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最終章 嵐のあとで
89話・電話の向こうにいる相手
しおりを挟む──また知らない番号から着信がある。
鍬沢は自分のスマホの着信履歴を見返しながら眉間に皺を寄せた。同じ番号から数日おきに何度か着信があり、どうしたものかと頭を悩ませる。
さっさと着信拒否してしまえば済む話だが、こうも頻繁に着信があると大事な連絡ではないかと心配になってくる。
(会社関係の人ではないし、昔の同級生が携帯の番号を変えたとか?)
ケルストの社員ならば会社支給携帯のほうに連絡が来る。学生時代からの友人ならば、連絡がつかない時点で他のメンバーを通じてその旨を伝えてくるはずだ。それ以外の知り合いに心当たりはない。
かといって、素直に折り返し電話をするほど危機意識は薄くない。気にはなるが着信拒否してしまおう、と操作をしている時だった。スマホ画面をいじっているタイミングで電話が鳴り、うっかり通話ボタンをタップしてしまう。
マズい、と思った時にはもう遅い。
鍬沢は件の知らない番号からの電話に出てしまった。
繋がってしまった以上ひと言詫びて切るほかない。相手が誰か気になっていたことは事実。知り合いなら声を聞けば分かるし、間違い電話ならばこれきりに出来る。
意を決し、鍬沢は「もしもし……?」と恐る恐る電話の主に声を掛けた。
『こんにちは、鍬沢さん』
「?……こんにちは」
『やっと出てくれましたね。ちょっと諦め掛けていたんですよ』
「えっと、あの……」
電話の向こうから聞こえてきたのは落ち着いた大人の男の声。自信に満ち溢れた話し方に、鍬沢は更に困惑した。
相手はどうやら自分を知っている。だが、鍬沢はこの声に全く聞き覚えはなかった。親族でも友人でも会社関係の人間でもない。誰だろうと悩み、言葉を詰まらせる。
『驚くのも無理はありませんよね。実際、顔を合わせてお話したことすらないんですから』
自分が忘れていたわけではなく、そもそも話すこと自体が初めてだったと分かり、鍬沢はホッと息をついた。電話の向こうで小さく笑われ、気を引き締め直す。
「あの、すみません。どちら様ですか?」
相手はまだ名乗っていない。
誰なのか判明すればどう対応すべきかが分かる。意を決して尋ねると、あちらの気配が少し変化した。
『私は九里峯と申します』
その名前を聞いた途端、鍬沢は反射的に通話を切った。すぐさまこの電話番号を着信拒否し、履歴も全部消す。全てを終えてから、フーッと盛大な溜め息を吐き出した。
ホッとしたのも束の間、すぐにまたスマホが鳴った。先ほど着信拒否した番号とは違うが、連絡先未登録の知らない番号からだ。恐らく九里峯が別の携帯から掛け直しているのだろう。鍬沢はその番号も着信拒否にした。
しかし、それでは終わらなかった。
なんと何度も同じようなことが繰り返されたのである。そのうち面倒になってしまい、鍬沢は九つ目の知らない番号から掛かってきた際に腹を括って電話に出た。
「いい加減にしてください!アンタと話すことなんかありません」
『ははは、ようやく出てくれましたね。危うく手持ちの電話が無くなるところでした』
怒鳴る鍬沢に対し、九里峯は呑気な声で笑う。その態度が神経を逆撫でした。調査の仕事で使うのだろうが、一体幾つ携帯電話を所持しているのか。
『先に私を見つけたのは貴方でしょう?おかげで阿志雄さんからは嫌われるし、穂堂さんも手に入れ損ねてしまいました』
「……」
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裏の仕事を邪魔された腹いせに今度は自分を標的にしたか、と鍬沢は顔を顰めた。
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