19 / 56
18話・秘密の露呈
しおりを挟む翌日の午後、手土産がわりの夏野菜と共にミノリちゃんがやってきた。今回もナスやピーマン、きゅうりがメインだ。
「いつも悪いね~」
「いえ、貰ってくれるだけで助かるから」
「おじいさん達にお礼言っといて」
「プーさんがたくさん食べてくれてるって言ったらすごく喜んでたよ」
「だって美味いもん」
ミノリちゃんちの野菜はホントに美味い。だが、残念ながら俺の食べ方のバリエーションが酷く乏しいせいでせっかくの美味さが活かせていない。生で食うか焼いて食うかの二択のみ。流石に申し訳なくなってきたので、ミノリちゃんの家ではどうやって食べているのか聞いてみた。
「うちでよく作るのはナスの揚げ浸しかな。ひと口大に切ったナスを素揚げして麺つゆに浸して冷やして食べるの。かつお節と、すりおろした生姜乗せて」
「それ絶対美味いやつじゃん」
「簡単だよ。作ってみたら?」
「揚げ物やったことない」
「ああ~、後片付けも大変だしね」
ほぼ一人暮らし状態だから調理道具も材料も最低限のものしかない。揚げ物をするなら専用の鍋や油を切るためのトレイなどをイチから揃えなくてはならない。面倒さが勝って重い腰が上がらないというのが正直なところである。
俺の部屋に入ると、ミノリちゃんは本棚の前に座って目当ての漫画を探し始めた。『マジカルロマンサー』の続きを読むのだろう。
「夏休みの宿題は?」
「もう終わったもん」
「まだ八月になったとこだよ? 早いね~」
「出校日までに出さなきゃいけない宿題が多かったから、全部一気にやっちゃおうと思って」
「出校日いつ?」
「週明けの十日」
「そっかぁ……」
自慢出来る話じゃないが、学生時代の俺は期限内に宿題を終わらせたことなどない。当時つるんでたヤツらもそうだったから気にしたことすらなかった。それに比べ、ミノリちゃんはバイトもしていたというのにキッチリ宿題を終わらせている。しっかりしてるなぁ。
「学校帰りに付きまとわれないようにね」
「あ、うん……気をつける」
出校日ともなれば、例のストーカー野郎も学校に来る。夏休みは接点が少ないから必ず接触をしてくるはずだ。それを心配して声を掛ければ、元気のない返事が返ってきた。なんだかミノリちゃんの様子がおかしい。そういえば、ウチに来た時から少し違和感があった。今日は特に暑いし、夏バテ気味なのかもしれない。
「アイス食べる? 持ってくるね~」
せめて冷たくて甘いもので元気づけてやろうと、俺は一人で階下の台所へ行き、冷凍庫からカップアイスを二つ取り出した。一緒に食べようと思い、昨夜の買い出しの時に買っておいたものだ。スプーンも持って階段を上がり、部屋に戻ると、本棚の奥深くに隠してあった本をミノリちゃんが手にしているところだった。
「~~~~~ッ!!?」
声にならない悲鳴を上げつつ、そっと本を奪い返し、隣の親父の部屋に投げ込む。そして、何事もなかったかのように彼女にアイスを手渡した。
「あ、ありがと。いただきます」
「ど、どうぞどうぞ」
どうしよう。
チョコチップアイスの味が分からねえ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
ようこそ精神障害へ
まる1
ライト文芸
筆者が体験した精神障碍者自立支援施設での、あんなことやこんな事をフィクションを交えつつ、短編小説風に書いていきます。
※なお筆者は精神、身体障害、難病もちなので偏見や差別はなく書いていこうと思ってます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
ephemeral house -エフェメラルハウス-
れあちあ
恋愛
あの夏、私はあなたに出会って時はそのまま止まったまま。
あの夏、あなたに会えたおかげで平凡な人生が変わり始めた。
あの夏、君に会えたおかげでおれは本当の優しさを学んだ。
次の夏も、おれみんなで花火やりたいな。
人にはみんな知られたくない過去がある
それを癒してくれるのは
1番知られたくないはずの存在なのかもしれない
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
彼女の音が聞こえる (改訂版)
孤独堂
恋愛
早朝の川原で出会った高校生の男女の普通に綺麗な話を書きたいなと思い書き始めましたが、彼女には秘密があったのです。
サブタイトルの変更と、若干の手直しを行いました。
また時系列に合わせて、番外編五つを前に置きましたが、こちらは読まなくても、本編になんら支障はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる