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第7章 未来を切り拓く選択
80話・初めての大仕事
しおりを挟む「案がまとまってきましたので、そろそろ承認を頂いて話を進めたいんですけどよろしいですか」
「そうですね~、確認してみます!」
アルムフードサービスの有里村に促され、佐々原は笑顔で返事をした。本社ロビー脇にある空き部屋に新設する休憩所の担当を任されて以来、佐々原は有里村との打ち合わせを続けてきた。
しかし、佐々原に最終決定権はない。どれだけ打ち合わせを重ねて案を練っても、上司が承認しなければ先に進めることは出来ない。
佐々原はこの件を穂堂から引き継いだ。だから承認も穂堂がしてくれるものと考えて尋ねてみた。
「この件の責任者は穂堂さんですよね?」
「ええ。決定権は私にありますが、残念ながら良し悪しの判断が出来ません。どなたかセンスの良い方に見ていただいてよろしいですか?その方が問題なしと判断すれば話を進めていただいて結構です」
「センスの良い人……ですかぁ」
佐々原は頭を悩ませた。
大阪支社から本社に移って一ヶ月半。ほとんどの社員と言葉を交わして顔見知り程度の仲になってはいるが、個人の趣味やセンスまでは把握していない。これは、と思うような人が思い浮かばず困っている様子を見て、穂堂が「本社の社員でなくても大丈夫ですよ」と付け足した。
「じゃあ奏さんにお願いしてみます!」
「そうですね。奏さんなら大丈夫でしょう」
早速佐々原は計画書と図面を持って奏の元と向かった。経営者兄妹の話し合いはまだ続いており、昼間はずっと社長室と同じフロアにある応接室で意見を戦わせている。時々休憩を挟むので、その時を狙って見てもらおうと考えた。
エレベーターに乗り、最上階へと向かう途中で男性社員がふたり乗ってきた。彼らは佐々原を見るなり笑顔で話し掛けてきた。
「あれ、佐々原ちゃんじゃ~ん!最近あんまり見掛けないから心配してたんだよ~」
「大阪支社に帰っちゃったかと思った!」
「あはは、すみませぇん。ちょっと忙しくって~」
大阪に帰れるもんならとっくに帰っとるわ、と佐々原は心の中で悪態をついた。上階へと上がるまでの数十秒だけやり過ごそうと、いつもの愛想笑いを浮かべる。
「それよりさぁ、本社が無くなっちゃうかもって話聞いた?」
「え……なんですかそれ」
「まだ本決まりじゃないけど、本社を営業所にして東京支社を本社にする案が出てるんだって」
「だから伊賀里が東京来いって言ってたんだろ。飲んでたからあんまり真剣に聞いてなかったけど、どうやらマジらしいな」
「そうなったら本社ビル取り壊されるんじゃね?」
話すうちに営業部のある階に到着し、ふたりは手を振りながら降りていった。にこやかに手を振り返していた佐々原だが、エレベーターの扉が閉まる直前に外に飛び出して彼らの後を追った。
「あのっ、今の話もうちょい詳しく!」
男性社員から話を聞いた佐々原は、そのまま行く当てもなく廊下を歩いていた。
もし本社が取り壊されることになれば休憩所の計画も全て白紙になる。本社に来て初めて任された、雑務以外の大仕事。アルムフードサービスの有里村と二人三脚で壁紙や床材、什器までこだわり抜いて選んできた。それも全て徒労に終わってしまうのかと思うと虚しくなり、胸に抱えた計画書と図面を見下ろす。
そこへ阿志雄が通り掛かった。
彼とは穂堂の件で言い争ったことがある。佐々原はすぐに笑顔を取り繕い、弱みを見せまいと気丈に振る舞った。
「あらどーも、阿志雄サン」
「泣きそうな顔してどうした佐々原サン」
「はぁ?目ェ悪いんじゃないですかぁ?」
初っ端から喧嘩腰に返すが、気落ちしているのは事実。佐々原は阿志雄に愚痴ることにした。
「……というワケでぇ、アタシの完っ璧な仕事が日の目を見なくなるかもしれないんですよぉ」
「自分で言うか普通」
「アタシ自分の仕事に自信あるもん」
「ふうん。まあ、よく出来てるよこれ。こういう場所が社内にあったらいいよな」
借りた図面を眺めながら、阿志雄は素直に佐々原の仕事を褒めた。 実際、穂堂が担当していた時より良いものになっている。
「ホントに?そう思う?」
「ああ、完成が楽しみだ」
それを聞いて、佐々原が笑顔になるが、すぐにまた再び悲しげな表情に変わった。
「……でも、全部無駄になるかもしれない」
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