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【番外編】最終話以降のお話
15話・新しいアルバム【FA有】
しおりを挟む翁崎家の居間。
穂堂がいない隙にアルバムを見せてもらっている最中に思わぬ事実を知らされ、阿志雄は言葉を失った。
「産後のお見舞いや会社に来た時に周りの方が撮ってくれていた写真は残っているけれど、自宅で保管していたアルバムは……」
穂堂の父・要路は我が子の本当の父親は先代社長ではないかと疑っていた。穂堂の母・薫が病で亡くなった後は気が触れ、自宅にある思い出の品を全て捨てたという。
「この話になれば当然過去の写真の在り処を聞かれてしまうから、徹くんは気が進まなかったのかもしれないわねぇ」
「……っ」
生まれてから九歳までの写真がない。
それは実の父親から疎まれていた証拠。
そんなことを知られたいと誰が思うだろう。
だからアルバムが見たいと話をした時に悲しそうな顔をしていたのか、と阿志雄は項垂れた。軽い気持ちで尋ねたことが穂堂を傷付けたと悟り、自分の考えの甘さに溜め息をこぼす。
落ち込む阿志雄を見て、志麻は目を細めた。
この青年は穂堂の気持ちを何より大切に思い、胸を傷めてくれている。彼にこの話をしたのは、何も知らずに追及して穂堂を悲しませないため。
「ねえ、真司くん。徹くんは近頃とても良い笑顔を見せてくれるようになったわ。きっとあなたのおかげね」
「でもオレ、失敗ばっかで」
「いいえ。あなたがまっすぐ好意を向けてくれているから徹くんは安心していられるの。私たちは家族だけれど、あの子を一番には考えてあげられなかった」
志麻は学たちと分け隔てなく接するように努めていたが、実子より優先できるわけではない。
先代社長も現社長の学も穂堂を可愛がっていたが、それは自分と会社のためでもある。
他の何よりも穂堂を最優先に考えて行動に移したのは、阿志雄が初めてかもしれない。
「これからも徹くんをよろしくね」
「はいっ、もちろんです!」
最初に挨拶に来た時、阿志雄は養い親である志麻たちに穂堂への想いを隠すことなく打ち明け、頭を下げた。
潔さと清々しい態度に押され、すぐに受け入れた。受け入れざるを得なかった。既に穂堂が阿志雄を心の拠り所としていたからだ。
阿志雄の人柄を知らぬうちは、もし反対すれば、穂堂が掻っ攫われてしまうのではないかと恐れた。
だが、彼は穂堂を悲しませることを何より嫌う。
もし反対されたとしても交際を認めてもらうための努力は惜しまなかっただろう。
「あら、そろそろ戻ってくるみたい」
採寸をしに別室に移動していた由里からメールが届いた。志麻がアルバムを戸棚に隠し終えた直後、穂堂と由里が居間に戻ってくる。
「次に来る時までにお直ししておくわ」
「すみません。お願い致します若奥様」
「いいのよ~好きでやってるんだもの」
寸法直しを仕立て屋に頼まないのは由里の趣味が洋裁だから、ということになっている。本当の理由は穂堂が翁崎家に来る切っ掛けを作るため。
「今日はふたりの顔が見られて嬉しかったわ。いつでも遊びに来てちょうだいね」
「はい、ありがとうございます」
口調は敬語のままではあるが、穂堂の表情は柔らかい。会う度に少しずつ変化していく彼を見て、志麻も由里も嬉しく思った。
「穂堂さん」
「なんですか阿志雄くん」
「近いうちにまた来ましょうね」
「そうですね、スーツが仕上がる頃に」
帰りの車内。運転している穂堂の横顔を眺めながら、阿志雄は明るく声を掛ける。
「あと温泉も」
「ええ、私もまた行きたいです」
先代社長が引き取り、翁崎家の人たちが大事に育ててくれたからこそ今の穂堂がある。彼の愛する家族を大事にしようと阿志雄は胸に誓う。
そして、失われてしまった過去の写真の代わりに、たくさん思い出を作って新しいアルバムを埋め尽くしていこうと決めた。
***
「お母様、あした紡さんが来るそうですよ。昼間に本社に行って、帰りにこちらに寄るんですって」
「まあ、新会社に移ってから初めてね」
経営方針の違いを理由に株式会社ケルストから東京支社を分離し、紡は新会社を立ち上げた。会社が軌道に乗るまでは多忙で帰省することもなかったが、数ヶ月ぶりに実家に顔を出すという。
「また学とケンカしなきゃいいんだけど」
「もう別の会社だし、きっと大丈夫ですよ」
志麻と由里は顔を見合わせ、クスッと笑った。
┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼
ショタ穂堂さんイラストはミドリ様からいただいたファンアートです
前話を読んで描いてくださいました😭ブワッ
きっと先代社長か志麻さんが撮ったのでしょう…
ミドリ様、ありがとうございました~!
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