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第三幕(最終章)真実追究編
42 魂の在り処
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「今、この部屋は俺様の魔力で創った魔法障壁で取り囲んでいる。ここで話す言葉は誰にも聞こえないし、傍受されん。安心するといい」
「……っ……こんな状態で誰が安心すると言うの!?」
口元を押さえていた手が離れた瞬間、ジルバートを睨みつけるワタクシ。しかし、それまで冷徹な表情しか見せて来なかったように見えた彼は、この時哀しそうな、なんとも言い切れない表情となっていた。
「部屋の防御結界に王宮の警備。そして、陰で動く者の眼。誰にも見つからずに転移する魔法を編み出すまでに時間がかかった」
「そうだった。あなた、どうやって此処に……って転移魔法ですって」
指定した場所と場所を結び、遠くまで瞬間移動する事の出来る空間転移魔法は、膨大な魔力を消費する。それは異世界から悪魔を召喚する魔法陣や、自然エネルギーの源である精霊を召喚する儀式の応用とも言われている。下手すると転移した瞬間、身体ごとバラバラになってしまう恐れもあるため、使用出来る者はごく少数に限られるのだ。
言われてみれば、あの時、クラウン王子とワタクシの前から姿を消した時も、彼は空間転移魔法を使っていた。つまり、相手が空間転移を使える者なら、安全な場所はないという事になるのか。これはひとついい経験になったわ。
「で、ワタクシを暗殺しに来た……って訳ではないみたいね」
「そうだな。今日はお前と話をしに来たのだ。さぁ、何から話そうか」
「その前に、あなたは一体何者なの? ブラックシリウス国の現国王――スレイヴ・カオス・シリウスとはどういう関係?」
「嗚呼、それは俺様の父親の名前だな」
「は? じゃああなた王子様ってコト?」
「そういう事になるな」
王子がこんな自由に立ち回っていいのか? 何故王子がこんなところに……いや、むしろ関係ないワタクシを王子が護る筈もない訳で。そんな考えを察してか、ジルバートは部屋のソファーへと座り、ゆっくりと話し始める。
「事態はお前が思っているよりもずっと、複雑だと言う事だ」
「どうやらあなた、聖女の存在が邪魔でこの国へやって来たという訳ではないみたいね」
「成程、そこまで調べてはいるのか」
ブラックシリウス国とクイーンズヴァレー王国との関係性、聖女と英雄の伝説はどうやらワタクシが調べた通りだった。そして、その伝説とカインズベリー侯爵家がどう関係しているのかをこれから調べる予定だったのだ。
「ちなみに、カインズベリー侯爵家と聖女は全く無関係だ。もっと言えば、過去、カインズベリー侯爵家が全焼し、お前が仕えていたヴァイオレッタが殺されたのは、黒幕にとって一番それが好都合だったからだ」
「あなた……、どこまで知っているの? 何故それを知っているの?」
そう、今目の前に居る、ジルバートは、ワタクシをモブメイドと呼び、ワタクシの過去を知っているのだ。
「簡単なことだ。俺も死に戻った人物の一人だからな。俺は一度死に戻り、そして、転生した。だが、俺は俺としてではなく、ブラックシリウス国の現国王――スレイヴ・カオス・シリウスの子として転生したのさ」
「そんな……まさか!?」
転生した? 過去に戻るという事実だけでも信じ難いというのに、彼は生まれ変わったのだという。ジルバートによると、そもそも肉体とは魂を入れる器でしかないのだという。そして、その肉体は、魂が宿る前でないと入る事が出来ないのだそう。彼はジルバートとして転生し、ブラックシリウス国の内情を知る。他国との交流を絶ち、悪魔と契約した過去を持つ帝国は決して裕福ではなかった。かつての栄華はなく、荒廃した国。彼は自国を建て直そうと前世での知識を活用し、若くして自国での地位を築く。と同時、過去の悲劇を繰り返さないよう、水面下で時を待った。
「そして、モブメイド……お前を見つけたのさ」
「どうしてワタ……いや、わたしなの?」
「ようやくその口調になったなモブメイド」
そう、ヴァイオレッタでもなくわたしなのだ。何故、彼はモブメイドであるわたしに拘るのか? 徐に立ち上がった彼はわたしに近づく。
「お前は自分を何だと思っている? ヴァイオレッタお付のモブメイド。序列は88番目。それ以上でもそれ以下でもないと。そして、過去の悲劇を繰り返さないよう此処までやって来た、違うか?」
「ええ、そうです。ヴァイオレッタ様が再び死んでしまうなんて、考えられない。だから、破滅を回避して……」
「いや、今ヴァイオレッタの中身はモブメイド。お前だろう。じゃあ、クラウン王子が愛しているのもモブメイドではなく、ヴァイオレッタだ、違うか?」
「え? それはそうですが……わたしは、ヴァイオレッタ様が幸せになればそれで……」
そこまで聞いたジルバートは、ゆっくりと部屋を歩く。まだブルームは気を失ったままだ。そして、少し距離を置いた状態で振り返り、わたしにこう告げたのだ。
「ではモブメイド、お前に問おう。この世界にもし、ヴァイオレッタの魂も転生していたとしたら、お前はどうする?」
「……っ……こんな状態で誰が安心すると言うの!?」
口元を押さえていた手が離れた瞬間、ジルバートを睨みつけるワタクシ。しかし、それまで冷徹な表情しか見せて来なかったように見えた彼は、この時哀しそうな、なんとも言い切れない表情となっていた。
「部屋の防御結界に王宮の警備。そして、陰で動く者の眼。誰にも見つからずに転移する魔法を編み出すまでに時間がかかった」
「そうだった。あなた、どうやって此処に……って転移魔法ですって」
指定した場所と場所を結び、遠くまで瞬間移動する事の出来る空間転移魔法は、膨大な魔力を消費する。それは異世界から悪魔を召喚する魔法陣や、自然エネルギーの源である精霊を召喚する儀式の応用とも言われている。下手すると転移した瞬間、身体ごとバラバラになってしまう恐れもあるため、使用出来る者はごく少数に限られるのだ。
言われてみれば、あの時、クラウン王子とワタクシの前から姿を消した時も、彼は空間転移魔法を使っていた。つまり、相手が空間転移を使える者なら、安全な場所はないという事になるのか。これはひとついい経験になったわ。
「で、ワタクシを暗殺しに来た……って訳ではないみたいね」
「そうだな。今日はお前と話をしに来たのだ。さぁ、何から話そうか」
「その前に、あなたは一体何者なの? ブラックシリウス国の現国王――スレイヴ・カオス・シリウスとはどういう関係?」
「嗚呼、それは俺様の父親の名前だな」
「は? じゃああなた王子様ってコト?」
「そういう事になるな」
王子がこんな自由に立ち回っていいのか? 何故王子がこんなところに……いや、むしろ関係ないワタクシを王子が護る筈もない訳で。そんな考えを察してか、ジルバートは部屋のソファーへと座り、ゆっくりと話し始める。
「事態はお前が思っているよりもずっと、複雑だと言う事だ」
「どうやらあなた、聖女の存在が邪魔でこの国へやって来たという訳ではないみたいね」
「成程、そこまで調べてはいるのか」
ブラックシリウス国とクイーンズヴァレー王国との関係性、聖女と英雄の伝説はどうやらワタクシが調べた通りだった。そして、その伝説とカインズベリー侯爵家がどう関係しているのかをこれから調べる予定だったのだ。
「ちなみに、カインズベリー侯爵家と聖女は全く無関係だ。もっと言えば、過去、カインズベリー侯爵家が全焼し、お前が仕えていたヴァイオレッタが殺されたのは、黒幕にとって一番それが好都合だったからだ」
「あなた……、どこまで知っているの? 何故それを知っているの?」
そう、今目の前に居る、ジルバートは、ワタクシをモブメイドと呼び、ワタクシの過去を知っているのだ。
「簡単なことだ。俺も死に戻った人物の一人だからな。俺は一度死に戻り、そして、転生した。だが、俺は俺としてではなく、ブラックシリウス国の現国王――スレイヴ・カオス・シリウスの子として転生したのさ」
「そんな……まさか!?」
転生した? 過去に戻るという事実だけでも信じ難いというのに、彼は生まれ変わったのだという。ジルバートによると、そもそも肉体とは魂を入れる器でしかないのだという。そして、その肉体は、魂が宿る前でないと入る事が出来ないのだそう。彼はジルバートとして転生し、ブラックシリウス国の内情を知る。他国との交流を絶ち、悪魔と契約した過去を持つ帝国は決して裕福ではなかった。かつての栄華はなく、荒廃した国。彼は自国を建て直そうと前世での知識を活用し、若くして自国での地位を築く。と同時、過去の悲劇を繰り返さないよう、水面下で時を待った。
「そして、モブメイド……お前を見つけたのさ」
「どうしてワタ……いや、わたしなの?」
「ようやくその口調になったなモブメイド」
そう、ヴァイオレッタでもなくわたしなのだ。何故、彼はモブメイドであるわたしに拘るのか? 徐に立ち上がった彼はわたしに近づく。
「お前は自分を何だと思っている? ヴァイオレッタお付のモブメイド。序列は88番目。それ以上でもそれ以下でもないと。そして、過去の悲劇を繰り返さないよう此処までやって来た、違うか?」
「ええ、そうです。ヴァイオレッタ様が再び死んでしまうなんて、考えられない。だから、破滅を回避して……」
「いや、今ヴァイオレッタの中身はモブメイド。お前だろう。じゃあ、クラウン王子が愛しているのもモブメイドではなく、ヴァイオレッタだ、違うか?」
「え? それはそうですが……わたしは、ヴァイオレッタ様が幸せになればそれで……」
そこまで聞いたジルバートは、ゆっくりと部屋を歩く。まだブルームは気を失ったままだ。そして、少し距離を置いた状態で振り返り、わたしにこう告げたのだ。
「ではモブメイド、お前に問おう。この世界にもし、ヴァイオレッタの魂も転生していたとしたら、お前はどうする?」
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