40 / 142
第4章 公然の秘密と謎の男
40話・謎の男の素性
しおりを挟む「わかりましたよ阿志雄さん、例の男」
珍しく鍬沢のほうから連絡が入った。用件は先日阿志雄が依頼した『片桐を騙した男』の調査結果。偽の名刺とスナップ写真だけが手掛かりだったが、東京支社時代に見掛けていたということもあり、意外と早く特定できた。
また空き会議室を勝手に占拠し、鍬沢は持参したノートPCを開いてとある会社のホームページを表示して見せた。
「……九里峯リサーチ?」
「市場の動向やニーズを調査する東京の会社です。で、写真の男はこの会社の社長でした」
「はぇ~、このトシで社長かぁ」
会社の概要ページには社長の顔写真と略歴が載っている。片桐から提供されたスナップ写真と見比べ、顔を確認する。九里峯廉、三十五才。九里峯リサーチは彼が立ち上げたマーケティングリサーチ会社だ。
「支社の同僚に聞いてみたところ、ケルストの東京支社がこの会社と提携してて、社内によく出入りしているそうです。たぶん僕たちも廊下ですれ違ったことがあると思いますよ」
「へー、全然知らなかった。言われてみれば」
「営業部は特にリサーチ会社とやり取りしてるはずですけどね。むしろ何でわからなかったんですか」
「だ、だって服も髪型も違うし」
ホームページの紹介写真では、緩くウェーブのかかった長めの髪を後ろに撫で付け、質の良さそうな三つ揃いのスーツを着こなしている。ラフな服装のスナップ写真とは受ける印象もかなり違う。
「この名刺は九里峯氏が潜入調査をする際に使用しているもののひとつみたいです。直接取り引きしなさそうな相手に渡すのに丁度いいですからね」
「なるほどな」
リサーチ会社ならば本社に関わる人間を見つけ出すことは容易いだろう。アルムフードサービスの片桐はたまたま利用されただけ。
男の正体は分かったが、まだ謎は残っている。
「コイツは東京支社と提携してるんだろ?なんで本社に嫌がらせみたいな真似すんだよ」
「僕が知るわけないでしょ。江戸の敵を長崎で討つみたいなものですかね」
「仕事で東京支社と揉めてるとか?それなら有り得るかもしんねーけどさ」
果たしてそんな回りくどいことをする意味があるのか。こればかりは本人に聞かねば動機は分からない。とにかく警戒すべき人物が明らかになったことだけは確か。
「この話、穂堂さんには?」
「昼に軽く話しましたよ。社員食堂で」
「またオレを除け者にしてメシを……」
「アンタがいないからでしょうが」
痛いところを突かれ、阿志雄は「ウッ」と言葉を詰まらせた。金曜の夜に残業にならないよう前倒しで仕事を片付けているのだ。今日も昼過ぎまで打ち合わせで社外に出ていた。
「ちなみに、昨晩はおすすめの小料理屋に連れてってもらいました」
「は???」
聞き捨てならない発言に、阿志雄が鍬沢を睨み付ける。
「誘われても行くなって言っただろ!」
「行かないと約束したのは『金曜の夜』だけですよ。他の日は関係ないじゃないですか」
火曜に交わした会話を振り返る。
『もし穂堂さんに誘われても来るなよ?』
『わかりました。金曜に誘われたら断ります』
確かに鍬沢は約束を破っていなかった。
むしろキッチリ守っていると言える。
「おまえ、昼も一緒のくせになんで夜まで」
「仕方ないでしょう。社員食堂ではしづらい話があったんですから」
「なんの話だよ!」
「ウチの部長から頼まれたんですよ。『穂堂さんに昇進話を受けるよう説得してくれ』って」
「えっ、オレも営業部の部長から同じこと頼まれたんだけど」
「えっ?」
ほぼ毎日社員食堂で一緒にランチを食べている仲だ。鍬沢にそういった話がいくこと自体は不思議ではない。やはり上層部ぐるみで周囲から説得する方針を取っているようだ。
「穂堂さん、なんて言ってた?」
「笑いながら『嫌です』って言われました」
予想通り、穂堂は話を蹴った。
断る理由までは尋ねなかったという。鍬沢は上司から頼まれただけで、特に無理強いするつもりもない。
「なんとなく『踏み込むな』っていう雰囲気を感じたんですよね。あんまり聞いたら悪いかなと思って、そこでその話はやめました」
「オレ、明日伝える気だったんだけど」
「返事は変わらないと思いますけどね」
明日は金曜。
穂堂と食事に行く約束の日だ。
【九里峯リサーチ社長 九里峯 廉】
0
《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。
《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい
《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法
《 異世界最強魔法使い総受 》
魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話
《 ダンジョン探索で深まる関係 》
凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる