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カウドゥール

Kをうらやましがる酔っ払いB

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「あーあぁぁぁぁ!!!! オレもKみたいなイケメンに生まれてきたかったぬぁぁぁぁぁっ!!!」

 Bが、酔った勢いに任せて店中に響き渡るような大きい声で叫び、テーブルに突っ伏した。
 酒場の客達が一斉にこちらに視線を向けてきたのでBの隣にいたKが慌てて方々ほうぼうに頭を下げる。

「………上の下じょうのげの美男様は人に頭下げてる姿もサマになりますねぇぇぇ!!!」
 Bがわめく。


 数時間前。
 Kは「雑貨屋の店員さんに告白されてしまいました……」※12年手ブロ9月6日参照※と、Bに相談した。
 すると「何ソレ?! いいなぁぁぁぁ!!!!」とBに胸ぐらを掴まれ、酒場に連行された。

 そして、こうしてくだをまかれている。
 Kはトリカブトも硫酸も洗剤もゴクゴク飲めるが、酒だけはどうも体が受け付けない(呑む事はおろか、匂いだけでも気分が悪くなる)。
 ガブ飲みしたら死ねるかなぁ、とガブ飲みしてもそんな気配は一切無いので正直、口にして何も得しない。
 未成年のBが飲酒している横で、大人であるはずのKはただひたすら水を飲んでいた。

「……くそぉう……。いいなぁ、お前ぇ……何? なんで? なんでちょっと通った店の店員に告られるの? 何したの?」
 そんな感じで、延々とBは愚痴り続けた。

「はぁ……えっと『スタイルがいい・黒髪がキレイ・お店の棚の乱れを直してくれた』……からだそうです」

 恐縮しながらKが答えると「そんな事で。そんな事で……」と、Bはブツブツと呪文を唱えるかの如く呟き続けた。

「………身長ほしい」
 Bが遠くを見つめた。

「あと10cm……いや、7cmでいい……そんでもって、Kみたく“シュッ!!”と“キラッ☆”と! “フフッ”……ってな感じに、なりたひ……」

 それは、どういう感じだ。

 と、素の口調でツッコミを入れたくなったKだったが、穏やかに「Bさんの方が、僕よりもずっとずっと魅力的ですよ」とBを諭した。

 お世辞ではなく、本音だった。
 Bは外見も悪くなく、頭の回転も早く、口が達者で頼りになる。
 家事……特に、料理の腕前がすごい。
 何も出来ない頭の悪いKからしてみたら、Bはとても価値のある、素晴らしい人に思えた。

「………んで、お前はどんな風に店員ちゃんをフッたんだっけ?」

 Bが据わった目で睨みつけてきた。Kは、酒の匂いに多少たじろいだ。
「えっと……『スタイルがよくて、髪がキレイで、棚の並びを直してくれる男性なら他にもいると思いますので、そちらをあたってください』的な」

「うあああああああああああ!!!!!!!」

 Bが再度、絶叫したのでKは再び周りにぺこぺこと頭を下げた。

「何様だ、お前ぇぇぇぇ!!!! せっかく逆ナンされたんだから、付き合っちまえやぁぁあぁん!!!」
 Bがテーブルの下の足をバタつかせる。

 あの店員ちゃん、結構かわいかったじゃん。かわいかったじゃん。と、Bが悶える。

 と、何杯目になるかわからない酒をぐいっと飲み干してから、Bはピタリと静止した。

「…………お前、人生に“女”はいらないのか?」
 急に真顔で見つめられて、テンションの落差に思わず苦笑いを浮かべる。

 が、Bからの質問にはマジメに答える。
「いらない、かと」

 女体に欲情しない。子供もいらない、ほしくない。Kは“女”に必要性を感じなかった。

 過去にとある女と一緒に暮らしたことがあるが、あれは“飼われていた”ようなものであって、恋愛感情があって一緒にいたわけではない。
 妊娠だって、向こうが勝手に自分の上に乗ってきただけである。
 その女がGに殺された時はさすがに若干、その場の空気のせいで感極まって泣いてしまったが、それで終わり。
 別に、もう、引きずってはいない。多分。

「悲しいヤツだなぁ………」
 Bに同情の言葉を言われる。

 一般的感覚である人間の少年が言うのだから、きっと自分は本当に“可哀想”なのだろう。
 しかし「女に好かれたい」だの「嫌われた」だの、そういうものに振り回されているBの方が自分にとっては、よほど滑稽で「可哀想」に思えた。

 Bは人から「好かれよう」「陽気なヤツ」だと思われようと、過剰におちゃらける節が見られる。
 適度なキャラ作りはいいと思うが(自分だってしているし)Bの“それ”はやはり過剰だ。

「そんな、いい元があるのにもったいねぇ……。オレにお前の体と顔をくれよ……」

 Bの不用意な嘆息に、Kの赤い瞳がきらめいた。
「?!  ……あっ、ハイ!!! どうぞどうぞ!!! 僕の顔の皮がほしいんですね!? 剥ぎましょうか?! 今、喜んで剥ぎましょうか!」
 Bが自分を“求めてくれた”ので、Kのテンションが一気に最高潮になった。

 Bは「しまった」と、すぐさま酔いが覚めた。
 自らのあごにナイフを突き刺し、顔の皮をナイフで削ぎ落とそうとするKに光の速さで酒をぶっかけ、押し倒し、口をこじ開けて飲ませ、死にたがりのバカ野郎を酔い潰した。

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