【完結】営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい

みやこ嬢

文字の大きさ
上 下
78 / 142
第7章 未来を切り拓く選択

77話・大事な話

しおりを挟む


 翁崎 学おうさき まなぶは二年ぶりにその場所に訪れていた。
 駅前に建つ高層マンションの地下駐車場に車を停め、暗証番号でセキュリティーを解除し、エレベーターに乗る。管理が行き届いたマンション内は塵ひとつ無く、ここを彼への贈り物として選んだ父親の目に狂いはなかったのだと学は感じた。

 目当ての部屋のインターホンを鳴らせば、モニター越しの応答より早く内鍵が回り、扉が開かれた。

「学さん、いらっしゃい。急に呼び立ててすみませんでした」
「いや、構わないよ。私も息抜きしたかったから」

 中から現れた穂堂 徹ほどう とおるは笑顔で学を招き入れた。
 いつになく明るい雰囲気の徹に驚きながらも、玄関で靴を脱ぎ、用意されていたスリッパを履いてリビングへと向かう。

「こんばんは。お邪魔しております」
「君は確か……」

 ところが、リビングには先客がいた。
 短く刈り上げられた茶髪の青年がスーツ姿でフローリングに立ち、深々と頭を下げている。

「本社営業部の阿志雄 真司あしお しんじです」
「ああ、徹と仲良くしてくれているっていう……」

 阿志雄が顔を上げて名乗ると、学も気さくな笑顔を返した。これまで何度か穂堂から名前を聞いており、会社で直接言葉を交わしたこともある。ただ、自宅マンションに招くほどふたりの仲が良いとは思っていなかった。

「それで、話と言うのは……」

 促され、学はソファーに腰掛けた。すぐに穂堂がお茶を運んできたが、この部屋には急須や湯呑みなどはない。ペットボトルのお茶をグラスに移しただけ。
 ぐるりと室内を見回せば、最初の引き渡し当時のまま、家具や物は増えていないことに気付く。

「二年も経つのに、全然変わらないな」

 思わず口から思ったことが漏れる。
 学の父親が穂堂のために購入したこの部屋には、引き渡しの際に名義人として立ち会っただけ。その後はプライベートには踏み込まないようにしていた。
 人が暮らせば何かと物が増えていくはずだが、この部屋には生活感がない。ずっと空き部屋だったのではないかと疑いたくなるほどだ。

「今日は学さんに大事な話があって」

 ソファーの前に敷かれたラグの上に腰を下ろし、穂堂が上目遣いに学を見上げた。その隣には阿志雄が正座で控えている。

 なぜ彼が穂堂の部屋にいるのだろう、と学は疑問に思った。ビシッとしたスーツ姿で、傍らには仕事用のカバンを置いている。まるで勤務中のような出立ちだ。営業マンが自社のトップに何かを売り付ける真似をするわけがないが、友人として遊びに来たというには堅すぎる。
 ちなみに、穂堂は自宅なので私服である。

 まず、阿志雄が口を開いた。

「社長は穂堂さんの家族だと聞いております」
「あ、ああ。徹は私の家族だが」

 改まった口調で尋ねられ、戸惑いながらも学はすぐに肯定した。その返答に阿志雄は満足そうに頷き、穂堂は嬉しそうにはにかんでいる。
 翁崎家以外の人の前で穂堂がここまで柔らかな表情を見せたことは無い。それだけで、阿志雄が特別な存在なのだと悟る。

「実は、社長に話しておかねばならないことがありまして……」

 阿志雄はずっと正座を崩さず、礼儀正しい態度で社長に頭を下げている。
 恐らく仕事で便宜を図ってほしいことでもあるのだろう。社長自分と近しい穂堂に近付いたのはそのためかと予想し、学のスッと心が冷えた。
 浮かべていた笑みを消し、つい厳しい目を向けてしまう。

 しかし、告げられたのは予想外の言葉だった。




「穂堂さんと生涯を共にする覚悟です。交際を認めてくださいッ!!」




 床に額を擦り付ける勢いで頭を下げ、阿志雄は大きな声で穂堂との交際の許しをねだった。
 学は驚愕の表情のまま暫く固まった。
しおりを挟む
▼▽▼ みやこ嬢のBL作品はこちら ▼▽▼

《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。

《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい

《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法

《 異世界最強魔法使い総受 》
魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

《 ダンジョン探索で深まる関係 》
凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
感想 10

あなたにおすすめの小説

泡沫でも

カミヤルイ
BL
BL小説サイト「BLove」さんのYouTube公式サイト「BLoveチャンネル」にて朗読動画配信中。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

英雄の帰還。その後に

亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。 低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。 「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」 5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。 ── 相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。 押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。 舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

【完結】魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話

みやこ嬢
BL
【2022年2月7日完結、全108話】 ・雑なあらすじ ▶︎ 『チート能力がバレたら死ぬ』という呪いのせいで仲間に泣きついたら、なんやかんやでいかがわしいことされてしまう魔法使いの話。 【年上僧侶×年下魔法使い】 ・ちゃんとしたあらすじ ▶︎異世界に存在する国ハイデルベルト教国に召喚された4人は特殊な能力を授かり、死闘の末に魔王ザクルドを撃ち倒した。 役目を終え、元の世界に戻ってめでたしめでたし……となるはずが、異世界で得た特殊能力がそのまま残ってしまった。しかも今際の際に魔王から掛けられた『他人に能力がバレたら死ぬ』呪いのせいで日常生活に支障が。 肉体強化系の『勇者』と『格闘家』は力を抑えることで普通の生活を送れているが『魔法使い』だけは溢れる魔力を使うことも出来ない。困り果てた彼は同じ魔力持ちの『僧侶』を頼るが、そこで提案された魔力発散方法はあまりにも恥ずかしい行為で……。 【2022/02/07 完結、全108話】 現代日本にチート能力者が帰還。 しかも『バレたら死ぬ』呪い付き。 勇者一行は誰かに気付かれる前に呪いを解き、平穏な日常を取り戻すことが出来るのか。

交錯する視線

切島すえ彦
BL
片瀬 涼(かたせ りょう) は、大手企業に勤める会社員。彼には、二人の男から想いを寄せられていた。 一人は、冷徹な経営手腕を持ちながらも、二人きりになると甘く独占欲を見せる 社長・篠宮 透(しのみや とおる)。 もう一人は、大人の余裕と包容力を持ち、どんなときも優しく寄り添ってくれる 取引先の顧問・九条 玲司(くじょう れいじ)。 篠宮との曖昧な関係に揺れ動く涼は、九条の優しさに惹かれ、一時は彼と過ごすことを選ぶ。しかし、篠宮の執着心と自分の本当の気持ちに気付き、最終的には彼の元へと戻る決断をする。 「お前は、ずっと俺のそばにいろ」 篠宮の強く熱い想いに応え、涼は彼と共に未来を歩むことを選ぶ――。 恋に揺れ、選択を迫られた一人の男が辿り着いたのは、激しくも甘い愛の結末だった。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...