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13話・彼女の悩み
しおりを挟む軽度の先天性色素欠乏症。
生まれつき肌や髪、瞳の色素が薄く、紫外線に弱い。実は視力もあまり良くない。弱視だから運転免許も取れない。車社会の田舎でこれは致命傷だ。ちなみに、軽度では日常生活に支障がないので障害者とは認められず、公的支援は一切ない。
何より、小さい頃から髪や肌の色で散々虐められてきた。中学や高校では入学前に申告しているにも関わらず、生徒指導の教師にしょっちゅう呼び出された。無理やりスプレーで髪を黒く染められたこともある。屋外での授業はほぼ見学。この見た目だ。周りはサボりだと思っただろう。
こんな体質に生まれて良かったことなんかない、と本音が口からこぼれ落ちた。
俺の言葉を、ミノリちゃんは黙って聞いていた。
大きな黒い瞳が揺らぐのが見える。可哀想だと思ったかもしれない。同情しているのかもしれない。少なくとも、めんどくさいヤツだと分かってくれただろう。俺なんかと居ても、この狭い部屋から出られない。
「俺、ショウゴみたいになりたかった」
ショウゴの全てが俺のコンプレックスを刺激する。俺に無いものをアイツは全部持っている。だから、アイツがミノリちゃんに興味を示した時、絶対に奪われると思った。ミノリちゃんがショウゴに対して警戒心しかないのを知って嬉しかった。
「……ご、ごめんなさい」
震える声でミノリちゃんが謝った。
「私、プーさんのこと全然分かってなかった。ただ身体が弱いだけだと思ってた。それなのに、私、すごく無神経なこと言っちゃった」
「いいよ、俺だって黙ってたんだし。身体が弱いってのはまあ、ホントのことだもん」
「でも、……」
ミノリちゃんはボロボロと涙を零している。
慌てて手を伸ばして頬を伝う雫を拭う。彼女の頬は真っ赤になっていた。泣いているからではない。彼女はいつも対面している時は顔が赤くなっている。
「ミノリちゃんも、体質で悩んでるんだよね?」
俺が尋ねると、彼女は驚いたように顔を上げ、そのあと小さく頷いた。
「わ、私、ずっと赤面症で悩んでるの。顔を見られると恥ずかしくて真っ赤になっちゃって。これでも小さい頃よりかなりマシになったんだけど」
「やっぱりね、そうだと思った」
両手のひらで熱くなった頬を隠す彼女。さっき泣いたせいで瞳が潤んでいる。
「バ、バレてた?」
「うん。あんまり真っ赤になるもんだから、最初は俺に気があるのかなって勘違いしそうになった」
「うわあ、恥ずかしい」
そう、赤面症が彼女がストーカー男子に執着された原因のひとつ。事情を知らない男は彼女の反応を見ただけで勝手に『脈あり』だと思い込む。しかも、この赤面症が原因で他人の目を見て話せなくなったらしい。目が合うと涙が勝手に出てしまうとか。
「普段は人と喋る時も無意識に顔にピントが合わないようにしてるの。視線を胸元に向けたりとか。そうしてれば平気だから」
言われてみれば、今まで彼女と真正面から向き合ったことはほとんどない。アルバイトはその方法で乗り切ったのだろう。本来苦手なはずの接客。ミノリちゃんは自分の体質に向き合い、克服しようと努力していた。
「俺も、瞳の色が薄いのバレるのが嫌で視線を外すのが癖になってる」
「だからプーさんとは特に喋りやすかったのかも。お互いそうしてたら絶対目が合わないもんね」
「そっか、確かに」
悩みを打ち明けたおかげで、重苦しかった空気が少しだけ軽くなった気がした。
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