13 / 142
第2章 疑惑の社員食堂
13話・攻めの情報収集
しおりを挟む「ったく、幾ら仕事だって言ってもなぁ」
「ホントだよ。やりきれねェよな」
居酒屋の奥座敷で酒を煽る作業着姿の二人の男。彼らは入店から数時間、延々と仕事の愚痴をこぼしている。そこへ一人の若者が酒瓶片手に乱入した。パーカーにジーンズというラフな出で立ちが若者を実際の年齢より若く見せている。
「オジさんたち相当ストレス溜まってるみたいっすね~。これ、オレの奢り。良かったらパーッと飲んじゃってよ」
ドン、とテーブルに置かれたのは彼らが飲んでいる安酒とは比べ物にならない特撰純米大吟醸。そのラベルを見て二人の男の目が釘付けになった。
「なんだボウズ、気前がいいじゃねェか」
「こりゃ良い酒だ。貰っちまっていいのかよ」
「いいよいいよ。何なら今夜の飲み代も全部持つ。その代わり、オレも一緒に飲ませてほしいな♡」
若者は無邪気な笑顔で座敷へと上り込む。
素面なら絶対に断るであろう怪しい申し出だが、既に酔いが回っていた二人はふたつ返事で了承した。
数日後。
穂堂と鍬沢は食堂運営会社アルムフードサービスに社用車で乗り付けた。今日は新規契約の相談を口実にアポイントを取っている。
アルムフードサービスは社員食堂メインの派遣会社のようなもので営業所自体はさほど広くはない。故に、常駐の従業員は数人のみ。今回話をする相手は社長だ。お得意様相手の商談はみな彼女が対応する。
「穂堂さん、お久しぶりです。お話でしたらこちらから御社に伺いますのに」
「いえ、今回は契約更新の話ではないですから。資料も見せていただきたいですし」
営業所の一角にある応接スペースで出迎えてくれたのはアルムフードサービスの社長、有里村 瑛里華。三十代前半のキャリアウーマンである。彼女は綺麗に巻かれた長い髪を揺らし、笑顔で穂堂たちを上座の席に案内した。
「こちらの方は?」
「彼は私の補佐の鍬沢です。仕事を覚えさせるために同席させておりますが、よろしいですか」
「もちろん!あ、でも穂堂さんがウチの担当から外れるのはダメですよ」
穂堂の補佐として紹介された鍬沢は、向かいに座る有里村社長を観察していた。話し上手で笑顔を絶やさない、華やかな女性である。穂堂を気に入っている様子が言葉や態度から感じられた。
「実は、社員の福利厚生を更に強化しようという話になりまして、社内に休憩所を作ろうかと」
「いいですねぇ」
「ドリンクバーのような設備を置いて、いつでも誰でも利用できるようにしたいと考えております。社内にそういった場所があれば社員の憩いの場にもなりますし、仕切りのある応接スペースを設ければお客さまへのおもてなしにも使えますから」
穂堂がカバンから計画書を取り出し、有里村に向けてテーブルに置いた。レストスペース設置予定のフロアの間取りや希望などが記載されている。その書類を受け取り、有里村は上から下まで目を通した。
「その手配を我が社に任せていただけると?」
「ええ、ぜひ有里村さんに。とりあえず大体の費用を見積もっていただこうかと」
にこやかに微笑む穂堂を見て、有里村が頬を染める。それを間近で眺めていた鍬沢は口の端を引きつらせて笑いを堪えた。
そこへ、一人の女性がお茶を運んできた。
「どうぞ」
「ありがとうございます、いただきます」
穂堂は彼女にも営業スマイルを向ける。しかし、こちらは何故か表情が硬い。緊張しているようだが、有里村が手にしている計画書を見てホッとしたように息を吐いた。
その様子を、鍬沢は見逃さなかった。
「片桐さん、貴女も同席して。費用をざっと計算してほしいんだけど」
「は、はい。では過去の実績ファイルとパンフレットを持ってきますね」
片桐と呼ばれた女性は自分のデスクに一旦戻り、何冊かの紙ファイルを持ってきた。彼女はこの会社の経理担当である。有里村の隣に座り、穂堂が用意した計画書に書かれた内容に似たケースを探していく。穂堂には機材のレンタルに関するパンフレットが渡されている。
その時、鍬沢が申し訳なさそうに小さく手を挙げた。
「すみません、お手洗いを」
「どうぞ。そこの扉を出て右側にあります」
「ありがとうございます、お借りします」
アルムフードサービスの営業所内にいるのは女性社員ひとり。今は自分のデスクで掛かってきた電話の対応をしていた。有里村と片桐は応接スペースの下座に座っている。つまり、わざわざ振り返らなければ営業所内を見渡すことは出来ない。
トイレに向かう途中、鍬沢は気付かれないように片桐のデスクのPCに持参したUSBメモリを差し込んだ。そして数分後、トイレから出た帰りに回収し、何食わぬ顔で応接スペースへと戻る。
その日は大まかな見積もりを出してもらっただけで話し合いを終えた。
【情報システム部 鍬沢 明】
0
《 最新作!大学生同士のえっちな純愛 》
お付き合いはお試しセックスの後で。
《 騎士団長と貴族の少年の恋 》
侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい
《 親友同士の依存から始まる関係 》
君を繋ぎとめるためのただひとつの方法
《 異世界最強魔法使い総受 》
魔王を倒して元の世界に帰還した勇者パーティーの魔法使い♂が持て余した魔力を消費するために仲間の僧侶♂を頼ったら酷い目に遭っちゃった話
《 ダンジョン探索で深まる関係 》
凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる