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【番外編】最終話以降のお話
28話・直談判 1
しおりを挟む両想いになってから、穂堂は阿志雄の気持ちを疑ったことはなかった。何故こんなに好かれているのかと不思議に思うことは多々あるが、惜しみなく注がれる愛情は間違いなく自分に向けられたものだと信じていた。
だが、ふたりの出逢いの切っ掛けは、阿志雄が憧れの先輩である伊賀里を追い掛けてきたから。
すれ違い転勤さえしなければ。
本社で一緒に働けていれば。
阿志雄は穂堂に目もくれなかっただろう。
──自分は伊賀里の代用。
最初のうちはそれを理解していた。
その上で友人になったはずだった。
行き先も言わずに出掛けた先で、阿志雄は伊賀里に会っていた。何もやましいことがないのなら、予定が決まった時点で報告をするはずだ。
『阿志雄、欲求不満になってたりして』
『浮気されても知らないわよ』
奏の言葉が何度も頭の中で再生される。
彼女は軽い気持ちで言っただけかもしれないが、不安に陥った心を揺さぶるには十分なひと言だった。
翁崎家から自宅マンションに戻り、がらんとした広いリビングで立ち尽くす。彼がいないだけで、住み慣れた部屋が途轍もなく冷たく無機質な空間に思えた。
「伊賀里先輩、すみません付き合わせて」
「気にしないで。御礼はちゃんとして貰うから」
「うっ……オレの出来る範囲でお願いします」
日曜にわざわざ予定を空けてもらい、阿志雄は伊賀里と共にある場所を目指していた。彼にしか頼めないことがあったからだ。
「それにしても、個人的に会いたいなんてね」
「大事な話がありますんで」
今日は仕事ではなく完全なプライベートだ。カジュアルな私服姿で駅の構内を歩いて先導する伊賀里は、ちらりと後ろの後輩を振り返った。
阿志雄も年齢相応の私服姿である。伊賀里にとって彼は今や同業他社のライバルだが可愛い後輩である。頼られて嬉しくないはずがない。
待ち合わせた駅から電車で移動し、行き着いた先はオフィス街。休日だからか人の行き来はまばらだ。大通りから一本入った場所にあるカフェに入り、目当ての人物を探す。
「あ、いたいた」
伊賀里はすぐに『彼』を見つけ、離れた場所から手を振った。オープンテラスのテーブル席にひとりで座っている男性が名を呼ばれて顔を上げる。
「伊賀里さん。それに、阿志雄さんも」
「どーも。お久しぶりです九里峯さん」
伊賀里の後ろから姿を現した阿志雄を見ても、九里峯はわずかに眉を上げるのみ。涼しげな表情を崩しもしない。
阿志雄が本社のある地方都市から東京までやってきた理由は、直接彼に会うため。
新会社にはかつて共に働いた同僚たちもいるが、九里峯個人の連絡先を知っている保証はない。その点、伊賀里は以前本社営業部に九里峯を紹介しに来た実績がある。確実に連絡を取るため、阿志雄は伊賀里を頼って彼を呼び出してもらった。
「あとは二人で大丈夫?阿志雄くん」
「ハイッ!伊賀里先輩ありがとうございました」
「んじゃ、またね~!」
九里峯と阿志雄を引き合わせ、伊賀里はその場から颯爽と去っていった。もちろん今回の見返りはしっかり要求されており、後日対応する約束になっている。
「座ったらどうです」
「失礼します」
視線で向かいの椅子を指し、九里峯は同席を許した。阿志雄は遠慮なく椅子に腰を降ろし、やってきた店員に飲み物を注文してから向き直る。
「何故オレが来たか分かりますか」
「さあ?でも、怒っているように見えますね」
「怒ってますよ、アンタに」
傍目からは談笑しているように見えるが、目は笑っていない。互いの腹の内と出方を探り合っている。
「伊賀里さんに頼まなくても、会社を通してアポを取って下されば良かったのに」
「オレはそっちの社長から嫌われてますからね。それに、コレは個人的な話なんで」
東京支社の本社化を妨害した中心人物は阿志雄だ。そのせいで新会社を立ち上げることになり、紡は未だに根に持っている。社長の逆鱗に触れた阿志雄に協力したがる者はそうそういない。
「前に名刺をお渡した気がするんですが」
「あんなもん店を出てすぐ破り捨てました」
「おや、それは酷い」
当時の名刺は九里峯リサーチのものだが、プライベートの携帯番号は今と変わりない。
以前ふたりだけで飲んだ際、渡された名刺は怒りのままに処分した。社会人としてあるまじき行為だが、業務提携を受ける気などなかったし、個人的に連絡を取るつもりもなかった。まさか今頃になって、その連絡先が必要になるとは思いもしなかった。
「それで、私に何のご用事ですか」
「鍬沢のことです」
「……ほぅ」
その名前を聞いて、九里峯が僅かに目を見開く。
阿志雄が東京まで来た本当の理由。
それは、九里峯に聞きたいことがあるから。
「裏で鍬沢にちょっかい出してますよね。それも一度や二度じゃない。どういうつもりなのか、この際ハッキリさせてもらいます」
「君には関係ないでしょう」
「関係ありますよ。鍬沢はオレと穂堂さんの大事な友達だ。アンタみたいな奴に付き纏われてると知った以上、放っておくわけにはいきません」
テーブルを挟み、阿志雄は目の前の男を睨みつけた。
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