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第一章 風の国編

三十三.始まりの鐘が鳴る

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「ふふふ、いよいよですね」

 羽搏く双翼。獅子の頭に胴体、長くうねる大蛇の尻尾。シルバー等級の魔物――数体のキマイラを携え、先頭のキマイラの上で胡坐をかいて座る白い仮面を被った男。

 今から始まる血祭を想像し、男は仮面で素顔を隠したまま舌なめずりをする。 

「ラウム様。これでよろしいのですか?」

「ええ、構いませんよ。勿論失敗は許されませんがね」

 そう尋ねるは、隣のキマイラへ乗る黒き身体の異形。悪魔と呼ぶに相応しい体躯。黒い外套へ身体を覆う異形は、ラウムと呼ばれた男の側近であろう。

 先陣部隊として向かう蝙蝠の羽根を携えたレッサーデーモン達を見送り、ラウムと呼ばれた男は腕組みしたまま答える。

「さぁ、ヴィネ。蹂躙の時間ですよ! 魔族以外の存在は全て排除するのです!」

「ラウム様の仰せのままに」

 ラウムとその部下、ヴィネ。キマイラの咆哮と共に魔族率いる悪魔達は眼下へ広がる大地――風の国ウイングシルビアへと迫る。



◆◇◆


 王宮の作戦会議室。風の王ランスを中心に騎士団の幹部達が集まっていた。会議室には騎士団長ティラミスの紹介で、特別にレイとアンも同席させてもらっている。

「報告します。索敵班からの報告によると、敵の数は約五百。主に銅等級のレッサーデーモンのようです」

 銅等級であれば、兎耳騎士団のメンバーだけでも恐らく問題はないだろう。しかし、風の勇者リーズと、騎士団長ティラミスの見解は違った。


「私が風の谷ブリーズバレー周辺の警戒にあたっていた際、魔族の長らしき者と接触した事がある。彼等が銅等級だけで攻めて来るとは思えない」

「私もリーズの意見に同意だな。銅等級のみで国を落とせるなど、幾ら奴等とて考えていないだろう」

 風の王は皆の意見を聞いていく。谷へはすぐに警戒警報を発令した上で住民を避難させる。実力に自信がある冒険者以外は谷の地下へ備える地下フィルターへと避難させる算段のようだ。


「住民達の避難準備は既に整っております。あとは敵を迎え撃つのみ」

 すると、末席に座っていた何やら水晶玉のようなものを扱っていた老婆が、突然声をあげた。

「大変じゃ。キマイラじゃ! レッサーデーモンの遥か後方。キマイラ共が二手に分かれておる。一つは風の谷ブリーズバレー。もう一つは西の方角……これは……シルフィナの村じゃ」

「なっ! まさかっ!」

 老婆の報告にリーズが立ち上がる。冷静な彼女の驚く姿にレイも反応する。

「シルフィナの村?」

「嗚呼。レイ殿。シルフィナの村はリーズの生まれ故郷だよ」

 レイの呟きに、騎士団長ティラミスが補足してくれる。しかし、風の勇者リーズの力は一人で国家戦力へ匹敵する程のSランク。国にとって重量な戦力なのだ。彼女は黙って何かを考えているようだった。

「リーズよ。お前がシルフィナの村へ向かうと良い。シルフの力なら一瞬だろう」

「なっ!? ですが、ランス王! それでは宮殿の守りが!」

 王の発言に騎士団員達も頷いている。 

「心配は要らん。風の谷ブリーズバレーは私と此処の団員達が全力で死守するさ」

「それに、そこにおる新星の若者がいるだろう」

 風の王の発言に、レイへと視線が集まる。レイは黙って立ち上がると、皆へ向かってひと言。

「俺が居る限り、風の谷ブリーズバレーは安泰だ」

 (きゃああああ、レイ様~~~♡)

 心の中でぶるんぶるんメロンを震わせるアンはさておき……。

「しかし、深追いはするな。宮殿での攻防を終え次第、我等も風の村へ向かう」

「ティラミス……」

 暫く考えていたリーズだったが、やがて決心したのか、王と騎士団員達へ恭しく一礼する。

「ランス王、ご厚意感謝致します。シルフィナの村は私、リーズが死守し、殲滅次第、宮殿へと帰還します」

 すると、立ち上がったリーズの周辺に風の渦が出現する。彼女を包み込む小さな竜巻は、シルフと同じ淡い翠色の光を帯びており……。 

「精霊術《エレメンタルアーツ》、【風属性スキル】――風精霊の翼シルフィーウイング!」

 リーズの身体が光に包まれたかと思うと、一瞬でその場から消失する。初めて見る光景に、レイとアンが思わず声をあげる。


「これは……!」
「凄いです……」

【シルフの力を使った移動術よ。一度行った事のある場所へ瞬間的に移動出来る上級スキル。シルフと契約した彼女にしか出来ない精霊術エレメンタルアーツね】

 ルシアが念話で補足してくれる。瞬間移動とはまた便利なスキルである。これなら敵が突然攻めて来ようが一瞬でその場所へと移動出来るという訳だ。


 ランス王と騎士団長ティラミスの指示の下、騎士団員は配置へつき、緊急避難を知らせるキャロット宮殿、尖塔に備え付けられている金色の鐘が鳴る。

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