【完結】営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい

みやこ嬢

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第4章 公然の秘密と謎の男

40話・謎の男の素性

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「わかりましたよ阿志雄あしおさん、例の男」

 珍しく鍬沢くわざわのほうから連絡が入った。用件は先日阿志雄が依頼した『片桐かたぎりを騙した男』の調査結果。偽の名刺とスナップ写真だけが手掛かりだったが、東京支社時代に見掛けていたということもあり、意外と早く特定できた。

 また空き会議室を勝手に占拠し、鍬沢は持参したノートPCを開いてとある会社のホームページを表示して見せた。

「……九里峯くりみねリサーチ?」
「市場の動向やニーズを調査する東京の会社です。で、写真の男はこの会社の社長でした」
「はぇ~、このトシで社長かぁ」

 会社の概要ページには社長の顔写真と略歴が載っている。片桐から提供されたスナップ写真と見比べ、顔を確認する。九里峯くりみねれん、三十五才。九里峯リサーチは彼が立ち上げたマーケティングリサーチ会社だ。

「支社の同僚に聞いてみたところ、ケルストう ちの東京支社がこの会社と提携してて、社内によく出入りしているそうです。たぶん僕たちも廊下ですれ違ったことがあると思いますよ」
「へー、全然知らなかった。言われてみれば」
「営業部は特にリサーチ会社とやり取りしてるはずですけどね。むしろ何でわからなかったんですか」
「だ、だって服も髪型も違うし」

 ホームページの紹介写真では、緩くウェーブのかかった長めの髪を後ろに撫で付け、質の良さそうな三つ揃いのスーツを着こなしている。ラフな服装のスナップ写真とは受ける印象もかなり違う。

「この名刺は九里峯氏が潜入調査をする際に使用しているもののひとつみたいです。直接取り引きしなさそうな相手に渡すのに丁度いいですからね」
「なるほどな」

 リサーチ会社ならば本社に関わる人間を見つけ出すことは容易いだろう。アルムフードサービスの片桐はたまたま利用されただけ。
 男の正体は分かったが、まだ謎は残っている。

「コイツは東京支社と提携してるんだろ?なんで本社に嫌がらせみたいな真似すんだよ」
「僕が知るわけないでしょ。江戸の敵を長崎で討つみたいなものですかね」
「仕事で東京支社と揉めてるとか?それなら有り得るかもしんねーけどさ」

 果たしてそんな回りくどいことをする意味があるのか。こればかりは本人に聞かねば動機は分からない。とにかく警戒すべき人物が明らかになったことだけは確か。

「この話、穂堂さんには?」
「昼に軽く話しましたよ。社員食堂で」
「またオレをものにしてメシを……」
「アンタがいないからでしょうが」

 痛いところを突かれ、阿志雄は「ウッ」と言葉を詰まらせた。金曜の夜に残業にならないよう前倒しで仕事を片付けているのだ。今日も昼過ぎまで打ち合わせで社外に出ていた。

「ちなみに、昨晩はおすすめの小料理屋に連れてってもらいました」
「は???」

 聞き捨てならない発言に、阿志雄が鍬沢を睨み付ける。

「誘われても行くなって言っただろ!」
「行かないと約束したのは『金曜の夜』だけですよ。他の日は関係ないじゃないですか」

 火曜に交わした会話を振り返る。


『もし穂堂さんに誘われても来るなよ?』
『わかりました。断ります』


 確かに鍬沢は約束を破っていなかった。
 むしろキッチリ守っていると言える。

「おまえ、昼も一緒のくせになんで夜まで」
「仕方ないでしょう。社員食堂ではしづらい話があったんですから」
「なんの話だよ!」
「ウチの部長から頼まれたんですよ。『穂堂さんに昇進話を受けるよう説得してくれ』って」
「えっ、オレも営業部の部長から同じこと頼まれたんだけど」
「えっ?」

 ほぼ毎日社員食堂で一緒にランチを食べている仲だ。鍬沢にそういった話がいくこと自体は不思議ではない。やはり上層部ぐるみで周囲から説得する方針を取っているようだ。

「穂堂さん、なんて言ってた?」
「笑いながら『嫌です』って言われました」

 予想通り、穂堂は話を蹴った。
 断る理由までは尋ねなかったという。鍬沢は上司から頼まれただけで、特に無理強いするつもりもない。

「なんとなく『踏み込むな』っていう雰囲気を感じたんですよね。あんまり聞いたら悪いかなと思って、そこでその話はやめました」
「オレ、明日伝える気だったんだけど」
「返事は変わらないと思いますけどね」

 明日は金曜。
 穂堂と食事に行く約束の日だ。



   【九里峯リサーチ社長 九里峯 廉くりみね れん
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