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第3章 就業時間外の過ごし方
28話・自炊男子と真逆のふたり
しおりを挟む「今日のお礼に夕飯食べていってください。僕が作りますんで」
鍬沢の申し出を受け、穂堂と阿志雄は彼のアパートに寄ることにした。スーパーの向かいに経つアパートの一階に鍬沢が借りている部屋がある。車に積まれた水のタンクを運び込む。部屋が二階でなくて良かった、と手伝いながら阿志雄は思った。
「なあなあ、明日葉でなんか作れる?」
「阿志雄さんが貰った野菜でしょーが」
「オレ料理できないもん。匂いがあるからナマじゃ食えないし、鍬沢が作って♡」
「え~?……まあ、水運んでもらいましたし、いいですよ」
会社の独身寮を蹴って自分で探したという物件はキッチンが広く、コンロも三口ある。間取りは1LDKで、キッチンとリビングはカウンターで仕切られており、一人暮らしにはやや広い。
「この辺って家賃めっちゃ安いですよね」
「同じ家賃でも東京だったら1K借りれるかどうかってトコだよな~」
東京支社には独身寮などない。個人で部屋を借りなければならないが、東京は家賃が高い。駅やスーパーに近い物件は競争率も高い。故に、駅から徒歩十五分以上離れている築年数が古いアパートを借りる羽目になる。それに比べ、本社のある地方都市は家賃の相場が低い。東京より広めの部屋を借りても数万浮く。
鍬沢が料理している間、阿志雄たちはリビングで待つことになった。テレビとローテーブル、部屋の隅には積まれた引っ越し業者のロゴ入り段ボール箱。家具は最低限しかない。逆に、キッチンには様々な調理器具があった。パッと見える場所だけで炊飯器、オーブン、圧力鍋、ブレンダーなどが置かれている。
「散らかっててすみません。まだ荷解き終わってなくて」
「オレもダン箱のまま放置してる」
「普段使わないものは後回しになっちゃいますよねー」
そう言いながら、鍬沢は流し台でコメを研いでいる。洗い始めの水に今日汲んできた湧き水を使い、その後は普通の水道水で濁りが無くなるまですすぎ、炊く際に再び湧き水を使う。コメは一番最初に水を多く吸収する。特別な水を使う場合、より違いを実感したいのなら研ぐ時から気を遣わねばならない。
手際良くコメを研ぎ、炊飯器をセットする鍬沢を見て、阿志雄と穂堂は感心していた。
「すげー……。オレ、自分でメシ作ったことない。学校で調理実習やったくらい」
「普段の食事はどうしているんですか」
「外食かコンビニ弁当ばっかです。穂堂さんは?」
「実は私も似たようなもので、自宅には炊飯器どころかフライパンもありません」
「オレもオレもー!」
作業しながら二人の会話を聞いていた自炊男子は、その内容の酷さに眩暈を覚えた。せめてコメくらい自分で炊けよ、と。
「今日行った神社、昔行ったことあるって言ってましたよね。御霊泉目当てで行ったんですか?」
十五年以上前の話だと穂堂は言っていた。つまり中学生の頃に行ったということだ。
「私は連れていってもらっただけで……山登りをして、行き帰りにあの水汲み場で冷たい水を飲んだんです。疲れていたからかすごく美味しく感じて、それで覚えてました」
「家族と山登りですか、いーですねぇ」
「え、ええ。楽しかったですよ」
まただ、と阿志雄は笑顔の裏で確信した。
穂堂は『家族』という言葉にやや抵抗があるようで、毎回微妙な反応が返ってくる。話題にするくらいだから嫌な思い出があるわけではないと推測するが、浅い付き合いの段階でプライベートに踏み込むほど無神経ではない。
「そういや休憩所の件、進展ありました?」
「有里村さんからレイアウト案を幾つかもらってますよ。どれも甲乙つけがたくて決めかねてます」
「えー、今度見せてくださいよ!」
阿志雄はさりげなく仕事の話に話題を移し、穂堂が気を遣わず話せるように努めた。
【情報システム部 鍬沢 明】
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