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第5章 西と東の思惑
47話・可愛がる理由、尽くす理由
しおりを挟む週明け、出社直後に阿志雄は部長の司田辺から会議室に呼び出されていた。
「例の件、どうなったかね?」
例の件とは穂堂に昇進を受けるよう説得する、という話だ。友人からの言葉なら聞くのではないかという期待を込めて、阿志雄や鍬沢がそれぞれ直属の上司から頼まれていた。
「アッサリ断られましたよ」
「……やっぱりか。ご苦労だった」
結果を伝えれば、少々落胆してはいるが想定内だったのか司田辺は食い下がることもなく引き下がった。
「穂堂さんのお母さんて、この会社で働いてたんですよね?部長も知ってるんですか」
阿志雄の問いに、司田辺は目を見開いた。会議室の長机の上に置かれた拳に力が入る。穂堂がそこまで教えたのか、と驚いているようだった。
「……ああ、知っているとも。穂堂くんの母親は俺の先輩だ。女性社員の期待の星で、男性社員の憧れでもあった」
「先代社長とは、どういう?」
「秘書だよ。いや、補佐と言ったほうがいいのかな。当時の我が社は彼女が居なければ成り立たなかった」
そんなに優秀だったのか、と阿志雄は意外に思った。穂堂からは病に倒れた辺りの話しか聞いていなかったからだ。もっとも、穂堂は母親が働いている姿を見たことがないのだから当然だ。
「えー、例えば、男女の仲だった、とか」
ついでとばかりに現社長や穂堂には絶対に聞けないことを尋ねると、司田辺はガハハと笑いながら首を横に振った。
「それは無い!確かに勘繰る者も居たが、先代と彼女は仕事仲間でそれ以上でも以下でもない」
「そうなんですか」
「先代は結婚して子どもも居たし、彼女も恋人がいたからな。子ども自慢と恋人のノロケ話をし合っているところをよく見かけたものだよ」
あくまで仕事上のパートナーで、プライベートは別だったということだ。
先代社長の隠し子なのではないかと疑っていたが、司田辺の話を聞いた限りでは可能性は低い。穂堂の母親は賢く優秀な女性だったようだし、自分の立場を危うくするような軽率な真似をするわけが……と考えている時に片桐の顔が脳裏にチラつくが、阿志雄はそれを振り払った。
「出産のために退職して病で倒れるまでの間、彼女は何度か子ども連れで遊びにきてくれたんだよ。後輩の俺たちに喝を入れるためっていうのもあるが、きっと職場が好きだったんだろうねェ」
当時は女性の産休制度があまり一般的ではなかったことから一旦退職となったが、病気さえなければ仕事に復帰したかったに違いない。
部長たちが穂堂に目を掛け、可愛がる理由が分かった気がした。そして、穂堂が本社に並々ならぬ思いを抱き、尽くしているのは引き取ってくれた翁崎家への恩返しのためだけではない。亡き母が愛した場所だからだ。
「色々教えて頂きありがとうございました!」
穂堂からは得られぬ情報をくれた上司に、阿志雄は深々と頭を下げて礼を言った。
しかし、司田辺は浮かない顔をしている。
「部長?」
「あ、いや。君でも説得出来なかったとなると、次の手に移らなくてはならなくてねェ……」
「次の手?」
上司や友人からの説得は失敗に終わった。
まだ何かすると言うのか。
「彼女は強引だからねェ。『所帯を持てば昇進せざるを得なくなる』とか息巻いてたそうだから、そのうち穂堂くんに見合いでもさせる気かもしれん」
「か、彼女って……」
見合いと聞いて思考がフリーズし掛けたが茫然としている場合ではない。『彼女』とやらの正体を尋ねれば、司田辺はすぐに教えてくれた。
「大阪支社長の奏さんだよ。あの人は昔っから穂堂くんを可愛がっとるからなァ」
【営業部 阿志雄 真司】
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