【完結】営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
90 / 142
最終章 嵐のあとで

89話・電話の向こうにいる相手

しおりを挟む


 ──また知らない番号から着信がある。

 鍬沢くわざわは自分のスマホの着信履歴を見返しながら眉間に皺を寄せた。同じ番号から数日おきに何度か着信があり、どうしたものかと頭を悩ませる。
 さっさと着信拒否してしまえば済む話だが、こうも頻繁に着信があると大事な連絡ではないかと心配になってくる。

(会社関係の人ではないし、昔の同級生が携帯の番号を変えたとか?)

 ケルストの社員ならば会社支給携帯のほうに連絡が来る。学生時代からの友人ならば、連絡がつかない時点で他のメンバーを通じてその旨を伝えてくるはずだ。それ以外の知り合いに心当たりはない。

 かといって、素直に折り返し電話をするほど危機意識は薄くない。気にはなるが着信拒否してしまおう、と操作をしている時だった。スマホ画面をいじっているタイミングで電話が鳴り、うっかり通話ボタンをタップしてしまう。

 マズい、と思った時にはもう遅い。
 鍬沢は件の知らない番号からの電話に出てしまった。

 繋がってしまった以上ひと言詫びて切るほかない。相手が誰か気になっていたことは事実。知り合いなら声を聞けば分かるし、間違い電話ならばこれきりに出来る。
 意を決し、鍬沢は「もしもし……?」と恐る恐る電話の主に声を掛けた。

『こんにちは、鍬沢さん』
「?……こんにちは」
『やっと出てくれましたね。ちょっと諦め掛けていたんですよ』
「えっと、あの……」

 電話の向こうから聞こえてきたのは落ち着いた大人の男の声。自信に満ち溢れた話し方に、鍬沢は更に困惑した。
 相手はどうやら自分を知っている。だが、鍬沢はこの声に全く聞き覚えはなかった。親族でも友人でも会社関係の人間でもない。誰だろうと悩み、言葉を詰まらせる。

『驚くのも無理はありませんよね。実際、顔を合わせてお話したことすらないんですから』

 自分が忘れていたわけではなく、そもそも話すこと自体が初めてだったと分かり、鍬沢はホッと息をついた。電話の向こうで小さく笑われ、気を引き締め直す。

「あの、すみません。どちら様ですか?」

 相手はまだ名乗っていない。
 誰なのか判明すればどう対応すべきかが分かる。意を決して尋ねると、あちらの気配が少し変化した。

『私は九里峯くりみねと申します』

 その名前を聞いた途端、鍬沢は反射的に通話を切った。すぐさまこの電話番号を着信拒否し、履歴も全部消す。全てを終えてから、フーッと盛大な溜め息を吐き出した。

 ホッとしたのも束の間、すぐにまたスマホが鳴った。先ほど着信拒否した番号とは違うが、連絡先未登録の知らない番号からだ。恐らく九里峯が別の携帯から掛け直しているのだろう。鍬沢はその番号も着信拒否にした。

 しかし、それでは終わらなかった。

 なんと何度も同じようなことが繰り返されたのである。そのうち面倒になってしまい、鍬沢は九つ目の知らない番号から掛かってきた際に腹を括って電話に出た。

「いい加減にしてください!アンタと話すことなんかありません」
『ははは、ようやく出てくれましたね。危うく手持ちの電話が無くなるところでした』

 怒鳴る鍬沢に対し、九里峯は呑気な声で笑う。その態度が神経を逆撫でした。調査の仕事で使うのだろうが、一体幾つ携帯電話を所持しているのか。

?おかげで阿志雄あしおさんからは嫌われるし、穂堂ほどうさんも手に入れ損ねてしまいました』
「……」

 少ないヒントを元に片桐かたぎりを裏で操っていた犯人の正体を突き止め、警戒すべき人物だと阿志雄たちに告げたのは鍬沢だ。
 東京支社長と組み、穂堂を辞めさせるために彼の担当である社員食堂に目を付け、他社の人間を絡めて非常に遠回しな嫌がらせをした。食品偽装をやらせた九里峯は絶対に許せない。

 裏の仕事を邪魔された腹いせに今度は自分を標的ターゲットにしたか、と鍬沢は顔をしかめた。

しおりを挟む
▼▽▼ みやこ嬢のBL作品はこちら ▼▽▼

《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。

《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい

《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

《 異世界最強魔法使い総受 》
魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

《 ダンジョン探索で深まる関係 》
凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(Iかつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...