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第一章 風の国編

三十二.夕べはお楽しみ?

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「ん……ん……朝ですかぁ……」

 目をこすりつつ、エルフの美少女は目を覚ました。彼女の脳裏はこうだ。『どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい……』……と。
 
 昨晩レイと飲んでいた事を思い出すエルフ。シーツを包んだ状態で、彼の姿を確認しようと身を回転させたところで、隣のベッドに眠る男女・・の姿が目に入る。

「レイ様と……ルシアさ……え?」

「あら♡おはよう、アンちゃん」

 毛布を捲って身を起こす闇精霊の姿に衝撃を受けるアン。そこには上半身裸のレイと、いつもの下着ビスチェ姿のルシアがひとつのベッドに横たわっていたのだ。

「あわわわわ……ルシア様……そ、その格好……」

「嗚呼、これ? レイと途中までひとつに・・・・なっていたんだけど、あまりに寝顔が可愛いから添い寝していたのよねぇ~~♡」

 両頬に手を当てて語るルシアに、わなわなと震え始めるアン。

 ルシアは決して間違った事は言っていなかった。あくまでひとつになっていたとは、融合していただけの話である。融合した状態でレイが眠ったあと、寝顔を見るために顕現した彼女は、そのまま添い寝をしていた。レイが上半身裸な理由も、単に闇闘気によって纏っていた衣服が消滅したためなのであるが……。

「え……え……えっちぃのは嫌いですぅ~~!」


 声と共に飛び起きたレイの頬っぺたに放たれるアンの平手打ち。

 少年の朝は衝撃と共に幕を開けるのだった――――




「わ、私、勘違いで……本当すいませんでした~~!」

「いや、いい。冒険者たる者、如何なる時でも強襲に備えておかなければならない。これはいい経験になったよ」

 朝食会場にて食事を取るアンとレイ。頬についた掌のあとをさするレイへアンは平謝りだ。
 
【もう~、アンったら~。変な想像するから~~】

「ルシア様が、意味深な言い方をするからいけないんですぅ!」

 あの後ルシアの説明により、レイの誤解は解かれたのである。姿を消して念話で会話するルシアの声に思わず反応するアン。アンの揺れるメロンに朝食会場からも溜息が漏れるのである。

 朝のデザートには大きすぎるメロンである。
 そしてこの時、朝ご飯をのんびり食べるレイ達の下へ緊急通達が届くなど、誰も予想していなかった。

 レイが朝食のパンを食べている時、ルシアの声が二人の脳裏に響いたのである。

【おはよう。え? なんですって!? ええ。分かったわ。すぐにそちらへ向かうわ】

 誰かと会話をしているようなルシアの応答。どうやら彼女へ誰かからの念話が届いたのだろう。

「ルシア、どうしたんだ?」

「何かあったんですか?」
 
 周囲に悟られないよう、小声で会話するレイとアン。ルシアは二人へ向け、念話を届ける。

【ええ。今のは風精霊シルフからよ。精霊は精霊同士、元々独自の通信網ネットワークを築いているの。今、遠方より、魔物の集団がこの国へと近づいているわ。もうじき風の谷ブリーズバレーは緊急警戒態勢になる】

「なんだって!」

「大変です」

 あくまで冷静に、小声で会話をするレイとアン。残りの食事を食べ終え、ルシアの指示に従う。

【レイもアンちゃんも、今すぐキャロット宮殿へ向かって欲しいとの事よ。準備して行くわよ】

「任せろ」
「わかりました」

 静かに頷く少年とエルフ。
 風の谷ブリーズバレーを守る戦いが、いよいよ始まろうとしていた。

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