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第3章 就業時間外の過ごし方
23話・記憶とのズレ
しおりを挟む目的地はギリギリ県内にあるが、本社の所在地である地方都市からは遠い。車で移動する場合は高速道路を使えば片道約二時間ほど。公共の交通機関を利用する場合は電車とバスを乗り継がねばならず、乗り換え時間を含めれば四時間は掛かる。
「和地さんから湧き水の話を聞いて気になっていたんです。遠いから実際に汲みに行ったことはないって言ってましたけど」
「情報源はそこか」
食品偽装事件を解決して以来、食堂のおばちゃん・和地ともよく話すようになった。その際に件の湧き水の話が出て、鍬沢は興味を持ったという。
「地元では昔から煮炊きに使われているそうで、料理に適した湧き水じゃないかと。恐らく、あまり硬度が高くない軟水だと思います」
「な、軟水?それ関係あんの?」
「硬度が高いとコメを炊いた時にパサパサになってしまうんです。日本米の炊飯には軟水のほうが向いてますね」
「そうなんだ?」
「ちなみに硬水のほうが向いている料理もあります。実際に試してみないと何に適した水かは分かりませんが、非常に楽しみですね」
「へ、へぇ~……」
いつになく饒舌な鍬沢に圧され、阿志雄は相槌しか打てなくなった。
正直言って水の違いなど分からない。ミネラルウォーターを買う時も硬水か軟水か気にしたことすらない。水はあくまで水。遠出までして汲みにいく価値などあるのだろうか。
しかし、本音を言ってしまえば今回同行した理由が無くなってしまう。阿志雄はぐっと堪えて鍬沢の説明を聞く他ない。そんな二人の会話をBGM代わりに、穂堂は車を走らせた。
三人を乗せた車は県境の町に到着した。
途中サービスエリアで休憩を挟んだため、出発から三時間ほど掛かっている。それでもまだ午前十時前。早朝に出発したおかげで時間はまだ早い。
「確かあの山のはずです」
フロントガラス越しに、遠くに聳える山を指さす穂堂。周りの山に比べて一際標高が高いその山に、求める湧き水がある。
「穂堂さん、場所知ってるんですか」
「昔来たことがあります。十五年以上前の話なのでウロ覚えですけどね」
十五年も経てば町並みも変わる。穂堂は少し迷いながらも、何とか目的の山のふもとまで辿り着いた。
「鳥居があるってことは、神社か」
「ええ。神社の裏手に水汲み場があったと思いますよ」
神社の手前にある駐車場に車を止め、三人は境内へと向かった。こじんまりとした、田舎によくある規模の神社だ。社務所らしき建物もあるが雨戸が閉められており、普段は無人のようでやや荒れていた。空き缶やお菓子の空袋などのゴミが目立つ。
目立つ場所に看板を見つけた。鳥居の脇に置かれた手書きの看板には『御霊泉はこちら』と矢印付きで記されている。
「御霊泉?」
「へぇ。案内板があるなんて親切ですね~」
阿志雄が感心したように呟く。看板に書かれた矢印の先には確かに水汲み場があった。神社の手水舎のすぐ隣だ。
それを見て、穂堂は不思議そうに首を傾げた。
「以前水汲み場があったのはもっと奥だったのに、何故こんな場所に……」
【総務部 穂堂 徹】
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