている。強い。俺は女子高生だけでなく、おばあちゃんにも勝てないのか。
「それよりアンタ痩せ過ぎだよ。もっと食べなきゃ!」
「ウッ……やっぱりそう?」
「もっと肉つけないと倒れちゃうわ」
以前ミノリちゃんにも言われた。
実際、倒れたことがあると正直に答えたらめちゃくちゃ心配されてしまった。別れ際、おばあちゃん達は野菜を持たせてくれた。わざわざ一旦家に帰って持ってきてくれたのだ。
「好き嫌いは?」
「夏野菜はぜんぶ好き。ありがと」
「まあ、作った甲斐があるわぁ! ウチの孫なんかトマトとピーマン食べてくれないのよ~」
「そうなんだ、美味いのにな」
「アンタ良い子だねえ、飴ちゃん袋ごとあげる!」
気付けば両手に野菜が山ほど詰まったビニール袋を持たされていた。おばあちゃん達に礼を言って別れ、帰宅する。
話し合いをした日以来、親父が家に帰ってくる日が増えた。長距離配送の仕事を控え、近場の仕事に切り替えたらしい。
山のような野菜を持ち帰った俺を見て、親父は目を丸くした。
「おまえ、その野菜はどうした」
「ばあちゃん達に貰った」
「……そういう方向で稼ぐつもりか?」
どういう方向だよ!
野菜は親父と二人でありがたく食べた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
ephemeral house -エフェメラルハウス-
れあちあ
恋愛
あの夏、私はあなたに出会って時はそのまま止まったまま。
あの夏、あなたに会えたおかげで平凡な人生が変わり始めた。
あの夏、君に会えたおかげでおれは本当の優しさを学んだ。
次の夏も、おれみんなで花火やりたいな。
人にはみんな知られたくない過去がある
それを癒してくれるのは
1番知られたくないはずの存在なのかもしれない
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
彼女の音が聞こえる (改訂版)
孤独堂
恋愛
早朝の川原で出会った高校生の男女の普通に綺麗な話を書きたいなと思い書き始めましたが、彼女には秘密があったのです。
サブタイトルの変更と、若干の手直しを行いました。
また時系列に合わせて、番外編五つを前に置きましたが、こちらは読まなくても、本編になんら支障はありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる