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第1章 運命の出会い
5話・ふたりの距離感
しおりを挟む社会人になってからの友人付き合いというものは難しい。それが同じ会社に勤める同僚ならば尚更。
阿志雄は穂堂とのやり取りでそれを痛感していた。
「連絡先教えてくださいッ!」
懐からスマホを出して催促すると、穂堂は「315です」と番号を教えた。
「はいはい、315……って、コレ総務の内線番号じゃないですかーーッ!」
「御用の時はこちらに」
「そっ、そーじゃなくて」
半泣きで縋り付く阿志雄の姿に穂堂は首を傾げ、すぐに自分の鈍感さに気付いた。
「……ああ、そういうことですか。ではこちらの番号を登録しておいてください」
内ポケットから取り出したメモ帳に何かを書き込み、ページを破って渡す。メモに書かれていたのは携帯電話の番号だった。今度こそ個人の連絡先だと阿志雄は喜んだが……。
「会社支給のPHSの番号です。私は席を外しているほうが多いですからね。内線よりは確実です」
なんと、こちらも会社用の番号だった。
メモを手に、思わずガクリと肩を落とす。
キョトンとした穂堂の表情を見れば、からかったり意地悪でやっているわけではないと分かる。更に突っ込めばプライベートの連絡先を教えてもらえるかもしれないが、一度に要求し過ぎて迷惑だと思われたくはない、と阿志雄は自重した。
「あ、ありがとう、ございます……」
貰ったメモを自分の手帳に大事に挟み、阿志雄は引き攣った笑みを浮かべて礼を言った。
真の意味でこの人と仲良くなるには相当の時間と忍耐が必要かもしれない。まだ知り合ったばかりだ。慌てる必要はないか、と無理やり自分を納得させる。
「それより、君はこんなところにいていいんですか。仕事は?」
「今日は午後イチで取引先と打ち合わせが入ってます。もう資料は用意してあるんで」
ここは本社の社屋の裏手にある資材倉庫である。納品の立ち会いをしていた穂堂はともかく、営業の阿志雄がいるべき場所ではない。礼を言いに来たと知ってはいるが、もしそのために仕事を疎かにしているのなら叱らねばならない。
だが、阿志雄は意外にもしっかり自分の業務をこなした上で来ていた。
「そうでしたか。それならいいんです」
穂堂は仕事をきちんとする社員が好きだ。
働き者の社員は本社発展の役に立つ。
故に、今の発言によって彼の中の阿志雄の評価が少し上がった。
ふわりと笑う穂堂を見て、阿志雄はまた嬉しくなった。真面目に仕事をすることが好感度を上げる手っ取り早い方法だと瞬時に悟る。
元々、憧れの先輩である伊賀里に認められたくて仕事を頑張ってきた。その対象が穂堂に入れ替わっただけ。やるべきことは何も変わらない。
「穂堂さん、一緒にメシ行きません?」
「はい。少し早いですが社員食堂に行きましょうか。今から食べれば午後イチの打ち合わせにも間に合いますよね」
「ぜひ!本社の社食、うまいんですよね。三年ぶりだから食べるの楽しみです!」
資材倉庫から並んで本社社屋に戻る二人の姿を離れた場所から見守る人物がいた。
「社長、大阪支社の奏様からお電話です」
「ん、わかった。すぐ出るよ」
その人物……株式会社ケルストの社長は秘書に呼ばれて窓際から離れ、執務室へと戻った。
【社長 ?????】
*時々登場してますが、まだ名前は出ていません
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