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第7章 未来を切り拓く選択
77話・大事な話
しおりを挟む翁崎 学は二年ぶりにその場所に訪れていた。
駅前に建つ高層マンションの地下駐車場に車を停め、暗証番号でセキュリティーを解除し、エレベーターに乗る。管理が行き届いたマンション内は塵ひとつ無く、ここを彼への贈り物として選んだ父親の目に狂いはなかったのだと学は感じた。
目当ての部屋のインターホンを鳴らせば、モニター越しの応答より早く内鍵が回り、扉が開かれた。
「学さん、いらっしゃい。急に呼び立ててすみませんでした」
「いや、構わないよ。私も息抜きしたかったから」
中から現れた穂堂 徹は笑顔で学を招き入れた。
いつになく明るい雰囲気の徹に驚きながらも、玄関で靴を脱ぎ、用意されていたスリッパを履いてリビングへと向かう。
「こんばんは。お邪魔しております」
「君は確か……」
ところが、リビングには先客がいた。
短く刈り上げられた茶髪の青年がスーツ姿でフローリングに立ち、深々と頭を下げている。
「本社営業部の阿志雄 真司です」
「ああ、徹と仲良くしてくれているっていう……」
阿志雄が顔を上げて名乗ると、学も気さくな笑顔を返した。これまで何度か穂堂から名前を聞いており、会社で直接言葉を交わしたこともある。ただ、自宅マンションに招くほどふたりの仲が良いとは思っていなかった。
「それで、話と言うのは……」
促され、学はソファーに腰掛けた。すぐに穂堂がお茶を運んできたが、この部屋には急須や湯呑みなどはない。ペットボトルのお茶をグラスに移しただけ。
ぐるりと室内を見回せば、最初の引き渡し当時のまま、家具や物は増えていないことに気付く。
「二年も経つのに、全然変わらないな」
思わず口から思ったことが漏れる。
学の父親が穂堂のために購入したこの部屋には、引き渡しの際に名義人として立ち会っただけ。その後はプライベートには踏み込まないようにしていた。
人が暮らせば何かと物が増えていくはずだが、この部屋には生活感がない。ずっと空き部屋だったのではないかと疑いたくなるほどだ。
「今日は学さんに大事な話があって」
ソファーの前に敷かれたラグの上に腰を下ろし、穂堂が上目遣いに学を見上げた。その隣には阿志雄が正座で控えている。
なぜ彼が穂堂の部屋にいるのだろう、と学は疑問に思った。ビシッとしたスーツ姿で、傍らには仕事用のカバンを置いている。まるで勤務中のような出立ちだ。営業マンが自社のトップに何かを売り付ける真似をするわけがないが、友人として遊びに来たというには堅すぎる。
ちなみに、穂堂は自宅なので私服である。
まず、阿志雄が口を開いた。
「社長は穂堂さんの家族だと聞いております」
「あ、ああ。徹は私の家族だが」
改まった口調で尋ねられ、戸惑いながらも学はすぐに肯定した。その返答に阿志雄は満足そうに頷き、穂堂は嬉しそうにはにかんでいる。
翁崎家以外の人の前で穂堂がここまで柔らかな表情を見せたことは無い。それだけで、阿志雄が特別な存在なのだと悟る。
「実は、社長に話しておかねばならないことがありまして……」
阿志雄はずっと正座を崩さず、礼儀正しい態度で社長に頭を下げている。
恐らく仕事で便宜を図ってほしいことでもあるのだろう。社長と近しい穂堂に近付いたのはそのためかと予想し、学のスッと心が冷えた。
浮かべていた笑みを消し、つい厳しい目を向けてしまう。
しかし、告げられたのは予想外の言葉だった。
「穂堂さんと生涯を共にする覚悟です。交際を認めてくださいッ!!」
床に額を擦り付ける勢いで頭を下げ、阿志雄は大きな声で穂堂との交際の許しをねだった。
学は驚愕の表情のまま暫く固まった。
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