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【番外編】最終話以降のお話
16話・呼び出し
しおりを挟む月曜の朝。
穂堂はいつものように本社のロビーで阿志雄と別れ、まず総務部の自分のロッカーに鞄を置きに行った。始業時間まで二十分ほど余裕がある。すぐに廊下に出てエレベーターに乗り込み、最上階のフロアのボタンを押す。
「おはよう徹」
「おはようございます学さん」
社長室では株式会社ケルストの社長、翁崎 学が待っていた。これから軽いミーティングという名のメンタルケアが始まる。
「昨日の会食でまた先方から要求されてな。軽く流してはいるが……」
「以前から何かと言われてますよね。会社の力関係は均衡しておりますので、理不尽な話でしたら突っ撥ねてしまっても問題ないでしょう」
社長の仕事は会社の運営が円滑に行えるよう周辺の企業や団体との繋がりを持つことも含まれる。要求は寄付であったり商品の確保であったり、時には社員同士の縁談であったり。阿志雄をはじめとした将来有望な若手社員を紹介してほしいと頼まれることもある。
押しに弱い学は義理と人情に板挟みにされ、時折無理な話を持ちかけられては困り果てていた。その度に穂堂に相談して精神面を支えてもらい、何とか社長としての体裁を保ってきた。
「……学さん、大丈夫ですか?」
「ああ、平気だ。徹に話したらスッキリしたよ。きっぱり断っておく」
「それが良いかと」
以前ならばもっと弱音を吐いて縋り付いてきた学だが、最近は違う。悩み事を吐き出しはするが、過度に慰めてもらうことが無くなった。穂堂が阿志雄と交際を始めたのを機に、社長としてしっかりせねばと考えたらしい。
少し寂しいが、学がせっかく精神的な自立を決意したのだ。穂堂は黙って新たな距離感に慣れようとした。
「今日紡が来ると母さんたちが言っていたんだが、徹は何か聞いているか」
「いえ。秘書の方には?」
「何の連絡もないそうだ。本社に立ち寄るという話だが、私に話があるわけではないようだな」
翁崎 紡は学の弟で、以前は株式会社ケルストの東京支社長を務めていた。現在は東京支社を本社から切り離して新会社を立ち上げ、社長に就任している。分社、独立の手続きはとうに済んでおり、仕事上でのやり取りは特にない。
「あいつも本社には思い入れがあるだろう。用もなくフラッと立ち寄りたくなったのかもしれんな」
「……そうですね」
楽観的な言葉に、穂堂は曖昧な笑みで応える。
紡は無駄を嫌う。地元とはいえ、こんな離れた地方都市に理由もなく訪れるだろうか。事前に実家に連絡を入れているところをみれば、単なる思い付きや行き当たりばったりな行動ではないと分かる。
彼から疎まれている自覚のある穂堂は、やや複雑な気持ちのまま社長室を辞して自分の部署へと戻った。
昼休みに社員食堂で食事を取っている最中、鍬沢の会社支給携帯が鳴った。発信元は直属の上司である情報システム部の部長からだ。
「なんか知らないけど、上司から呼ばれたんで先に戻りますね」
「珍しいですね。忙しいんですか」
「いや、仕事の話じゃないみたいで」
呼ばれた本人も何の用件かよく分かってないようで、突然の呼び出しに首を傾げている。
トレイを下げに行く鍬沢の後ろ姿を見送りながら、ひとり食堂のテーブルに取り残された穂堂は小さく息をついた。
この呼び出しの件に自分も関わることになるとは、今の彼には知る由もなかった。
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