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カウドゥール

ナッちゃんのおやつ、しばらく揚げ玉の刑

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 お前はKさんの事を「人殺し人殺し」と蔑み、罵るが、じゃあ自分はどうなんだよ、という。
 
 
 
*******

 
「………大丈夫ですか?! 6世」
 護衛のZnが、床に尻もちをついているPに向かって大きな手を差し出す。
 Pは唇を動かさずに「ん」と発し、そのZnの手を握って立ち上がる。
 
 立ち上がったPの身に何も問題がない事を確認したZnは、ふぅ、と一息つく。
「……全く、不届き者めが……」

 そう吐き捨てながら、先程Pに見せた顔とは打って変わっての恐ろしい目つきで、Znは足元に転がる“たった今、自分が斬り殺した男”を忌々しげに一瞥する。
 一瞥してから、剣に付着した血を“死体片付け係”から受け取ったタオルでぬぐう。
 
*******
 
 P達が城の1階の外廊下を歩いていると、左手側に位置する庭園の草陰から男が飛び出してきた。
 
 そして、Pに石を投げつけた。

 Pは多少、驚きの表情を浮かべたが、それは“石を投げられた事”に対してではなく、“自分の後ろを歩いていたZnが、素早い動きで自分の左側にいきなり来た事”への驚きだった。

 Znは、普段は“いじめられドヘタレツッコミ甘党野郎”なのだが、こう見えて一応“王の護衛”の任に就いている身の者である。いざとなれば、身を呈して友……王を守る。
 Znは、投げつけられた石を左手で素早く払い落とした。
 
 何だよ、どうしたよ、と訊こうとしてZnの大きな背中ごしに、落ちる石の音・庭園で決死の形相をしている見知らぬ男を見聞きし、おぉ、守られたのかぁ、とPは今更気が付いた。
 
 狼籍者はダガーを手にしながら、何やら叫び散らしながらPに襲いかかった。
 が、Znは速やかに後ろにPを突き飛ばし、腰の剣を抜いて男のダガーを剣で叩き落とし、そのまま男の腹部を突き刺した。
 
 Pは、冷たいタイルの上に尻もちをつきながら、冷めた顔で“友が人を殺す様”を見続けた。
 


 
「殺さなくても、よかったのでは? 事情聴取したかったのに」

 Pが“片付けられていく男”を見つめながら淡々と尋ねる。それを聞いたZnは眉間に皺を寄せた。

「……あいつが叫んだ内容を聞いていましたか? あいつは、先週死刑にした罪人の身内か何か、ですよ?」
 
 男は「○○を返せ、この人殺しめが!」と叫んでPに襲いかかってきた。
 ○○、とは“全く救いようのない”罪人と決定され、先週死刑に処された罪人であった。

 更正する気概も見受けられなければ、謝罪の意思も感じられない。罪人労働所に一応は送ってもみたが「更正したい」と願う、他の罪人らに迷惑がかかってしまった。あと、Pに対しての態度も最悪極まりなかった。
 酷い言い方だが、単純に「邪魔だった」ので処刑したのだ。
 
 そんな“クズ”としか思えない奴にも、こうして報復するまでに思ってくれている人がいるとは、驚きであった。
 
「あんなクズと関連のある奴なんて、ロクな奴ではありません。生かしておくほうが、後々、面倒な事になるやもしれません。それに、事情聴取なんてするまでもありません。時間の無駄です」

 確かにそうなのだが。Pは心中、呟く。
「……なので、処理致しました、のです、が……?」

 何か問題でも……? と、Znは不安そうに困った表情を浮かべた。
 その表情は、“普段Pに妙な事でいびられている時”の弱気なZnの顔で、先程、男を刺した時の冷徹な目のZnとはまるで別人であった。
 
 いや、通常時と仕事時で顔つきが違うのは当然の事なのだが。だが、しかし。
 
 Pはおもむろに両手でZnの手を取り、じっ……と、見つめた。
 Znは「あの……?」と面食らったが、たかが手を触られるだけならと、抵抗はしなかった。
 
 
 Znのこの“大きく厚い手”は、昔はもっと華奢で、細かったのだ。
 その“たおやかで、女のような手”で、こいつは胸やけのするような菓子類を延々作り続けていたのだ。……いたのに。
 
 
 
 お前の手は、指は、こんな事をするためのものではないだろうが。
 
  
 護衛になるために剣を振るう暇があるのなら、馬鹿みたいにケーキでも作っていればいいものを。
 俺のそばでうろちょろしている暇があるのなら、昔、働いていたパン屋を乗っ取って、あのまま菓子屋にシフトチェンジしていればよかったものを。
 
 
 180cm弱の高身長のZnからは、うつむいているPの表情はあまり見えていない。垂れる、赤い前髪もそれを助けていた。
 それをいいことに、Pは普段は恥ずかしくてしないような“真面目な、悲し気な表情”を思い切り浮かべた。
 
 
 
 変わってしまった友の手をしばらく見つめたPは、次の瞬間、Znの中指を“手の甲側”に「えいっ☆」と折り曲げた。 

「ひ、ぶほわあぁぁあぁぁぁ!!!??」

 Znは慌ててPの手を振り払い、「何するんですかぁ!」と泣いた。
 
「この俺に尻もちをつかすたぁ、いい度胸しているじゃねぇか。えぇ?」
 Pは先程までの表情とは打って変わって、不敵に笑った。

「お前はクビだ。失せろ」
「!? 何でですか!? イヤです!」 

 間髪入れずにZnが拒否をする。

「ココやめて、フリルまみれの気色悪ぃケーキ屋でもやれよ」
 Pが、ぽんぽんとZnの背中を叩く。

「フリルはいらないよ! ……じゃなくて! やめないよ!?」
 「……やめるのがヤなら……じゃあ、3日間おやつ持ち込み禁止ね」 

 Pは楽しそうにそう言い放つと、“片付け係”が清掃した床を歩き、当初の目的地であった部屋に向かった。
 
「なっ………! ウソ!? だ、だって突き飛ばしたのは仕方ない事じゃないですか! ………ねぇ!」

 この世の終わりが来たかのような悲嘆の声をあげながら、ZnはPのあとを追った。
 Znにとって、おやつ抜きは“人前で大声で泣いてもいいくらい”絶望的な事であった。
 
 本当に城内の者らが見ているなかで泣き始めそうなZnを、Pは見もせずに嘲笑した。

「………じゃあ、仕方ない。100歩譲って“揚げ玉”は許可するよ」
「揚げ玉!? なんで!? 全く皆目、譲ってないよ!?」
 Znの悲鳴が “ 今 日 も ” 廊下に響き渡った。
 
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