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第7章 未来を切り拓く選択
83話・本社の母の底力
しおりを挟む東京支社が株式会社ケルストから分割され、別会社となることが決まった。
現在に至るまで中堅層の社員を東京支社に引き抜かれている。更に追加で勧誘を受け、迷っている者も多い。同じ会社だった時は問題にはならなかったが、このままでは働き盛りの優秀な社員ばかりを他社にごっそり持っていかれることになる。
新会社がうまくいくかどうかは未知数。妻帯者や慎重な者は自ら本社または大阪支社に戻ったが、それでも引き抜かれたうちの大半が東京支社側に残っている。人材の流出が一番の痛手だ。これには本社社長の学も頭を悩ませていた。
ただ手をこまねいているだけでは終わらない。
阿志雄にはまだ秘策があった。
「九里峯と組んだ奴に容赦はしません」
情報システム部の鍬沢は、東京支社がまだネットワークで繋がっているうちにある仕掛けを施していた。社内ポータルサイトの一番目立つ位置に本社社員食堂のコーナーを設置したのだ。その内容は、本社に勤務したことのある人間の心を大きく揺さぶるものだった。
本日の献立と料理の写真。
健康を気遣った野菜たっぷりのメニュー。
食堂のおばちゃん和地の写真もある。
このコーナーがかなりの効果を発揮した。
東京支社の社員食堂は最低限のメニューしかなく、味は二の次。栄養バランスなどは一切考慮されていない。外に出れば幾らでも美味しい飲食店があるが、毎日利用するには金が掛かる上に移動や待ち時間で休憩時間が無くなってしまう。それ故に、仕方なくマズい社員食堂を利用している者がほとんどである。
そんな食生活に嫌気がさしてきた頃に本社社員食堂の美味しそうな料理の写真を見せられ、懐かしむ社員が続出した。最終的に引き抜かれた社員のうち、三分の二ほどが戻ってくることとなった。
「阿志雄さんの予想通りになりましたね」
「穂堂さんが言ってたんだよ。和地さんは『本社の母』で、あの料理を食べたことがある奴はみんな和地さんの支配下に置かれるってな」
「間違いではありません。どんなに言葉を尽くすより有効に働きました。やはり我々は和地さんの支配下にあります」
「穂堂さん、言い方!!」
営業時間外の社員食堂で語らうのは阿志雄と鍬沢、穂堂、和地の四人。
社内ポータルサイトの社員食堂コーナーは人気があり、役目を終えた後も継続されることが決まった。食堂の献立だけでなく、簡単な料理のレシピを載せることで本社勤務以外の者も楽しめるようになっている。
発案者は阿志雄だが、料理の撮影や写真加工、記事の掲載は鍬沢が全て担当している。
「結局、九里峯リサーチと本社営業部の業務提携話も白紙になったしなぁ」
「当たり前です。もし九里峯が本社に出入りするようになったら僕は何をするか分かりません」
「おまえ直接会ったら殴り掛かりそうだよな」
「否定できないですね」
「こわっ」
東京支社は株式会社ケルストから分かれ、九里峯リサーチと合併して新会社を立ち上げることになった。代表は翁崎 紡、九里峯は補佐に回るという。伊賀里は紡に付いて行ってしまった。
憧れの先輩と袂を分かつことになり、阿志雄は気落ちした。
「引き留めなくて良かったんですか?」
「残念ですけど、伊賀里先輩が選んだ道なので。それに、オレには穂堂さんが居ますから」
「阿志雄くん……」
穂堂の気遣いに阿志雄は気丈に笑ってみせる。
手を取り見つめ合うふたりに、向かいに座る鍬沢が盛大な溜め息をついた。
「イチャつくなら退勤後にしてくださいよ」
「あらっ!ふたりともそうだったの?」
食品偽装事件を解決した功労者同士の交際を知り、和地がお祝いにパンケーキを焼いて振る舞う。あり合わせの材料で作ったとは思えぬ出来映えに感激した鍬沢は、更に和地に心酔することになった。
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