4 / 10
第1話・直行直帰の小説家志望
②戦闘才能・本屋
しおりを挟む
魔物の頬に、勢いよく飛んできてメリ込む靴底があった。
軽々と全速力で走ってきたギンが、そのままのスピードで地面を蹴って高く飛び、何故か無駄に横1回転をしながら魔物の頬を踏み潰した……というか、蹴りを入れたのだ。
魔物は真横に盛大にぶっ倒れ、顔面に更にギンの足が食い込む。『ただの人間風情』が、何の躊躇もなく自分ら……異形の者に物怖じせず突っ込んでくる様に、魔物らのほうが思わず物怖じした。
「よぅ、お前ら! よぅけ、そんな湧いてくるなぁ!」
魔物を下に踏みながら、太陽からの後光をバックにギンがヤケクソに叫ぶ。
書こうとしていたネタを忘れた鬱憤晴らしに、ギンは容赦なく長剣を振るった。船着き場にまとめられていた、輸入出物の野菜・果物に群がる中型の魔物を狩る。
周囲の者らは「待ってました」とばかりに、慣れた流れでギンの応援を始める。ギンより先にここに駆けつけ、魔物を相手にしていた討伐者(冒険者)らも、素早く立ち回るギンの邪魔にならないよう、観客の中にすごすごと混じる。
ギンは目が良く、魔物の動きのスキを狙うのが上手い。本人自体は、戦闘時に特に何も頭を使っていない。何も考えていない。執筆時の、一万分の一も頭を使っていない。
「なんとなく、わかるじゃないですか。『あぁ。今、攻撃したらイケるな』みたいの」
いつぞやかに、恥を忍んでギンに「何故、そんな強いのか」と尋ねた討伐者が、彼にこう返された。感覚論である。何も、参考にならない。
普通、魔物と対峙する時は『魔物とはいえ、生き物を殺す覚悟・自分が怪我したり殺されるかもしれない恐怖心、緊張感』と、総じて『勇気』が必要だというのに、ギンにはそれがない。
特に恐怖心も緊張感も勇気も何もなく、異形に突っ込んで戦える『才能』があった。フラットに向かっていって、剣を振るえた。
ちなみに、彼の事を「運動神経もいいし……すごく体育会系だね」と評すると「俺は根っからの文系です」と、とてつもなく苦々しい顔をされる。
本人は、全くもってこの『才能』をどうとも思っていなかった。むしろ「文系の陰キャ」と言われるのを褒め言葉と思っており、そう言われたいのだが……その言葉は、誰にも言われたことがなかった。
無理もない。幼少期から図書室・本屋に入り浸り、気がつけば読書をしているか物書きをしているような子ではあったが、その文系要素が霞むほどに、たまに披露するズバ抜けた運動神経の方が目立つのだ。
加えて、耳の遠いジジババが町に多い為に自然と大きくなってしまった声。癖なのか、ぱっちりした目で真っ直ぐこちらを見てくる眼力。ギンの事を「文系の陰キャ」と思っている人など、この町にはいなかった。
観衆の拍手の中に魔物の亡骸と、そこに立ち尽くす返り血まみれのギンがいた。
町人の一人がありがたそうに、そんなギンに手ぬぐいを貸す。戦闘時の怖い顔と打って変わって、ギンは華やかに笑い、礼を言った。
他にも口々に食事に誘ったり、お菓子をあげようと町人がギンの周りに集ったが、案の定ギンは笑顔でこう返した。
「やりたい事あるんで、帰ります! じゃ!」
やはり、ギンは戦闘の疲れを感じさせない走りで自宅に直行直帰した。
……が、今回は少し違った。爆速で走る帰還時に、まるで何者かに呼び止められたような『ただならぬ本の気配(?)』を感じ、思わず足を止めた。そこは、馴染みの本屋の一つだった。
あまり大きいものではないが、前の店主が出版関係者と知り合いだったので、レアな本がしれっと積まれている事があったりする侮れない本屋だった。
掲げられたのぼりを見て──なるほど、自分が立ち止まらされた理由がわかった。
この世界の『本』は、流通や品揃えの加減が雑である。例えば、同じ町に本屋Aと本屋Bがあったとして。仮に、本屋AがY先生の本が嫌いならそれを置かない・出版社側が本屋Aに不満があるなら、本を回さず本屋Bにだけ回す……本屋Bが配達しづらい土地にあってコストがかかるのなら「じゃあ行かねぇ」と、なったりする。いい意味で、平等ではない。
故に、この世界では一つ一つの本屋の品揃えがまちまちのバラバラだった。急に見たこともない意味不明の謎の本を見つける事もある……本との一期一会、ミラクル出会いの具合がハンパなかった。
「今日は金がない」と、後日お金を持って本屋に行っても、もう本がない……ヨソに行ってもお目にかかれない……あの本は一体何だったんだ? という悲劇は、この世界の大多数が幼少期に経験している。
新刊さん、はじめまして。既刊さん、いつか読んでやるから待っててな、とギンは本屋に積まれた本の数々に心の中で気持ち悪い挨拶をしつつ、ニコニコしながらその本屋に入った。
家の中にまだ読んでいない積み本があるので、なるべくなら、泣く泣く新刊購入は我慢気味のギンだったが『どうしても欲しい新刊』があった。
軽々と全速力で走ってきたギンが、そのままのスピードで地面を蹴って高く飛び、何故か無駄に横1回転をしながら魔物の頬を踏み潰した……というか、蹴りを入れたのだ。
魔物は真横に盛大にぶっ倒れ、顔面に更にギンの足が食い込む。『ただの人間風情』が、何の躊躇もなく自分ら……異形の者に物怖じせず突っ込んでくる様に、魔物らのほうが思わず物怖じした。
「よぅ、お前ら! よぅけ、そんな湧いてくるなぁ!」
魔物を下に踏みながら、太陽からの後光をバックにギンがヤケクソに叫ぶ。
書こうとしていたネタを忘れた鬱憤晴らしに、ギンは容赦なく長剣を振るった。船着き場にまとめられていた、輸入出物の野菜・果物に群がる中型の魔物を狩る。
周囲の者らは「待ってました」とばかりに、慣れた流れでギンの応援を始める。ギンより先にここに駆けつけ、魔物を相手にしていた討伐者(冒険者)らも、素早く立ち回るギンの邪魔にならないよう、観客の中にすごすごと混じる。
ギンは目が良く、魔物の動きのスキを狙うのが上手い。本人自体は、戦闘時に特に何も頭を使っていない。何も考えていない。執筆時の、一万分の一も頭を使っていない。
「なんとなく、わかるじゃないですか。『あぁ。今、攻撃したらイケるな』みたいの」
いつぞやかに、恥を忍んでギンに「何故、そんな強いのか」と尋ねた討伐者が、彼にこう返された。感覚論である。何も、参考にならない。
普通、魔物と対峙する時は『魔物とはいえ、生き物を殺す覚悟・自分が怪我したり殺されるかもしれない恐怖心、緊張感』と、総じて『勇気』が必要だというのに、ギンにはそれがない。
特に恐怖心も緊張感も勇気も何もなく、異形に突っ込んで戦える『才能』があった。フラットに向かっていって、剣を振るえた。
ちなみに、彼の事を「運動神経もいいし……すごく体育会系だね」と評すると「俺は根っからの文系です」と、とてつもなく苦々しい顔をされる。
本人は、全くもってこの『才能』をどうとも思っていなかった。むしろ「文系の陰キャ」と言われるのを褒め言葉と思っており、そう言われたいのだが……その言葉は、誰にも言われたことがなかった。
無理もない。幼少期から図書室・本屋に入り浸り、気がつけば読書をしているか物書きをしているような子ではあったが、その文系要素が霞むほどに、たまに披露するズバ抜けた運動神経の方が目立つのだ。
加えて、耳の遠いジジババが町に多い為に自然と大きくなってしまった声。癖なのか、ぱっちりした目で真っ直ぐこちらを見てくる眼力。ギンの事を「文系の陰キャ」と思っている人など、この町にはいなかった。
観衆の拍手の中に魔物の亡骸と、そこに立ち尽くす返り血まみれのギンがいた。
町人の一人がありがたそうに、そんなギンに手ぬぐいを貸す。戦闘時の怖い顔と打って変わって、ギンは華やかに笑い、礼を言った。
他にも口々に食事に誘ったり、お菓子をあげようと町人がギンの周りに集ったが、案の定ギンは笑顔でこう返した。
「やりたい事あるんで、帰ります! じゃ!」
やはり、ギンは戦闘の疲れを感じさせない走りで自宅に直行直帰した。
……が、今回は少し違った。爆速で走る帰還時に、まるで何者かに呼び止められたような『ただならぬ本の気配(?)』を感じ、思わず足を止めた。そこは、馴染みの本屋の一つだった。
あまり大きいものではないが、前の店主が出版関係者と知り合いだったので、レアな本がしれっと積まれている事があったりする侮れない本屋だった。
掲げられたのぼりを見て──なるほど、自分が立ち止まらされた理由がわかった。
この世界の『本』は、流通や品揃えの加減が雑である。例えば、同じ町に本屋Aと本屋Bがあったとして。仮に、本屋AがY先生の本が嫌いならそれを置かない・出版社側が本屋Aに不満があるなら、本を回さず本屋Bにだけ回す……本屋Bが配達しづらい土地にあってコストがかかるのなら「じゃあ行かねぇ」と、なったりする。いい意味で、平等ではない。
故に、この世界では一つ一つの本屋の品揃えがまちまちのバラバラだった。急に見たこともない意味不明の謎の本を見つける事もある……本との一期一会、ミラクル出会いの具合がハンパなかった。
「今日は金がない」と、後日お金を持って本屋に行っても、もう本がない……ヨソに行ってもお目にかかれない……あの本は一体何だったんだ? という悲劇は、この世界の大多数が幼少期に経験している。
新刊さん、はじめまして。既刊さん、いつか読んでやるから待っててな、とギンは本屋に積まれた本の数々に心の中で気持ち悪い挨拶をしつつ、ニコニコしながらその本屋に入った。
家の中にまだ読んでいない積み本があるので、なるべくなら、泣く泣く新刊購入は我慢気味のギンだったが『どうしても欲しい新刊』があった。
1
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-
星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』
高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。
* 挿絵も作者本人が描いております。
* 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。
* 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる