5 / 58
第一幕 モブメイド令嬢誕生編
05 一夜明けました♡
しおりを挟む
「あの、あの! ヴァイオレッタ様。もしかして、昨日は王子様と」
「こら、グロッサ。やめなさい、そんなはしたない」
「じゃあ、言い方を変えます。ゆうべはお楽しみでしたね」
「グロッサ!」
慌てて第二メイドであるグロッサを叱責する第一メイド、ローザ。
ええ、ええ。いいのよ、グロッサ。あなたはこういう恋愛のお話が大好きだものね。まぁ、ゆうべのお話はあなた達のご想像にお任せするわ。
ふふふ。昨日は嵐様万歳だったわね。雷が鳴った事でワタクシの中に生きているモブメイドの純情な感情が思わず飛び込んでしまった事で、王子のスイッチが入ったみたいね。ワタクシは今、王宮の一室で、ローザとグロッサに髪を整えて貰っているわ。
あれはまだ夕方で、全身が熱く火照ったまま、お風呂に入って身体を綺麗にしたわ。王宮の方々とお食事をした後、王子のお部屋に泊まる事になって。ふふふ……これ以上はワタクシの口からは言えないわね。
「ヴァイオレッタ様。先程から笑みが零れていますが、どうかされましたか?」
「え? 嗚呼。なんでもないわ」
ローザとグロッサが顔を見合わせて何やら頷いているわね。何か思うところがあったのかしらね。
まぁいいわ。それにしても、普段見ることの出来ないクラウンは、ドSで意地悪だったわ。でもね、耳元で囁かれると魔法をかけられたみたいに脳内が蕩けていくの。もう何が何だか分からないまま、夢のような時間が過ぎていったわ。ふふふ。駄目だわ。思い出すと恥ずかしくて、笑いがこみ上げて来るんだもの。
翌朝、目を覚ました時、隣に眠る王子の寝顔があって……。
「ふふふ……あの寝顔……可愛かったわね」
「まぁ!」
「ヴァイオレッタ様! 心の声が漏れてます!」
あ、いけない。これじゃあローザとグロッサにもバレバレじゃない。まぁ、この二人は信頼出来る子達だから、問題は無さそうだけど。
あら、駄目ね。ちょっと心の中のモブメイドが叫びたがっているので、叫ばせてあげてもいいかしら?
――嗚呼、もぅううう、ヴァイオレッタ様ぁあああ! 王子にこんな溺愛されるなんて聞いてませんから~~♡♡♡
★★★
王宮の食堂へ向かうと、王様と王妃様がいらっしゃったので、恭しく一礼したわ。
王子からは昨日嵐になったため、ワタクシ達が泊っている事は既に知っていたみたい。
そして、この食事の席で、王子の口から王様へあの事が告げられたの。
「父上、母上。許嫁であるヴァイオレッタ・ロゼ・カインズベリーを、正式に王宮へ迎え入れたいんだが」
「なんと!」
「まぁ!」
王様は、お肉へナイフを入れていた手を止め、王妃様は、懐からハンカチを取り出して、何やら目元にあてている。
「そうか。丁度一年後、クイーンズヴァレー王国創立五百年の記念式典がある。婚姻の儀はそこに併せて準備をしておくのもよいじゃろう」
「ヴァイオレッタ、よろしくお願いしますね」
ワタクシは王様と王妃様へ向かって一礼し、これで来年より王宮へ住まう事が約束されたわ。これで、第一関門はクリア……。
ガタン――
「本日は午前中から魔法の稽古がありますので、僕はお先に失礼致します」
「アイゼンお兄様。私もご一緒しますわ!」
クラウンの隣に座っていた二人が立ち上がり、早々に席を立つ。
一人はアイゼン・アルヴァート。クラウンの弟であり、クイーンズヴァレー王国の第二王子だ。白髪短髪で背丈はワタクシ、ヴァイオレッタと同じくらい。普段はクラウン王子の背後に隠れているが、その可愛らしい容姿に、抱き締めてあげたいと思う年上のお姉さん多数だ。ヴァイオレッタ付のメイド達の間でも人気が高い。勿論これは、モブメイド情報である。
もう一人は、フィリーナ・アルヴァート。クラウン、アイゼンの妹であり、クイーンズヴァレー王国の第一王女。彼女の翠髪ツインテールは遠くから見ても目立つ。背はモブメイドと変わらない位=とっても小さい。二人の兄が大好きな彼女は、クラウンやアイゼンに寄って来る女性はみんな毒虫だと思っている。案の定、席を立った彼女は食堂の入口付近で振り返り、ワタクシを睨みつけるようにして外へと出て行った。
確か王宮へ住まうようになってから、アイゼン、フィリーナ兄妹とヴァイオレッタとの関係性はどんどん悪化していく一方だった。
来年訪れる破滅エンドを回避するためには、この二人との関係性も良くしていく必要があるのではないかと思う。
「来週12月15日には十六歳となるアイゼンの誕生日パーティが開かれる予定だ。ヴァイオレッタ。君も招待しよう」
「あら、お招きいただき光栄ですわ」
当事者が居ない中で、王様から誕生日パーティへのお誘いを受けるヴァイオレッタ。そうだった。モブメイドとしての生前の記憶を辿り、思い出す。この一年、イベント毎が尽きないのだ。
そして、イベントの度にヴァイオレッタはその悪役令嬢振りを発揮し、己の道を歩んでいったのだ。己を曲げる事無く、自身の信念を貫くその姿はモブメイドからすると美しく、尊く眩しい程だったらしいわ。
まずはアイゼンを味方にする事から始めましょう。
確か、あの誕生日パーティでは事件が起きた筈。え? モブメイド如きが誕生日パーティへ招かれていないだろう? どうしてそんな情報を知っているのかって? ふふふ。モブメイドを嘗めてもらっては困るわね。メイドは貴族間の噂が大好物。『誰と誰が結ばれたらしい』、『あのパーティでこんな事があったらしい』、『無礼な伯爵令嬢をヴァイオレッタ様が一蹴した姿が凛々しかった』、『クラウン王子とヴァイオレッタ様がお似合いのカップル振りを発揮した』エトセトラ、エトセトラ……。百人ものメイドが居れば、貴族のお噂情報なんてすぐ仕入れる事が出来るのよ。
食事を終え、帰りの馬車に揺られる車内でワタクシは薄っすら笑みを浮かべるのです。
「さぁ、これから忙しくなりそうね」
「こら、グロッサ。やめなさい、そんなはしたない」
「じゃあ、言い方を変えます。ゆうべはお楽しみでしたね」
「グロッサ!」
慌てて第二メイドであるグロッサを叱責する第一メイド、ローザ。
ええ、ええ。いいのよ、グロッサ。あなたはこういう恋愛のお話が大好きだものね。まぁ、ゆうべのお話はあなた達のご想像にお任せするわ。
ふふふ。昨日は嵐様万歳だったわね。雷が鳴った事でワタクシの中に生きているモブメイドの純情な感情が思わず飛び込んでしまった事で、王子のスイッチが入ったみたいね。ワタクシは今、王宮の一室で、ローザとグロッサに髪を整えて貰っているわ。
あれはまだ夕方で、全身が熱く火照ったまま、お風呂に入って身体を綺麗にしたわ。王宮の方々とお食事をした後、王子のお部屋に泊まる事になって。ふふふ……これ以上はワタクシの口からは言えないわね。
「ヴァイオレッタ様。先程から笑みが零れていますが、どうかされましたか?」
「え? 嗚呼。なんでもないわ」
ローザとグロッサが顔を見合わせて何やら頷いているわね。何か思うところがあったのかしらね。
まぁいいわ。それにしても、普段見ることの出来ないクラウンは、ドSで意地悪だったわ。でもね、耳元で囁かれると魔法をかけられたみたいに脳内が蕩けていくの。もう何が何だか分からないまま、夢のような時間が過ぎていったわ。ふふふ。駄目だわ。思い出すと恥ずかしくて、笑いがこみ上げて来るんだもの。
翌朝、目を覚ました時、隣に眠る王子の寝顔があって……。
「ふふふ……あの寝顔……可愛かったわね」
「まぁ!」
「ヴァイオレッタ様! 心の声が漏れてます!」
あ、いけない。これじゃあローザとグロッサにもバレバレじゃない。まぁ、この二人は信頼出来る子達だから、問題は無さそうだけど。
あら、駄目ね。ちょっと心の中のモブメイドが叫びたがっているので、叫ばせてあげてもいいかしら?
――嗚呼、もぅううう、ヴァイオレッタ様ぁあああ! 王子にこんな溺愛されるなんて聞いてませんから~~♡♡♡
★★★
王宮の食堂へ向かうと、王様と王妃様がいらっしゃったので、恭しく一礼したわ。
王子からは昨日嵐になったため、ワタクシ達が泊っている事は既に知っていたみたい。
そして、この食事の席で、王子の口から王様へあの事が告げられたの。
「父上、母上。許嫁であるヴァイオレッタ・ロゼ・カインズベリーを、正式に王宮へ迎え入れたいんだが」
「なんと!」
「まぁ!」
王様は、お肉へナイフを入れていた手を止め、王妃様は、懐からハンカチを取り出して、何やら目元にあてている。
「そうか。丁度一年後、クイーンズヴァレー王国創立五百年の記念式典がある。婚姻の儀はそこに併せて準備をしておくのもよいじゃろう」
「ヴァイオレッタ、よろしくお願いしますね」
ワタクシは王様と王妃様へ向かって一礼し、これで来年より王宮へ住まう事が約束されたわ。これで、第一関門はクリア……。
ガタン――
「本日は午前中から魔法の稽古がありますので、僕はお先に失礼致します」
「アイゼンお兄様。私もご一緒しますわ!」
クラウンの隣に座っていた二人が立ち上がり、早々に席を立つ。
一人はアイゼン・アルヴァート。クラウンの弟であり、クイーンズヴァレー王国の第二王子だ。白髪短髪で背丈はワタクシ、ヴァイオレッタと同じくらい。普段はクラウン王子の背後に隠れているが、その可愛らしい容姿に、抱き締めてあげたいと思う年上のお姉さん多数だ。ヴァイオレッタ付のメイド達の間でも人気が高い。勿論これは、モブメイド情報である。
もう一人は、フィリーナ・アルヴァート。クラウン、アイゼンの妹であり、クイーンズヴァレー王国の第一王女。彼女の翠髪ツインテールは遠くから見ても目立つ。背はモブメイドと変わらない位=とっても小さい。二人の兄が大好きな彼女は、クラウンやアイゼンに寄って来る女性はみんな毒虫だと思っている。案の定、席を立った彼女は食堂の入口付近で振り返り、ワタクシを睨みつけるようにして外へと出て行った。
確か王宮へ住まうようになってから、アイゼン、フィリーナ兄妹とヴァイオレッタとの関係性はどんどん悪化していく一方だった。
来年訪れる破滅エンドを回避するためには、この二人との関係性も良くしていく必要があるのではないかと思う。
「来週12月15日には十六歳となるアイゼンの誕生日パーティが開かれる予定だ。ヴァイオレッタ。君も招待しよう」
「あら、お招きいただき光栄ですわ」
当事者が居ない中で、王様から誕生日パーティへのお誘いを受けるヴァイオレッタ。そうだった。モブメイドとしての生前の記憶を辿り、思い出す。この一年、イベント毎が尽きないのだ。
そして、イベントの度にヴァイオレッタはその悪役令嬢振りを発揮し、己の道を歩んでいったのだ。己を曲げる事無く、自身の信念を貫くその姿はモブメイドからすると美しく、尊く眩しい程だったらしいわ。
まずはアイゼンを味方にする事から始めましょう。
確か、あの誕生日パーティでは事件が起きた筈。え? モブメイド如きが誕生日パーティへ招かれていないだろう? どうしてそんな情報を知っているのかって? ふふふ。モブメイドを嘗めてもらっては困るわね。メイドは貴族間の噂が大好物。『誰と誰が結ばれたらしい』、『あのパーティでこんな事があったらしい』、『無礼な伯爵令嬢をヴァイオレッタ様が一蹴した姿が凛々しかった』、『クラウン王子とヴァイオレッタ様がお似合いのカップル振りを発揮した』エトセトラ、エトセトラ……。百人ものメイドが居れば、貴族のお噂情報なんてすぐ仕入れる事が出来るのよ。
食事を終え、帰りの馬車に揺られる車内でワタクシは薄っすら笑みを浮かべるのです。
「さぁ、これから忙しくなりそうね」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
毒姫ライラは今日も生きている
木崎優
恋愛
エイシュケル王国第二王女ライラ。
だけど私をそう呼ぶ人はいない。毒姫ライラ、それは私を示す名だ。
ひっそりと森で暮らす私はこの国において毒にも等しく、王女として扱われることはなかった。
そんな私に、十六歳にして初めて、王女としての役割が与えられた。
それは、王様が愛するお姫様の代わりに、暴君と呼ばれる皇帝に嫁ぐこと。
「これは王命だ。王女としての責務を果たせ」
暴君のもとに愛しいお姫様を嫁がせたくない王様。
「どうしてもいやだったら、代わってあげるわ」
暴君のもとに嫁ぎたいお姫様。
「お前を妃に迎える気はない」
そして私を認めない暴君。
三者三様の彼らのもとで私がするべきことは一つだけ。
「頑張って死んでまいります!」
――そのはずが、何故だか死ぬ気配がありません。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
【完結】君の世界に僕はいない…
春野オカリナ
恋愛
アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。
それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。
薬の名は……。
『忘却の滴』
一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。
それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。
父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。
彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる