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第7章 未来を切り拓く選択
73話・背中を押す言葉
しおりを挟む「はぁ~?九里峯から引き抜きぃ~?」
「シーッ、声がデカい!」
翌日。空き会議室に鍬沢を呼び出し、阿志雄は昨日あった出来事を報告した。東京支社長が穂堂を辞めさせるために色々画策していることに憤慨し、今は憎き九里峯とふたりで食事に行った阿志雄をジト目で睨んでいる。
「それで、受けたんですか」
「ンなワケあるか。すぐ断ったよ」
「当たり前です。もし受けたら二度とコメが食えない体にしてやりますからね阿志雄さん」
「こわ!何されんのオレ!!」
どちらかといえば阿志雄はオマケで、九里峯が欲しがっているのは穂堂の方だろう。株式会社ケルストの経営者兄妹が執着している存在を我が物とすることで、今後なにかに利用するつもりかもしれない。
ひとしきり釘を刺してから、鍬沢はようやく冷静さを取り戻して状況を分析し始めた。
「……つまり、社長も支社長たちも目的は違えど穂堂さんをどうこうしようと動いているってことですか」
「うん」
「東京支社長は穂堂さんを辞めさせたくて、大阪支社長は自分の部下と結婚させたい。本社の社長は現状維持、ですかね?見事にバラバラ」
「そーなんだよなぁ」
阿志雄は頭を掻きながら、憮然とした表情で会議室の長机に突っ伏している。
ひとりで抱えていられず、鍬沢に話すことで情報を整理したはいいが、会社の運営に絡む話だ。平社員の阿志雄に出来ることなどない。
そもそも誰に何を訴えるというのか。
「憧れの先輩からは東京支社に戻ってこいって言われたんでしょ?どうするんです?」
「戻るつもりはないけど、もし営業部が無くなるなら本社に残っていられなくなっちまう」
東京支社が本社化される場合、本社はイチ営業所となる。営業部はオンラインで東京または大阪から顧客対応する、と伊賀里が言っていたことを思い出し、阿志雄は深い溜め息をついた。
「いま考えてみると、僕が本社に呼ばれたのはこのためだったのかもしれないです」
「どーゆーこと?」
「本社を営業所化するなら規模も社員数も減るし、この通り社屋も古いから、移転するか取り壊して小さく建て直すかすると思います。その時に本社社員に貸与しているパソコンやら何やらの手続きに人手が要りますので」
本社社屋は創業当時から変わらぬオンボロビルで、改修を繰り返して何とか体裁を整えている状態だ。働く社員が減るならば、無理をして維持する必要はない。
鍬沢は情報システム部の社員であり、普段は社内システムやPC関連のトラブル対応などを担当している。大規模な人事異動があれば、それだけ業務が増える。現場である本社に送り込んだのは、先を見越してのことだったのかもしれない。
「取り壊し……」
本社所属の社員数はじわじわ減っており、現在は全盛期の三分の二ほど。更に部署が減らされれば社員数も減る。無駄を嫌う東京支社長が広い敷地と大きな社屋を遊ばせておくはずがない。
亡き母親と先代社長の思い出が詰まった本社が無くなるとしたら、穂堂は悲しむだろうか。
「このまま放っておけば東京支社長の主張通りになるでしょうね。九里峯との関わりさえ無ければ、僕はどっちでも構わないんですけど」
「……オレは……どうしよう」
一歩引いて物事を捉えている鍬沢と違い、阿志雄は考えがまとまらず、迷いをそのまま零した。
「自分が一番何を優先させたいのか、よく考えてみたらいいんじゃないですか」
「一番……」
少し前までならば、憧れの先輩と共に仕事をすることが一番の願いだった。伊賀里本人から東京支社に戻るように言われ、手を取ればすぐにでも叶う状態にある。
でも、阿志雄は断った。
「……やらなきゃいけないこと、分かった気がする」
「うだうだ悩んでても良いことなんて無いですからね。特に阿志雄さんは」
「どーゆー意味だよ」
「さあ?」
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