【完結】営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい

みやこ嬢

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第3章 就業時間外の過ごし方

24話・水汲み場の謎 1

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 鍬沢くわざわの希望で県境の町まで湧き水を汲みに来た三人は、ようやく目的の場所を発見した。
 しかし。

「以前水汲み場があったのはもっと奥だったのに、何故こんな場所に……」
「水を汲みやすいように、こっちまで引いてくれたんじゃないですか?」
「そうかもしれませんね」

 穂堂ほどうの記憶によれば、水汲み場は本殿の裏手の山中にあったという。大した距離ではないが、そこへ行くには山道を登らねばならず、水を汲んで運ぶには不便な立地だ。
 どちらにせよ神社の敷地内である。三人はまずお参りをすることにした。

「阿志雄くん、『二礼二拍手一礼』ですよ」
「あ、ハイ」

 お賽銭を投げてただ手を合わせる阿志雄に対し、穂堂が声を掛け、実際にやって見せた。それに倣い、見様見真似でやり直す。

「すいません、あんまりお参りしたことなくて」
「初詣とか行かないですか」
「行きますが、作法は気にしたことないです」
「ふふ、阿志雄くんらしい」

 賽銭箱の前で笑い合う二人をよそに、鍬沢くわざわは手慣れた様子で淡々とお参りを済ませていた。境内の片隅にある神社の由来に関する立て札に見入っている。
 お参りを済ませた鍬沢は大きなリュックを背から下ろした。コップを取り出し、早速水汲み場へと向かう。
 水汲み場は下に石造りの水受けがあり、上部に設置された塩ビ製のパイプから常時水が流れ出ている。

「とりあえず味見を」

 持参したコップに水を入れ、ひと口飲むと、鍬沢は眉間に皺を寄せた。

「どうした鍬沢、美味くなかったか」
「湧き水に美味い不味いがありますかね」

 阿志雄と穂堂の言葉に鍬沢は顰めっ面のまま首を横に振った。納得がいかない、というような表情だ。

「……これ、ただの水道水です」
「え、まさか」
「看板まで立ててあるのに?」
「このカルキ臭、間違いないです」

 湧き水とは雨や雪解け水が染み込み、山の中の地層で濾過され再び地表に出てきたものを指す。衛生的な問題で飲用に向かない湧き水には殺菌のために後から手を加えられることもあるが、この水汲み場にはそういった設備は見られない。

「……すみません。せっかく来たのに無駄足だったかもしれません」

 ここまで来るために片道三時間掛かっている。休みの日にも関わらず車を出し、運転してくれた穂堂に申し訳ないと思っているのだろう。鍬沢は見るからに気落ちしていた。
 そんな彼の肩を、阿志雄が笑顔でポンと叩く。

「穂堂さんの記憶にある場所にも行ってみよう。多分そっちがホンモノなんじゃないか」
「えっ」

 一番興味が無さそうだった阿志雄が放った前向きな言葉に、鍬沢が間の抜けた声を上げた。穂堂も阿志雄と同じように鍬沢の肩を軽く叩く。

「そうですね。探してみましょう」
「は、はいっ!」

 三人は社務所と本殿の間を通り抜け、山道へと分け入った。



    【情報システム部 鍬沢 明くわざわ  あきら
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