上 下
56 / 108

第56話 打開策

しおりを挟む
 モリスさんの義手づくりは暗礁に乗りあげた。
 当初、俺は彼が得意とするスピードを生かした戦い方を再現するべく、義手である違和感をなくそうとまず軽量化を目指す――が、これは失敗に終わる。
 軽くしようとするあまり義手の強度がおろそかになってしまい、このままでは激しい戦闘では使えないと判断されたのだ。
 
 ワイバーンを討伐するほどの腕前を持つモリスさんに、かつての実力を取り戻してもらうためには生半可な義手ではダメだ。軽量かつ頑丈なものでなくては。

 ……一応、前世の世界ではそういった金属も存在していた。とはいえ、そちらの情報に詳しいというわけじゃないので「なんとなく」程度の知識しか持ち合わせてはいないが、探せばそういう物もある。

 ただ、こちらの世界で入手できるかというとそれは別問題。
 ここまでの記憶をたどる限り、そういった都合のいい金属は発見されていないだろう。

 となればどうするか――答えは簡単だ。
 
 一夜明け、俺はこの日も素材探しのために近くの森を訪れていた。
 護衛役としてパウリーネさんとイルデさんに同行してもらい、屋敷からあまり離れないという条件のもとで素材集めを行った。

「うーん……とりあえず、手当たり次第に持っていくか」

 素材になりそうな石や木の枝などなど、目についた物を魔法庫へと放り投げていく。どれが適しているか分からないから、とにかく実験を重ねていく必要があるからな。
 いつも以上に警備が厳重で、尚且つ行動範囲も狭いことから、ロミーナのリフレッシュとまではいかなくても、外に出たことで少しは彼女の気分転換にもなったようだ。さっきから森を流れる小川でメイドさんたちと戯れており、自然な笑顔がこぼれている。

 一方、俺の素材集めに関心を持ったのはイルデさんだった。

「第一弾は不評だったようだけど……どうやら改善策が見つかったようだね。よければどんな点に注目したのか、教えてくれないかい?」
「一番はやっぱり素材ですね」

 俺の言葉に、イルデさんは首を傾げた。

「なるほど……しかし、その割には集めている素材のどれもがいつもと変わらないように思うのだが?」
「これはいわば準備段階ですよ」
「準備段階?」
「はい。今回は――素材を作るための素材集めなんです」

 そう。
 これが俺の考えだした答えだった。
 素材がないなら、その素材から作ればいいじゃないかという発想。
 昨晩、ロミーナが発した何気ない言葉が大きなヒントとなり、この答えに至ったのだ。

「適した素材がないから自分で作ってしまおうというわけか……理屈は分かるが、本当に実現できそうなのかい?」
「これを成功させなくちゃ、モリスさんの義手は完成しませんよ」

 他に素材がない以上、俺自身が作りだすしかない。
 やれるかどうかの自信は正直言ってないけど、何もしないよりはずっとマシだ。

 それから、ロミーナやメイドさん、さらにはパウリーネさんも一緒になって素材集めに力を入れていった。

 みんなも期待してくれているようだし、頑張らないとな。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい

鈴木竜一
ファンタジー
旧題:引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~ 【書籍化決定!】 本作の書籍化がアルファポリスにて正式決定いたしました! 第1巻は10月下旬発売! よろしくお願いします!  賢者オーリンは大陸でもっと栄えているギアディス王国の魔剣学園で教鞭をとり、これまで多くの優秀な学生を育てあげて王国の繁栄を陰から支えてきた。しかし、先代に代わって新たに就任したローズ学園長は、「次期騎士団長に相応しい優秀な私の息子を贔屓しろ」と不正を強要してきた挙句、オーリン以外の教師は息子を高く評価しており、同じようにできないなら学園を去れと告げられる。どうやら、他の教員は王家とのつながりが深いローズ学園長に逆らえず、我がままで自分勝手なうえ、あらゆる能力が最低クラスである彼女の息子に最高評価を与えていたらしい。抗議するオーリンだが、一切聞き入れてもらえず、ついに「そこまでおっしゃられるのなら、私は一線から身を引きましょう」と引退宣言をし、大国ギアディスをあとにした。  その後、オーリンは以前世話になったエストラーダという小国へ向かうが、そこへ彼を慕う教え子の少女パトリシアが追いかけてくる。かつてオーリンに命を助けられ、彼を生涯の師と仰ぐ彼女を人生最後の教え子にしようと決め、かねてより依頼をされていた離島開拓の仕事を引き受けると、パトリシアとともにそこへ移り住み、現地の人々と交流をしたり、畑を耕したり、家畜の世話をしたり、修行をしたり、時に離島の調査をしたりとのんびりした生活を始めた。  一方、立派に成長し、あらゆるジャンルで国内の重要な役職に就いていた《黄金世代》と呼ばれるオーリンの元教え子たちは、恩師であるオーリンが学園から不当解雇された可能性があると知り、激怒。さらに、他にも複数の不正が発覚し、さらに国王は近隣諸国へ侵略戦争を仕掛けると宣言。そんな危ういギアディス王国に見切りをつけた元教え子たちは、オーリンの後を追って続々と国外へ脱出していく。  こうして、小国の離島でのんびりとした開拓生活を希望するオーリンのもとに、王国きっての優秀な人材が集まりつつあった……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

救世主パーティーを追放された愛弟子とともにはじめる辺境スローライフ

鈴木竜一
ファンタジー
「おまえを今日限りでパーティーから追放する」  魔族から世界を救う目的で集められた救世主パーティー【ヴェガリス】のリーダー・アルゴがそう言い放った相手は主力メンバー・デレクの愛弟子である見習い女剣士のミレインだった。  表向きは実力不足と言いながら、真の追放理由はしつこく言い寄っていたミレインにこっぴどく振られたからというしょうもないもの。 真相を知ったデレクはとても納得できるものじゃないと憤慨し、あとを追うようにパーティーを抜けると彼女を連れて故郷の田舎町へと戻った。 その後、農業をやりながら冒険者パーティーを結成。 趣味程度にのんびりやろうとしていたが、やがて彼らは新しい仲間とともに【真の救世主】として世界にその名を轟かせていくことになる。 一方、【ヴェガリス】ではアルゴが嫉妬に狂い始めていて……

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...