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最終章 嵐のあとで
87話・下心ありの提案
しおりを挟むふたりで暮らすにあたり、色々と決めねばならないことがあった。
まず部屋割り。
世帯用マンションのため、キッチンやリビング以外に独立した部屋が四つある。そのうちの一つは現在穂堂が寝室として使っているが、他の部屋は何も置かれていない完全な空き部屋だ。
「空いてる部屋は自由に使ってください」
「いやいやいや、部屋数多くないですか」
「実際余ってますね」
「アパート暮らしに慣れた後だと、どう使ったらいいか見当もつかないんですけど」
阿志雄のアパートは1DK。
穂堂のマンションのリビングに余裕で収まるスペースで生活が完結しているのだ。急に広い空間を与えられても持て余してしまう。
「なんでこんなに広いんですか」
「多分、家族で住めるように?」
「よく平気で住んでいられましたね」
「今はちょっと怖いです」
いつか学に返すつもりで、管理を兼ねて住んでいただけ。改めて自分の住居として考えると、確かに広過ぎる。
このマンションを買ったのは先代社長だ。自分に三人子どもがいることから、夫婦の部屋と子ども部屋として四部屋ある物件を選んだのだろう。いずれ穂堂が結婚し、幸せな家庭を築くことを願って。
「今どんな感じで部屋を使ってるか見せてもらってもいいですか?」
「何もないですよ」
玄関横の、他よりやや狭い北側の部屋が穂堂が寝起きしている場所だ。主寝室ではなく子ども用の部屋なのだろう。床に傷がつくからという理由で、今までベッドや家具は置いていなかった。夜はクローゼットから布団を出し、敷いて寝ているという。
本当に何もなくて阿志雄は唖然とした。
「えー……と、広いほうの部屋にベッド買って置きましょうか」
「え、でも私はここで十分です。君がそちらを使ってください」
「家主より広い部屋をオレが使うわけにはいかないっすよ」
「ひとりで使うにはちょっと」
現在寝起きしている部屋の広さは八帖。
主寝室の広さは十二帖。
ひとりで寝るには広過ぎる。
「じゃあ、い、一緒に寝ます……?」
大きなベッドを置き、ふたりで寝る。
まだ何の進展もないとはいえ、一応は恋人である。おかしな提案ではないが、穂堂からどんな反応が返ってくるか全く予想出来ず、阿志雄は緊張で声を震わせた。
しかし。
「いいですね、そうしましょう」
穂堂の返事は驚くほどアッサリしたものだった。あまりにも簡単に受け入れられてしまい、阿志雄は逆に狼狽えた。
「え、いいんですか穂堂さん」
「何がです?」
「アッいえ、大丈夫ならいいんです」
よほど気を許されているのか。
はたまた警戒されていないだけか。
とりあえず一番広い部屋をふたりの寝室とし、小さめの部屋をひとつずつ個人の部屋として使う。残りのひと部屋の使い途は追々考えようという話でまとまった。
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