カウドゥール等(メインキャラ)の短編集

東龍ベコス

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カウドゥール

①大食い大会に参加するKさん

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 Bは激怒した。 
 たまたま寄った街での買い出し中に、こんなポスターがあちこちに貼られているのを見たからだ。

《今日のお昼頃! 大食い大会開催! 参加者さま大募集! 興味のある人は街の中央広場へレッツラゴー!! 豪華景品もあるよ!》

 中央広場に行ってみると、そこには大舞台が設置されており『大食い大会!』という看板やら何やらの飾り付けのために、多数の人で賑わっていた。

 Bは今すぐにでも大舞台の上に上がって、誰か適当にスタッフをめった打ちにしながら「食い物で、遊ぶんじゃねぇ!!!!」と叫び散らしたい衝動に駆られたが、Bはそんなに軽はずみな行動をするほど幼稚ではなかった。

 深呼吸をして、荒らぶる気持ちを落ち着かせてから「くっだらねー……」と、ぼそりと吐き捨てた。
 Bは幼少の頃、食べる物にさんざ困らされた。
 両親の顔は知らず、姉だけと近所の住人に物乞いをしたりして細々と暮らしていた。治安が悪い村に住んでいたので、せっかく手に入れた食べ物を横取りされる事もあった。

 姉が死んでからは、1人あちこちでいろいろな仕事をしたり窃盗をしたりして飢えを満たした。
 今思えばなんであんなに飢えていたのかというくらい、貧しく、飢えていた。

 ……大食い大会? 何ソレ、なんで多く食べることを競うんだ? そのぶん、どこか貧しい地域に食べ物を送れるよね?

 Bがそうぶすくれていると、荷物持ちとして同行していたKが「BさんBさん」とBを呼んだ。Kは、壁に貼られている大食い大会宣伝ポスターを指差した。

「大会の優勝商品が『2年間、東大陸内での買い物半額の権利』ですって!」
「!? えっ、何それ、すげぇ!!!」

 さっきまでの怒りが、ヒョローイとどこかへ飛んでいった。現金な俗人である。

「………つっ、ぶぁぁあ! だから、なんだってんだよっ! ムカつく事に変わりねぇよ!!」

 しかし、食物・輸入品などが豊富な東大陸で“半額お買い物権利”はお得である。
 Bは、ここ東大陸でいつか自分の店(メシ屋)を持ちたいと密かに計画していた。その「半額」の権利を使って、今のうちに土地の権利や備品なんかを揃えておきたいなぁ、と思った。

「…………Bさん」
「あ?」
「僕が優勝して、この“お買い物権利”をあなたに献上して差し上げましょうか」
「!?」

 Kの奇特な申し出に思わずBの顔がほころんだ……が、Bはすぐさま、その表情を曇らせた。

「バッ……カヤロウ! こんな、食べ物を粗末にするお遊びに参加するとか、お前、軽蔑するぞ!」

 ぷんぷん怒るBを尻目に、Kは軽やかに歩き出し、大会の受付で参加手続きを始めた。

「………! おい、K……」
 BがKを制止しようと手を伸ばすも、逆に腕をとられ、そのまま顔を近づけられた。

「あなたが得をするのなら、軽蔑結構。……あなたが食べ物を大事に思う気持ちはわかりますが、しかし、たまにはいいじゃあありませんか」

 Kが切れ長の目を細めて、妖艶な笑みを浮かべる。

「ちょっぴりその不快な気分を我慢すれば、それで“利益”を手に入れられるのですから。………ね?」
「………おい。別にLが近くにいるワケでもねぇのに、顔が近いぞコルァ……」

 Kは時折、腐っているLへのサービスとしてBにやたら接近をしたり、同性愛的な言動をしてLを大層、悶絶歓喜させる。

「おや、失礼。ついクセになっていまして」
 KがニヤつきながらBからすすす、と離れる。
「そんなん、クセにすんじゃねぇよバカ野郎。きめぇ……」

 いろいろ超人的なKが「優勝します」と断言し、本気を出すと言うのなら、きっと彼は本当に優勝するつもりなのだろう。
 Bは「食べ物大事に!」の理念と『お買い物半額権利』を天秤にかけ、まぁ、たまにはいいか、と長年の理念を捨てた。

 この時、Bは『普段、飲み食いをしない胃袋の小さい奴が、どうやって大食い大会を勝ち残ろうとしているのか』、少し考えればわかりそうな事に全く気がつかなかった。
 優勝したら、どこに土地を持とうか・家具はどんな物を置こうか、取らぬ狸の皮算用に忙しかった。



 
「う、ぉうぇぇぇぇえ……! ぇっ………!」

 現在、Bの目の前で細身の男性が大きな皮袋に向かって、こちらが不安になってくるくらい嘔吐を繰り返している。
 嘔吐が落ち着いたかと思うと、男……Kは自らの指を何の躊躇もなく、口内に突っ込み、再び嘔吐を始める。

 1回戦の『ホットドッグ対決』が終わった後の選手控え室内で、Bは後悔した。
 何故、もっと早く『普段飲み食いをしない、胃袋の小さいはずのKがどうやって大食い大会で優勝するか』という事に気がつかなかったのか。

 ……いや。薄々、気がついていたと思う。
 しかし「Kは自ら意識して消化を早く出来るのだろう」とかどうとか、BはKを「超人だから大丈夫」と楽観的に決めつけてしまった。

 結果。“超人”には変わりなかったが、勝ち抜き方がとんでもなかった。
 食べたら吐く。単純に、ただのゴリ押しでKは大会を優勝するつもりだったのだ。

「お、あ、ぁあっ……! えぅ……」
 聞くに耐えない生々しい声と音で、現実に引き戻される。

 Kはしばらく皮袋に顔を突っ込んだまま肩で息をしていたが、ふぃっと皮袋から顔を上げ、Bの方を見上げた。

「………ふふ……この調子でいけば、優勝は確実ですね……!」

 口から垂れる唾液を手でぬぐいながら、Kが不気味に笑う。

「腹に容赦なく食いモンぶち込めて、ソレを容赦なくゲロゲロ出来りゃあ、そりゃあ……優勝間違いねぇわな……」

 ちなみに、大会関係者に「試合後に吐くのはOKですか?」と訊いて一応「OK」とは言われているが、まさかこんな容赦なく毎回毎回吐き続けていくつもりの捨て身人間がいるとは、誰も予想だにしなかっただろう。

「………K、棄権してくれ」
「?! なんでですか!?」
「オレが見てられないから。……あと、やっぱり食い物がもったいない……」

 青ざめた顔のBが、悲痛な声で訴える。

「そんなぁ……! せっかく、Bさんを喜ばせるチャンスだというのにぃ……! ………あ」

 Kが何か思いついたのか、懐から小さな皮袋を取り出した。
 そして、大きなほうの皮袋内にある自ら吐いた汚物を手ですくい、その皮袋にべちゃべちゃと詰め始めた。

「ちょ、何してんの?!」
 Bが泣きそうな顔で、Kを引き止める。

「いえ……『もったいない』と、おっしゃるのなら後日“これら”を再度、食べればいいかな、と……」
「やぁめぇてぇよぉぉぉぉ~~~~!」

 BがKから皮袋を奪い取り、その中身を大きい方の皮袋の中にベチョベチョと捨て、その口を縛った。

「見てらんないよぉ~! やめてよぉ~! オレが悪かったよぉぉお~~!」
 BはKの肩を掴んで、ガクガクと揺さぶった。

「でもっ、でもでもBさんっ!」
 Kが、真面目な顔でBを見つめる。

「優勝したら、100ベルのモノが50ベルで買えるんですよ……?」
「う」
「500ベルのモノが250ベル!」
「何をそんな得意げに当たり前の事を……」
「お得ですよ! チャンスですよ?! “気持ち悪い、どうしようもない男”を犠牲にするだけで、その“お得”が手に入るんですよ?! ……お役に立たせて下さいよぉ~」

 一気にまくし立ててから、Kがしょげる。

「不器用で無知で何も出来ない役立たず野郎が、唯一お役に立てるのが“体を張る事”なのですから……だから……」
「いや……そんなコトはない……ぞ……」

 Kは一切間違った事を言っていないのだが「そうだな」と、あっさり肯定するのも可哀想なので、Bは適当に言葉を濁した。

「お前が生きているだけで……その、えーと……こう、癒やされてる、から……大丈、夫、だぞぉ……」
「……気遣って下さっているのがバレバレで、こちらの方が悲しくなってきますのでやめて下さ……あ」

 Kはパッと瞳を輝かせた後、おぞましい事を口にした。

「じゃあ、究極の選択です。……僕にフェラ●オされるのと、このまま大会を優勝されるの、どっちがマシですか?」

 ────この人、何を言っているんだろう。Bはあまりの不可解さに意識が飛びかけた。

 ……いや、実はこういう“無茶苦茶な2択”を提案されたのは、初めてではない。しかし、それが何度目だろうが、言われたら気分は果てしなく悪くなる。

「僕があなたのお役にたてる事といえば、あなたのために体を張る事か、性的欲求を満たす事しかありません……どちらが、まだマシですか?」

 嘔吐物の欠片を口の端につけたままのKが、穏やかに微笑む。………微笑みながら、Bに近づく。

「僕、最近は歯を立てずに奉仕できるようになったんですよぉ……どうです? Bさんも僕の頭をわしづかんで玩具のように扱ってみませんかぁ……?」

 Kの笑顔が怖い。目が怖い。……ちょっと待て。寄るな。うわ、ちょ。

「……待て! 待て待て待て! なんでその2択しかないの?! バカじゃねぇの?! 無理!」

 青ざめた顔のBが、部屋の隅に後ずさりする。背後には壁があり、これ以上はもう下がれない。

「……あ、“殺す”という選択肢も追加して構いませんけど……」
 Kが妖艶な笑みを浮かべながら、じりじりとBの方に向かう。

「あなたのお役に立ちたいのですよぉ……ねぇ、Bさん……」

 唇を奪われるのではないかと思えるほどに顔を近づけられ、同時にするりと自然に指を絡まれた。本能でBは「ひぃ」と小さく鳴いた。

「だぁ! わかったわかった! た……“大会で優勝”のほうでお願いします! 頑張って、Kさん!」
 Bが観念して“息も絶え絶えのエール”を送ると、Kはニコッと笑った。

「はいっ! 不肖K・L、Bさんのために優勝してまいります!」

 そのままヒャッホーイ、ワーイとKは控え室を出て行った。

 ………こんな、押し付けがましい親切なんていらねぇよ、こんにゃろう………。
 泣く寸前だったBだが「あれ? 今アイツが握ってきた側の手、って口に突っ込んでゲロゲロしていたほうの手じゃね?」と気がついた瞬間、控え室を飛び出し、廊下にある流しでKに握られたその手を真顔で洗いに洗いまくった。

 手を洗いながら、Kが以前にもこんな感じでBに2択を迫った時の事をふと思い出す。
 忘れてしまったが『何か』の選択肢と、もう1つは今のと同じ『僕に性的な行為をどうぞ』系であった。

 その時のBは多少の酒が入っており、何回も提案してくるKのその無茶な選択肢にイラついた感情のそのまま、微笑むKの鼻っ柱を殴った。
 Bは床に倒れたKの上に馬乗りになり「じゃあ、ただの性欲処理として穴という穴全部、“道具”として扱わせてもらおうかなァ」と顔を近づけ、胸ぐらを掴んでKを脅した。

 すると、Kの自虐的な微笑みが一瞬で崩れ、恐怖・嫌悪・焦りの入り混じった、泣きそうな表情に変わった。
 が、すぐさま先程までの自虐的な微笑みを作って「はい、よろしくお願いします」と、のたまった。嫌ならば、そんな自虐奉仕行為など提案しなければいいものを。

 Bは、Rに土下座してかろうじて聞き出せた『幼少期のKの性的虐待』の事情を知っている。Kが、自らそういう事に関連した話をするのは相当の苦痛だろう。精神的自傷行為にもなっているのだろう。

 Kにマジギレした事がバカらしくなったBは「冗談だ、バーカ」とKの上からどき、頭を軽くこづいた。
 せっかくの騎乗位を解いちゃうんですかぁ、とKは苦手なはずの下ネタをぼやいた。
 本当に哀れなヤツだ、と思った。今もまた、そう思った。
 

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