17 / 56
16話・カレー強奪
しおりを挟む「そんな嫌な思い出があるのに、なんで急に抱きついてきたの」
「ウッ……」
今更それを聞くのか。正直自分の痴漢行為を蒸し返されるのは恥ずかしいんだけど、ミノリちゃんは興味があるようだ。
「まさか、その友達の心境を理解しようと……?」
「そっ、そういうワケじゃないよ」
ソイツのことを思い出したのは抱きついた後だから、真似をしたわけではない。俺は単にミノリちゃんの後ろ姿にフラフラと引き寄せられてしまっただけ。完全に無意識の衝動だった。無意識で女子高生に抱きつくとか犯罪だ。
おまわりさん、俺です。
……いや、それだけじゃない。
まだ何かを忘れてる気がする。
「プーさんはさ、その友達から女扱いされてイヤだったんだよね」
「うん」
「でもまだ交流あるんでしょ?」
「……うん」
「じゃあ、もし何かされても軽く遇らえるくらい身体鍛えないと。家の中だって筋トレくらいできるよ。肌の色は仕方ないけど、その細さはヤバいもん。夏バテも心配だし、たくさん食べて体力つけてよね」
「う、うん」
「自分で撃退できるって自信がつけば、その友達と二人だけでも平気で遊べるようになるんじゃないかな」
「……そうだね。うん、その通りだ」
彼女の言うことはもっともだ。
全部体質のせいにして、いじけて閉じこもっているのは俺が弱いから。変わる努力をしなければずっとこのままだって分かっているのに。
「お鍋は冷蔵庫で保管してね」
「ん、わかった」
「じゃあ、また」
「気を付けてね」
夕方とは言ってもまだ明るい時間帯。
見送りのために玄関先まで出たら、古びた軽トラックが道路を挟んだ向かいにある駐車場に止まっていることに気付いた。今到着したばかりのようで、エンジンがまだ掛かっている。
ミノリちゃんが手を振って帰っていくのと入れ替わるように、車から薄汚れた作業服姿の男が降りてきた。
「……さっきの子はなんだ。彼女か?」
「ただのトモダチだよ」
「ふん。働きもせんと女と遊んで……」
「うるさいな、さっさと入れよ親父!」
普段は仕事で家にいない親父が二十日ぶりくらいに帰ってきた。相変わらず不機嫌そうな顔をしている。
俺が定職に就かずフラフラしてるのが気に食わないらしく、久々に会ったっていうのに説教が始まった。ミノリちゃんが家の中にいる時に鉢合わせなくて良かった。言い争うとこなんか見せたくない。
「昼間からダラダラして良い身分だな」
「別に、好きで家にいるワケじゃ……」
「働き口を探しておけと言っただろう」
「そんなもん、簡単に見つからねーよ」
都会ならともかく、車の免許も無く昼間外に出られないような奴が働ける場所なんかない。あっても見た目がこうだから面接の時点で落とされる。
家に入るなり、親父は鼻をひくひくさせ、コンロにある鍋を覗き込んだ。ミノリちゃんが作ってくれたカレーだ。
「うまそうじゃないか」
「それ、俺んだから食うなよ」
「オレのカネで買った材料で作ったんだろ。まずオレに食う権利があるだろうが」
それもそうだ。俺は一銭も稼いでないただの穀潰し。生活費は全部親父の金だ。この家で逆らうことなんか出来ない。
手料理に飢えているのは親父も同じ。
せっかくミノリちゃんが作ってくれたカレーは親父にほとんど食い尽くされてしまった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
もしもしお時間いいですか?
ベアりんぐ
ライト文芸
日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。
2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。
※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/light_novel.png?id=7e51c3283133586a6f12)
スマホゲーム王
ルンルン太郎
ライト文芸
主人公葉山裕二はスマホゲームで1番になる為には販売員の給料では足りず、課金したくてウェブ小説を書き始めた。彼は果たして目的の課金生活をエンジョイできるのだろうか。無謀な夢は叶うのだろうか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
彼女の音が聞こえる (改訂版)
孤独堂
恋愛
早朝の川原で出会った高校生の男女の普通に綺麗な話を書きたいなと思い書き始めましたが、彼女には秘密があったのです。
サブタイトルの変更と、若干の手直しを行いました。
また時系列に合わせて、番外編五つを前に置きましたが、こちらは読まなくても、本編になんら支障はありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる