30 / 93
第一章 風の国編
三十.vs現兎耳騎士団長
しおりを挟む
(まさか……これほどとは思わなかったな)
【ほら~。ワタクシの目に狂いはなかったでしょ~?】
風の勇者リーズは、心の中でシルフと会話していた。王へ被害が出ないよう風による結界を張った状態で、戦いを観戦すること一分。漆黒の魔剣を顕現させたレイは、騎士団長が繰り出す剣戟全てを受け止めていた。
風精霊と契約していないとは言え、騎士団長まで登り詰めた男。ランクにして金色のAランク。銀色の剣から繰り出される彼の剣戟は一撃一撃が重みを帯びていた。刃がぶつかり合う度に巻き起こる風。
(まずは小手調べとは言え、中等級程度の魔物ならあれだけで真っ二つになっているな)
リーズは二人の一挙手一投足を具に観察する。シルフの力を扱う事で変則的な動きを加えた攻撃を繰り出すリーズと違い、騎士団長の攻撃スタイルは直線的だった。ただし、力で気圧されるレイの身体は、だんだんと後退していく。
「重いな。流石騎士団長」
「まだまだこんなもんじゃないぞ!」
力で魔剣を押し上げたところ、足許を掬うように払う一撃。飛び上がりレイが避けたところを狙って横から薙ぐ回転斬り。先程より明らかに変化を加えた動き。しかし、レイも感覚を研ぎ澄ませ、その動きへ喰らいつく。返しに闇闘気を纏わせた剣戟を放ち、無理矢理彼の身体を引き剥がす。
「残り一分よ!」
デラウェアの声が王の間へと響く。距離を置いたところで呼吸を整える騎士団長がマントを脱ぎ捨てる。何やらレイへ仕掛けるつもりらしい。
「次で終わりだ。行くぞ」
「嗚呼。来い!」
刹那、騎士団長ティラミスを纏う空気が変わる。兎耳が立つと同時に白髪が靡く。そして、銀色の剣へ風を纏わせた騎士団長は、その剣をレイへ向かって投げた!
(投げただとっ!?)
風を纏った刃は高速回転しつつレイへと迫る。魔剣の刀身へ左手を添えた状態で、刀身を受け止めるレイ。剣に纏った真空の刃は漆黒の軽鎧によって防がれている。しかし、刃を受け止めた状態で、彼は考えていた。
(確かに強力な攻撃だ。だが、この程度なら俺は受け切れると奴なら予測済なのではないか……ならば、本命は……)
レイはティラミスの本質を見抜く。魔剣に力を籠め、投げつけられた剣を弾く。剣が宙を舞った瞬間、既に眼前へと迫っていた騎士団長。彼の顔を捉える事は出来なかった。なぜなら彼は大盾で視界を隠していたのだから!
「これは」
「そのまま潰れるがいい!」
――チャージアタック
そう、彼はマントで背負う大盾を隠したまま銀色の剣のみで戦っていたのだ。騎士団長ティラミスは、片手剣と大盾による戦闘を得意としている。片手剣のみで仕留められない場合、敵の強力な攻撃が発動される場合、背負う盾が初めて登場するのである。
魔剣も軽鎧を纏う闇闘気も関係ない。背後に迫る壁。このまま力で押されては、押し潰される事は必至。ティラミスは勝利を確信し、捨て身覚悟で一気に攻め込む。
「まだだ」
「なっ!」
しかし、大盾に押されつつも、レイは冷静だった。顕現させていた魔剣をイメージで瞬時に消失させ、そのまま大盾の縁を掴み、自身へ引き寄せたまま地面へと背中を預ける。そして、相手の勢いを利用した状態で、右脚を大盾の中央へ乗せ、ティラミスを後方へ投げ飛ばしたのだ。
そのまま壁へと激突するティラミス。ダメージは少ないものの、結果レイの身体には傷はついておらず、無事三分が経過する事となる。
「はーい、それまで! レイちゃん試練クリア。合格よ~ん!」
「レイ様! やりました~~!」
デラウェアの合図と共にレイへと駆け寄るアン。喜ぶ二つの果実は上下運動を披露している。
「最後の柔術。俄かで身に付くものじゃないな。どうやった?」
立ち上がるレイへ声をかける騎士団長。
「俺は闇精霊と契約する前、あんたと同じ大盾と剣を使った戦闘スタイルだった。自身が以前使っていた技の弱点くらい、理解しているさ」
「成程な」
そう、レイが勇者パーティの一員だった頃の盾と剣を使う、当時の騎士としての戦闘スタイルが酷似していたのだ。大盾で相手を押し潰すチャージアタックと、盾で相手を叩きつけるシールドバッシュ。自身が使っていた技だからこそ、咄嗟にレイはあの投げを披露したのである。
こうしてレイは、無事に風の王にも認められ、魔族による進撃から備える防衛戦のメンバーへ抜擢される事となる。
【よかったわね~リーズ。心強い味方が出来たじゃない】
(私はまだ、彼の実力を認めた訳じゃないからなっ)
心の中で風精霊シルフと会話しつつ、風の勇者リーズは黙ってレイを見つめるのであった。
【ほら~。ワタクシの目に狂いはなかったでしょ~?】
風の勇者リーズは、心の中でシルフと会話していた。王へ被害が出ないよう風による結界を張った状態で、戦いを観戦すること一分。漆黒の魔剣を顕現させたレイは、騎士団長が繰り出す剣戟全てを受け止めていた。
風精霊と契約していないとは言え、騎士団長まで登り詰めた男。ランクにして金色のAランク。銀色の剣から繰り出される彼の剣戟は一撃一撃が重みを帯びていた。刃がぶつかり合う度に巻き起こる風。
(まずは小手調べとは言え、中等級程度の魔物ならあれだけで真っ二つになっているな)
リーズは二人の一挙手一投足を具に観察する。シルフの力を扱う事で変則的な動きを加えた攻撃を繰り出すリーズと違い、騎士団長の攻撃スタイルは直線的だった。ただし、力で気圧されるレイの身体は、だんだんと後退していく。
「重いな。流石騎士団長」
「まだまだこんなもんじゃないぞ!」
力で魔剣を押し上げたところ、足許を掬うように払う一撃。飛び上がりレイが避けたところを狙って横から薙ぐ回転斬り。先程より明らかに変化を加えた動き。しかし、レイも感覚を研ぎ澄ませ、その動きへ喰らいつく。返しに闇闘気を纏わせた剣戟を放ち、無理矢理彼の身体を引き剥がす。
「残り一分よ!」
デラウェアの声が王の間へと響く。距離を置いたところで呼吸を整える騎士団長がマントを脱ぎ捨てる。何やらレイへ仕掛けるつもりらしい。
「次で終わりだ。行くぞ」
「嗚呼。来い!」
刹那、騎士団長ティラミスを纏う空気が変わる。兎耳が立つと同時に白髪が靡く。そして、銀色の剣へ風を纏わせた騎士団長は、その剣をレイへ向かって投げた!
(投げただとっ!?)
風を纏った刃は高速回転しつつレイへと迫る。魔剣の刀身へ左手を添えた状態で、刀身を受け止めるレイ。剣に纏った真空の刃は漆黒の軽鎧によって防がれている。しかし、刃を受け止めた状態で、彼は考えていた。
(確かに強力な攻撃だ。だが、この程度なら俺は受け切れると奴なら予測済なのではないか……ならば、本命は……)
レイはティラミスの本質を見抜く。魔剣に力を籠め、投げつけられた剣を弾く。剣が宙を舞った瞬間、既に眼前へと迫っていた騎士団長。彼の顔を捉える事は出来なかった。なぜなら彼は大盾で視界を隠していたのだから!
「これは」
「そのまま潰れるがいい!」
――チャージアタック
そう、彼はマントで背負う大盾を隠したまま銀色の剣のみで戦っていたのだ。騎士団長ティラミスは、片手剣と大盾による戦闘を得意としている。片手剣のみで仕留められない場合、敵の強力な攻撃が発動される場合、背負う盾が初めて登場するのである。
魔剣も軽鎧を纏う闇闘気も関係ない。背後に迫る壁。このまま力で押されては、押し潰される事は必至。ティラミスは勝利を確信し、捨て身覚悟で一気に攻め込む。
「まだだ」
「なっ!」
しかし、大盾に押されつつも、レイは冷静だった。顕現させていた魔剣をイメージで瞬時に消失させ、そのまま大盾の縁を掴み、自身へ引き寄せたまま地面へと背中を預ける。そして、相手の勢いを利用した状態で、右脚を大盾の中央へ乗せ、ティラミスを後方へ投げ飛ばしたのだ。
そのまま壁へと激突するティラミス。ダメージは少ないものの、結果レイの身体には傷はついておらず、無事三分が経過する事となる。
「はーい、それまで! レイちゃん試練クリア。合格よ~ん!」
「レイ様! やりました~~!」
デラウェアの合図と共にレイへと駆け寄るアン。喜ぶ二つの果実は上下運動を披露している。
「最後の柔術。俄かで身に付くものじゃないな。どうやった?」
立ち上がるレイへ声をかける騎士団長。
「俺は闇精霊と契約する前、あんたと同じ大盾と剣を使った戦闘スタイルだった。自身が以前使っていた技の弱点くらい、理解しているさ」
「成程な」
そう、レイが勇者パーティの一員だった頃の盾と剣を使う、当時の騎士としての戦闘スタイルが酷似していたのだ。大盾で相手を押し潰すチャージアタックと、盾で相手を叩きつけるシールドバッシュ。自身が使っていた技だからこそ、咄嗟にレイはあの投げを披露したのである。
こうしてレイは、無事に風の王にも認められ、魔族による進撃から備える防衛戦のメンバーへ抜擢される事となる。
【よかったわね~リーズ。心強い味方が出来たじゃない】
(私はまだ、彼の実力を認めた訳じゃないからなっ)
心の中で風精霊シルフと会話しつつ、風の勇者リーズは黙ってレイを見つめるのであった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる