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カウドゥール

Ze、はじめてのアイスの巻

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「口の中が、冬になる………?」
 
 めったな事では表情を崩さないはずの、5世の護衛の1人・Zeが思わず目を見開いた。
 Zeの静かな驚愕に、席でその“Zeを驚かせたモノ”の毒味待ちをしていたP5世が声を上げて笑った(王が何かを食べる前には、まず周りの誰かの毒味が必須)。
 
「ちょ、Ze……! その例えっ……! 本当に食べたことないんだね……アイスッ……!」

******

 少し前、5世とZeは××××国から罪人を引き取った謝礼として“アイスクリーム”という、氷菓子の詰まった小瓶いっぱいの木箱を贈られた。

「なんですか? そのやたら冷気を放っている白いモノは」
 Zeが、淡々とした声で5世に質問した。
 
「えっ?! アイスだよ。知らないの?」
 5世が木箱からアイスの詰められた小瓶を数個、取り出しながらきょとんとする。
 
「すみません。存じておりません」
 Zeは、丁寧に頭を下げた。
 
「まぁ、庶民の中には知らない人もいるだろうけど……Zeん家って、そんなに貧しくないのに……」
 
 Zeの本当の故郷は貧しい隣国だったが、故あってその事実を隠している。
 隣国ではなく“この国の生まれ”だと偽って城の護衛として志願した。虚偽の事実が判明すれば、その時Zeの命はない。
 
「無知ですみません」再度、頭を下げる。

「えっとねぇ、“アイス”っていうのは甘くて冷たいデザートなんだよぉ」
「………氷、のようなものですか? 甘い氷、という認識でよろしいのでしょうか」
「ん。甘い氷、のバージョンもあるけど……“シャーベット”っていうんだっけかな。どうだろう……これはアイスクリーム。えっと……“ねっとり冷たい”の」
 5世がへらりと、ゆるく笑う。
 
 ねっとり甘い、という説明でなんだかよくわからなくなったが、実際食べてみればいい。
 
 Zeは、5世から小瓶に詰められたアイスを受け取った。白いソレは、スプーンですんなりとすくえた。
 そして口に入れて、冒頭の詩のような言葉である。

*****

「本当に甘いですね……。牛乳の甘さ、ですか? 」
 まぁ、おおむね牛乳がたくさん使われているかな、という5世の言葉を聞き流しながらZeは2口、3口とスプーンを動かした。
 
「口の中でいい塩梅に溶けますね。これはすごい……」
 旨い。これは旨い。
 もう何年も会っていない弟たちに食べさせたいと、心底思った。
 
 表情が弛んではいないだろうか。Zeは静かに心を落ちつかせた。

「………おいしい?」
 5世が、メガネの奥の目を細める。
「………悪くはないです」
 
 冷たく返したが、Zeのそういう態度に既に慣れた5世は「良かったぁ」と純粋に喜んだ。
「………ねぇ、もう僕も食べていい?」
 5世がねだる。
 
 どうぞ、とZeはいつもの冷静沈着っぷりで許可した。

 5世がアイスを食べようとした瞬間、弟のPn王子が「わぁぁあ!! アイスだぁぁぁ!!」と部屋に飛び込んできて騒がしくなるのは、割愛。


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