【完結】君とひなたを歩くまで

みやこ嬢

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32話・誘惑実験2

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 ミノリちゃんに本気で惚れてる男は誘惑されない、とリエは言った。

「プーさんだけが特別なんじゃないよ。ミノリを好きになる男はみーんなそう」

 恐らく須崎すざきにも同じように色目を使ったのだろう。その結果、須崎はリエを拒絶してミノリちゃんへの想いの強さを証明した。つまりコイツが須崎に協力したのは、恋愛感情が本物だったから?
 いや意味がわからん。なんでリエがそんな真似をする必要があるんだ。

「私ね、本気で誰かを好きになったことないんだ~。男子からコクられたことは何回もあるけどぉ」

 突然モテ自慢が始まった。

「どんなにイケてる男から言い寄られても全っ然嬉しくないの。付き合ってるうちに好きになるかな~と期待したけど気持ちは一ミリも動かなかった。で、そのうちみんな離れていくの」
「そりゃそうだろ。気持ちもないのに付き合ってたって虚しいだけだし」
「あはっ、何それ。今のプーさんの心境~?」
「その通りだよ」
「正直過ぎ! ……でも、そうなんだよねぇ」

 ひとしきり笑ってから、リエは大きな溜め息をついた。表情は変わらないが、いつもの元気がない。胡座あぐらをかいたまま、身体を左右にゆらゆらと揺らしている。ミニスカートだからパンツは勿論丸見えだ。はしたないが、敢えて指摘しない。

「マリねえは恋愛脳でさぁ、好きな男が出来ては一喜一憂して、振られては泣き、両想いになったら毎日ルンルン浮かれまくるような人なんだよね。生まれた時から側に居るのに全っ然理解出来なくて」

 マリは恋愛脳だったのか。ふとカラオケ歌詞改変事件を思い出し、何となく納得する。確かに色恋で頭がお花畑になるタイプだ。

「その気持ちが知りたくて、マリ姉や友達の彼氏を片っ端から誘惑してみたりして」
「オマエはなんでそういう……」
「自分で相手を見つけるの面倒なんだもん」
「あっそ」

 コイツにまともな思考を求めた俺が悪かった。

「マリの彼氏って、まさかショウゴも?」
「マリ姉とショウゴさんは付き合ってないよ。いちおー誘惑はしたけど相手にしてもらえなかった~」
「誘惑したのかよ!」

 以前ショウゴが『マリとは付き合ってない』と言ってたのは本当だったのか。彼女持ちだけでなくフリーの男も誘惑するとは……いや、フリーの男はいいのか。よく分からなくなってきた。

「ほとんどの男は私になびいたよ。大好きな恋人がいるはずなのにね~。でも、その度に安心した。『やっぱり嘘だった』『私がおかしいわけじゃない』って」
「……」

 恋愛感情が理解出来ないから、身近にいる『彼女がいる男』を誘惑して気持ちを試していたのか。その結果、かなりの数の男を寝取ったと見た。最悪のカップルクラッシャーじゃねえか。

「でも、ミノリに言い寄る男はみんな私の誘いを断るの。何が違うんだろ」
「オマエとミノリちゃんじゃタイプが真逆じゃねーか。身体目当てじゃねえんだよ」

 ショウゴがリエの誘いを蹴ったのも、ミノリちゃんが好きだからか。一時期、彼女に誘いのメールを送っていたらしいが、あれは今でも続いているのだろうか。

「でもさぁ、恋愛なんて結局ヤるための下準備っていうか、テンション上げるためのものでしょ? ヤれるなら誰でも良くない?」
「身もフタもない言い方すんな!」

 女子高生がはしたないことを言うんじゃない。冷めた考え方が物悲しい。

「オマエまだ高校生だろ。恋愛感情が分からないからって自分を安売りすんな。そのうち運命の人に出逢うかもしんねーだろ?」

 例えば、俺がミノリちゃんに会ったように。

 俺だってこの年齢トシになるまで真剣に誰かを好きになったことはなかった。体質のせいで無意識のうちに誰かを好きにならないように避けていたのもある。
 でも、気付いたら好きになっていたんだ。

「プーさんて案外ロマンチストだよね~」
「うるせぇ!」

 クスクス笑われて、俺はムキになって言い返す。底意地の悪いリエの笑顔から、ほんの少しだけトゲがなくなったような気がした。
 
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