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1話・炎天下の再会
しおりを挟む彼女と初めて会ったのは遊び仲間のショウゴに呼び出された先。アイツの女友達の家だった。その女友達の妹の友達が彼女、ミノリちゃん。たまたま居合わせて、少しだけ話をした。たったそれだけの仲。
ところが、思わぬところで再会した。
「……あの、大丈夫ですか」
「ぜんぜん大丈夫じゃない」
セミの鳴き声がやかましい七月上旬。炎天下の中、ブロック塀が作る僅かな日陰に逃げ込んで蹲る俺を見兼ね、通りすがりに声を掛けてくれたのだ。情けないことに、俺は強い日射しと暑さに弱り切って身動きが取れなくなっていた。
「良かったら使ってください」
「あ、ありがとう……」
彼女は肩に掛けていたスクールバッグを探り、中から折り畳み傘を取り出して広げてくれた。折り畳み傘が生み出す日陰が砂漠のオアシスのようだ。何とか立ち上がり、地べたに置いてあった買い物袋を拾う。立ちくらみでフラつく俺を心配してか、彼女は買い物袋を半分持ってくれた。その代わりに折り畳み傘を持つ。
「ごめん、助かる」
「いえ、気にしないでください」
「曇りだと思って油断してた。買い物終わって外に出たら晴れてるんだもん。途中で力尽きちゃった」
「今日は特に暑いですもんね」
そう言う彼女は涼しげな顔をしてはいるが、よく見ればこめかみに汗が滲んでいる。今日の気温はかなり高い。午前中に降ったにわか雨のあとに陽が差したものだから蒸し暑く、それも俺が行き倒れた理由のひとつだ。
他愛ない話をしているうちに家に着いた。先ほどの場所から僅か数百メートルの距離にある古い一軒家。
「少し寄ってかない? ジュース飲む?」
「え、でも」
下心はない。というか、ダウンしたばかりでそんな元気はない。純粋にお礼が目的で誘った。今を逃せば一対一で会えない気がしたから。
「お礼もしないで帰せないもん。ねっ?」
「……じゃあ、少しだけ」
玄関先で買い物袋を受け取った途端、再び足元がフラついた。放っておいたら危ないと思ったのだろう。彼女は先ほどまでの戸惑いを捨て、家に上がって台所まで買い物袋を運んでくれた。
一階は散らかっているので、二階の俺の部屋に通した。ここは本棚とローテーブルしかない。雑然とした我が家の中で一番片付いている部屋だ。
「ね、俺のこと覚えてる?」
上着を脱ぎながら話し掛けると、彼女はニコッと笑って頷いた。
「先週リエの家に居た人ですよね」
「覚えててくれたんだ!」
「そんな明るい金髪、他にいないので」
確かに、あの場に居た金髪は俺だけだ。この辺りではまず見ない、薄~い金色をしている。
リエというのは彼女の友達で、リエの姉であるマリが俺の遊び仲間ショウゴの女友達。つい先日その繋がりで知り合ったばかり。もっとも、先週は顔を合わせただけで自己紹介すらしていない。
「私、能登ミノリって言います」
「ミノリちゃんね。君みたいな礼儀正しい子がマリちゃんの知り合いとはね~」
ローテーブルの向かいに座る彼女を見た。近くの高校の制服であるセーラー服に膝丈のスカート。長い黒髪は縛らずそのまま下ろしている。顔立ちは可愛いけど、全体的に飾り気のない地味な子だ。マリは割と派手めな子で、その妹のリエも姉に倣い、肩までの髪を茶色に染めている。傍目から見て、彼女とマリ達との共通点はない。
「リエとは小学校に上がる前からの友達なんです。マリさんは私のお姉ちゃんと同級生で」
「なるほど、幼馴染みか」
「それで、ええと、その」
彼女はこちらをチラチラ見ながら首を傾げている。なんだか気まずそうだ。どうしたんだろう。
あ、俺まだ名乗ってなかった。
「そうそう、俺は──」
「思い出した! 確かマリさんから『プーさん』て呼ばれてましたよね?」
「えっ? あ、うん」
それは俺のアダ名だ。
「プーさんは今日お仕事休みなんですか?」
「ウッ……」
平日の昼間からウロウロしているところを見られたのだ。彼女が疑問に思うのは当たり前。
「……無職だから『プーさん』て呼ばれてんだよね」
「あ、ごめんなさい」
心底申し訳なさそうに謝られた。
いいんだ、ホントのことだから。
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