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第7章 未来を切り拓く選択
81話・賽は投げられた
しおりを挟む珍しく泣き言を漏らす佐々原を見て阿志雄は笑いを噛み殺した。悟られぬよう、さり気なく口元を手にした図面で隠す。
「まだ本社が無くなるって決まったわけじゃないだろ。それを主張してんのは東京支社長だけなんだし、本社の社長と大阪支社長が反対すりゃ良いだけの話だ」
「そ、そっかぁ」
阿志雄の言葉にホッと安堵の息をつく。佐々原は、大阪支社長の奏と直接話せる間柄にある。頼めば本社存続に力を貸してもらえるはずだ。
「んで、本社が存続するためには、穂堂さんが本社に居続けなくちゃならねーんだよな」
「はぁ?なんで穂堂さんが?」
「あの人は本社に無くてはならない人だからだよ。もし居なくなったら東京支社長の筋書き通りになるだろーなぁ」
「筋書きって何よ」
「この本社ビルぶっ壊して更地にして、営業所用に小さなビルを建てるか借りるかするってこと」
「えっ……」
そうなれば、やはり佐々原の仕事は無駄に終わってしまう。
当初の予定では穂堂と親密になり、大阪に戻って結婚するつもりだった。穂堂との縁談話が出た時にすぐに食い付いたのは奏の側に居るためだ。そのためだけに、よく知りもしない男と結婚する覚悟を決めた。
本社に『出向』してみて、穂堂が真面目な働き者であるとすぐ分かった。面白味は全くないが害にはならなさそうだと判断して、ゴーサインが出た瞬間に逆プロポーズをした。
しかし、仕事中はともかくプライベートでは何ひとつ話が盛り上がることはなく、ほんの数十分一緒に居ただけで息が詰まった。
穂堂を大阪に連れ帰れるのであれば我慢も出来るが、佐々原が本社に残るという選択肢は有り得ない。奏と離ればなれになってしまうのなら、結婚する意味が無くなる。かと言って、穂堂を本社から引き離せば、せっかくの大仕事が全て無駄に終わってしまう。
「おまえの中で、一番優先させたいことは何だよ。休憩所を計画通りに作ることか?穂堂さんと結婚することか?」
自分が鍬沢から問われたように、阿志雄も問う。これで穂堂を優先するならば、彼女とは真っ向から戦わねばならない。
「あ、アタシは……」
だが、そうはならないと阿志雄は知っている。
「おまえの一番は別にあるだろ」
「……でも!」
佐々原には簡単に引き退がれない理由がある。
わざわざ本社に転勤までして畑違いの仕事をこなしてきたのは、穂堂と結婚して奏を喜ばせるため。もし出来なければ、奏の期待を裏切ることになる。奏の希望と自分の希望が折り合わず、佐々原は下唇を噛んだ。
「おまえの大事な人は、それくらいでおまえを見限るような薄情モンか?」
「ちゃうわ!!」
それまで狼狽えていた佐々原がキッと目を吊り上げ、阿志雄の手から図面を引ったくった。
「奏さんはそんな人じゃない!穂堂さんと結婚出来ないくらいでアタシを見捨てたりしない!!」
そう言い放ち、佐々原は走り去った。
彼女の言葉は自分自身に言い聞かせているようでもあった。少し苛め過ぎたか、と阿志雄は反省する。
佐々原の言動や穂堂から聞いた話をまとめれば、彼女が一番望んでいることは容易に想像がついた。どういう縁かは知らないが、佐々原は大阪支社長の奏に心酔しており、奏の役に立つことだけを目標としている。
つまり、彼女の一番は穂堂ではない。
そんな女に譲ってやるほど阿志雄はお人好しではない。わざと彼女を焚き付け、佐々原自身の口から縁談を断らせ、更に本社存続のための嘆願をさせるように仕向けた。
アルムフードサービスの有里村に決断を急がせるよう穂堂を通じて頼んだのも阿志雄だ。本社が無くなって困るのは有里村も同じこと。彼女は佐々原と穂堂を引き離すだけでなく、今回も役に立ってくれた。
元々、奏は本社存続派である。
本社社長の学の意思がしっかり固まった今、数の上では有利。あとはトップの話し合い次第となる。阿志雄にはこれ以上の介入は出来ない。
「さーて、うまくいくといいけどなぁ」
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