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24話・直接対決3
しおりを挟む怒り狂った須崎の拳が俺の腹を抉る。
「ぐぁっ!」
一応身構えてはいたが、それでも体格の良い須崎の体重が乗ったパンチの威力は凄まじい。ヒョロい俺は一撃で吹っ飛ばされてしまった。衝撃でサングラスもどっかに飛んでいった。
「だ、大丈夫?」
仰向けに倒れた俺の傍らに膝をつき、ミノリちゃんが心配そうに声を掛けてくれた。か細い声は震えている。かわいそうに、よほど怖かったんだろうな。
「めちゃくちゃ痛ぇ。なにアイツ」
「須崎君、空手部なの」
「……うへぇ、どうりで」
やっぱり。合宿やら大会がある部活だって言ってたから強いだろうと予想はしていたが、よりによって空手部とは。殴られた腹が痛い。これは跡が残りそうだ。
「なんだ、見掛け倒しか。一撃で倒れるような弱っちい奴が僕の邪魔をするな!」
たった一発のパンチで立てなくなった俺を見下ろし、須崎は勝ち誇ったように嘲笑っている。
ヤンキーなのは見た目だけだからな。俺はその辺の女子高生より弱い。でも、弱い奴には弱いなりの戦い方がある。
「そこまでよ、須崎君」
公園内に凛とした声が響き渡った。
声の主はミノリちゃんの友達、ルミちゃんだ。全力疾走した俺に遅れること数分、彼女とリエも河川敷の公園に到着していたのだ。
「……またオマエか、敦賀。何度僕たちの邪魔をすれば気が済むんだ!」
「何べん言っても分かんないのはアンタの方じゃない! いい加減にしなさいよ!」
倒れた俺を放置して、今度は須崎とルミちゃんが睨み合い始めた。流石に女の子には手を上げないとは思うが、今の須崎は頭に血が上っている。何をしでかすか分からない。
「痛い目に遭いたくなかったら、そこの不良を連れてどっか行けよ!」
「そんなこと言っていいの? 空手部は明後日大事な大会が控えているんでしょ?」
「それがどうした!」
脅すような須崎の言葉を受けて、ルミちゃんがメガネの奥の瞳を細めて笑った。
「アンタの暴力、動画撮ったわよ」
「なっ……」
ルミちゃんは自分のスマホ画面を須崎に向け、再生ボタンを押した。流れてきたのは、先ほどの言い争い。そして、俺が殴られた場面だった。
「そ、それはコイツが……」
「プーさんは手を出してないわ。どこからどう見ても、アンタが一方的に無抵抗の人を殴っただけよ」
もしこの動画の存在が大会関係者に知られれば、須崎は大会の出場資格を失う。須崎だけならまだいい。最悪、他の部員も連帯責任を負わされる。
須崎は咄嗟にルミちゃんからスマホを奪おうとするが、そこに更にもう一人が現れた。リエだ。スマホのカメラをこちらに向けながら近付いてくる。
「『暴行の証拠動画を隠蔽しようとする動画』か~、これはバズりそ~!」
「い、厳原……オマエまで!」
須崎の暴行の一部始終を撮っていたのはルミちゃんだけではなかった。一緒にいたリエも自分のスマホを使って撮影していたのだ。
二人が東屋から少し離れた茂みに隠れ、カメラを向けていることに気付いた俺は、ワザと須崎を怒らせるような発言を繰り返した。まさか、こんなに上手くことが運ぶとは思わなかったけど。
「……クソッ!」
須崎はガクリとその場に膝をつき、拳を地面に叩きつけた。
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