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33話・SOS再び
しおりを挟む言うだけ言って、リエはすぐに帰った。アイツが結局何をしたかったのかは分からない。俺は知らないうちにミノリちゃんに対する気持ちを試されていたワケだが、それが証明出来たところでなんになる。
俺にはミノリちゃんに告白するような勇気はないし、その資格もない。第一、彼女にはリエと交際していると思われている。家で一緒にいるところも見られた。今さら何を言っても遅い。
家に一人でいることを寂しく感じたのはミノリちゃんが入り浸るようになってからだろうか。それとも、もっと前からだっただろうか。さっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返った居間で寝転がる。まだ本調子じゃないのは本当だ。これは体質以前に体力の無さが原因なんだけど。
『落ち着いたらちゃんとしろよ』
ショウゴに言われた言葉を思い出す。
「ちゃんと、ってなんだよ……」
言われなくても本当は分かってる。やらねばならないことはたくさんある。勝手に人生を悲観して諦めて投げ出して、いい加減に生きてきた。自分に言い訳ばかりして、周りに甘え過ぎていた。そろそろタイムリミットだ。全部に向き合う時がきたのかもしれない。
『ピンポーン』
またリエだろうか。忘れ物でもしたのかもしれない。のそのそと起き上がり、玄関のドアを開ける。
「こんにちは、プーさん」
「君は……」
そこに居たのはメガネ女子のルミちゃんだった。今日は出校日じゃないから私服姿だが、前に会った時と同じように長袖のカーディガンを羽織っている。真夏なのに肌の露出が少なく感じるのは、さっきまで居たリエとの差が大きいからか。
「どうしたの、今日はひとり?」
「はい。連絡先を知らなかったので無断で押し掛けて来てしまいました。病み上がりなのにすみません」
「いや、全然構わないけど」
「これはお見舞いです」
「あ、これはどうも……」
深々と頭を下げ、突然の訪問を詫びるルミちゃん。手土産まで持参して、この子ホントに礼儀正しいな。
しかし、何故一人で俺んちに?
確かに連絡先の交換はしていないが、単なるお見舞いならミノリちゃんかリエを介して事前に知らせることも出来たはずだ。礼儀正しい彼女が訪問の際に連絡を怠るとは考えにくい。つまり、今日来ることは二人に伝えていないってワケか。
「まさか、またストーカー野郎絡み?」
「実はそうなんです」
やっぱり。そうでもなければ、ルミちゃんが俺んちに来る理由がない。
「アイツは暴行の証拠動画でおとなしくなったんじゃないの?」
「ええ。あの日、プーさんが意識を失った後に須崎君と話して、付きまとい行為をやめるように約束させました。ミノリのメアドも削除させたんですけど……」
おお、ルミちゃんしっかりしてる。その場限りでなく色々と約束させていたらしい。そこまでやったのに、他に何の問題があるんだ?
「実は、須崎君が高校総体で三位になりまして」
「空手の全国大会で?」
「団体でなく個人ですけど」
「ヒェッ……マジで強かったんだなアイツ」
せいぜい県大会くらいだと思ってたら全国レベルだったのか。しかも上位。殴られて打撲と内出血で済んだのは運が良かったのかもしれない。
「ミノリちゃんの件を変に引きずってガタガタになるかと思ってたけど、やっぱスポーツマンはメンタル強いんだな」
大事な試合の前にあんなことがあったんだ。ボロ負けしてもおかしくなかったのに、そこまで勝ち進んだのは立派だと思う。
「それが……須崎君、わたしとの約束を変な風に捉えていて、また暴走しそうなんです」
「ハァ!?」
なんでそうなんの?
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