37 / 56
36話・決意の瞬間
しおりを挟むストーカー野郎は、ミノリちゃん絡みのこと以外はまともな奴なんだと思う。インターハイ上位入賞なんてそうそう出来るもんじゃない。
俺は学生時代、ずーっと帰宅部だった。屋内競技や文化部なら問題ないのに挑戦しなかった。勉強も最低限。何をやっても無駄だと思って諦めていた。昔からそうだ。二十歳の今、無職で親のスネかじりの俺には誇れるものが何もない。ミノリちゃんの逃げ場である俺んちだって親父の稼ぎで維持している。俺はただ家にいるだけ。
前途ある須崎と何もない俺。
どちらが彼女に相応しいか。
そんなの比べるまでもない。
須崎が本心から悔い改めて、ミノリちゃんの意思を尊重するなら全然有りだと思う。いや、別に須崎じゃなくてもいい。例えば、ショウゴみたいに定職に就いてる奴とか。
そういえば、前にショウゴはミノリちゃんに誘いのメール出してたな。倒れた俺を送る時に久々に顔を合わせたみたいだし、また再燃してたらどうしよう。
「……嫌だな」
嫌だ。嫌だ。
何が嫌って、そんな資格も権利もないのに彼女の隣に立ちたがる自分が嫌だ。何の努力もしてない癖に自分より優れた奴に嫉妬ばかりする自分が一番嫌だ。
ふと、さっきルミちゃんから手渡されたお見舞いの紙袋が目に入った。
ミノリちゃんといい、ルミちゃんといい、本当に礼儀正しい。きっとしっかりした親御さんに育てられたんだろう。そんな大事な娘にこんな金髪ヤンキーが近付いたなんて知ったら驚くよな。
紙袋の中身は箱入りの水羊羹だった。夏だもんね。渋いけど日持ちもする良いチョイス。先日ミノリちゃんから貰ったゼリーと一緒に冷蔵庫で冷やしておこう。
箱を取り出す際に、何かが落ちた。
小さな封筒だ。なんだろうと思って開けてみると、メッセージカードが入っていた。
「……はは、策士だなぁ」
そこには須崎がミノリちゃんちに挨拶に行く日時が書かれていた。日付は八月最後の日曜日。今はお盆が終わったばかりだから、あと二週間ほど先の話だ。ミノリちゃんの両親は共働きだと聞いている。直近で予定が合うのがこの日しかなかったんだろう。
踏み出せずにグズグズしていた俺の背中を、ルミちゃんが押してくれた。
「……やってみるか」
変わりたい。
変わらなきゃ。
安全な場所から出るのは怖い。
行動した結果、失敗するのが怖い。
でも、今の俺には失うものは何もない。
やれるだけのことをして後悔しないように。
前向きに考えられたのは初めてかもしれない。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
ephemeral house -エフェメラルハウス-
れあちあ
恋愛
あの夏、私はあなたに出会って時はそのまま止まったまま。
あの夏、あなたに会えたおかげで平凡な人生が変わり始めた。
あの夏、君に会えたおかげでおれは本当の優しさを学んだ。
次の夏も、おれみんなで花火やりたいな。
人にはみんな知られたくない過去がある
それを癒してくれるのは
1番知られたくないはずの存在なのかもしれない
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
彼女の音が聞こえる (改訂版)
孤独堂
恋愛
早朝の川原で出会った高校生の男女の普通に綺麗な話を書きたいなと思い書き始めましたが、彼女には秘密があったのです。
サブタイトルの変更と、若干の手直しを行いました。
また時系列に合わせて、番外編五つを前に置きましたが、こちらは読まなくても、本編になんら支障はありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる