勇者パーティに捨てられた私《聖女》、新たな職場《魔王城》がブラックだったので働き方改革しちゃいます！

社内改革編

第２２話 聖女、何の肉か分かる肉を提供する

　スケルトンの朝は早い。まだ常闇と朝焼けが混ざり合う暁闇の刻、骨達は居住区域より目を覚まし、夜勤明けで疲労困憊の骨達と交代する。夜勤明けの骨達も、今や魔王城の癒しスポットとなった〝マネ泉〟の効果により、休みなしの連勤にも耐えられるようになっていた。

「ナニヲコキコキヤッテイル！」
「オマエタチ、ハヤクモチバニツケ！」
「スグニドウリョクボウヲマワセ！」
「ヤキンノモノハカエッテイイゾ！」

　四体のスケルトンリーダー達が魔力炉へ入って来たスケルトン達を誘導する。スケルトン達の長い一日がここから始まるのだ。


　朝――朝礼の時間となり、魔王グロリアが魔力炉へと入室する。スケルトンジェネラルであるブラックと共に、此処で朝礼の時間となるのであるが、今日は私ルーシアも一緒だったため、スケルトン達がざわめき出す。

(サキュバスメロンノルーシアサマーー)
(ルーシアサマペロペローー)
(ハタラキタクナイデゴザル)
(アサゴハンニメロンタベタイ……)

　魔物の心の中が読めるようになったため、相変わらずスケルトン達の深層心理が筒抜けになっているが、そこは華麗にスルーする私。

「ほへーー、朝礼を始めるほへーー。お前らグロリア様に注目ほへーー」
「みんなおはよう！　今日は皆にとってありがたい話があるわ。ルーシア」

　作業をしつつ、小首を傾げる骨達。コキコキとした音が辺りに響く。グロリアに促され、私は一歩前に出る。サキュバスのレオタードによって強調されたメロンが妖艶に揺れる。

「今日から貴方達の、働く従業員として最低限の権利を保障する事に決めました」

　私が何を言っているのか分からないのであろう。骨達は作業を続けつつ、傍らで私の話を聞いている。私は発言を続ける。

「まず、昼休憩には何の肉か分かる肉・・・・・・・・を提供。夜ご飯も同様に、ちゃんと食事をして貰います」

　〝基本的骨権コッケンの尊重作戦〟第一の目玉、安定した食事の提供を提言する。私の発表にスケルトン達がざわつき始める。それはリーダー達も同様の反応で……。

「ル、ルーシアサマ？　イッタイ？」
「ナニヲオッシャッテイルカワカラナイ」
「イママデモショクジハシテイル」
「サキュバスフェロモンオイシイ……」

「あんた達も静かにしなさい。ルーシア、続けて」

　リーダー達が各々発言をするものだから、グロリアが一喝する。女魔王に一蹴され、シュンとなるリーダー達。

　そして、私はひと呼吸置いて、もう一つの目玉企画を発表する。

「毎週金曜日ははやくカエルの日です。今日はスケルトン達を定時退社させます！」

　これが〝基本的骨権コッケンの尊重作戦〟第二の目玉であった。



　定時退社なんて不可能だ。それが私の提案を聞いたグロリア達の見解だった。朝礼での発表を聞いたスケルトン達も同様の反応を示す。誰もが定時退社なんて無理だろうという思いを脳裏に抱きつつ、運命のお昼休みを迎える。

「さぁ、順番に休憩を回すわよ。Ａ班から順番にそこの扉へ入りなさい」

　お昼となり、私がある扉へスケルトン達を誘導する。魔力炉の部屋には今までなかった特別仕様の扉が壁際に一箇所存在していた。スケルトン達が首を傾げつつ、扉の中へ入ると、そこには衝撃の光景が広がっていたのである。

「スケルトンさん達、いらっしゃいませ～～」
「さぁさぁ、順番に並ぶにゃーー」

　可愛らしいメイド服を身につけた猫耳娘達がスケルトンを出迎える。

「ルーシア様ーー！　この蛙肉の果実酒煮込み、すごく美味しいずら～～！」
「ルーシア様、かたじけない……わん」

　私の姿を見て尻尾を振り振りさせつつ駆け寄るは、シルバーウルフのポチと、デスジャッカルのタロウ。喜びを全身で表現するその姿は最早犬そのものであったが……。広く長いテーブルと椅子の大半は既に魔獣達で占めされていた。お皿に盛られた蛙肉の煮込み料理と緑蜀黍スープを美味しそうに頬張っている。

「蛙肉は地域によっては貴族達も食す程の高級料理として嗜まれています。さぁ、スケルトンの皆様も順番に並んで食事を受け取って下さい」

　どうしたらいいのか分からないスケルトン達を猫耳メイド達が促し、トレーを持たせて並ばせる。厨房より流れ作業でトレーの皿と器へ肉とスープが盛られていく。スケルトンはこの日初めて調理された食事を体験する事となる。

(コンナニク……タベタコトナイ)
(ルーシアサマノメロンノヨウニヤワラカイ)
(ウマシウマシ！)
(ハタラキタクナイデゴザル)

　満足そうに食事を愉しむ従業員の姿に私も至福の表情となる。そんな私の横にいつの間にかグロリアの侍女である灰色アッシュグレーの猫耳侍女、メーティの姿が現れる。

「ルーシア様、お気に召していただけましたか？」
「メーティ、最高よ！　貴女の亜空間魔法、とんでもない力ね」
「お褒めいただき光栄です」

　数百名の従業員が一度に利用出来る規模の巨大な社員食堂。人間の国でこの規模のフロアを完成させるなら、最低一ヶ月を要するだろう。

　しかし、此処には魔王直属の最強猫耳侍女が存在した――――

　そう、私達はメーティの亜空間魔法・・・・・をフル活用し、たった一週間で社員食堂を完成させたのである。